技術は進歩する。
随分と遅くなってしまいました。
どこかで補います。
舞雷九さんは見事な回し蹴りを破亜斗さんに食らわし、破亜斗さんもまた、綺麗に壁に刺さってしまった。
『玉座の間』でも決めたように、綺麗に刺さるには何がコツでもあるだろうか。
「さっさと起きなさい!このバカ弟!!いつまで寝てるの!起きなさいよ!!」
「あのー、舞雷九さん?これ以上は流石に命の危険が生じますよ。幾ら金剛の防御力を誇る『重装甲士』でもヤバいんじゃ……」
舞雷九さんは右手にダガー、左手にナイフを装備している。
それを破亜斗さん目掛けて投げたり、ぶっ刺したり、斬りかかる。
スキルも併用しているようで、目で追えるのは残影くらい。
もし、気のせいでなければ。
舞雷九さんが装備しているダガーは『劇毒匕首』。
斬れ味抜群の優れもの。防御力の一部を無視・軽減するアイテム固有の能力を持つ。
ナイフの方はレア度が高くなく、大して強くもないが、『防御力突破』・『防御力破壊』の効果がある。
要約すると、防御系職業に特化した装備である。
自分の血の繋がった弟なのに、この容赦のなさ。流石は舞雷九さん。
「大丈夫です。心配には及びません。愚弟でしたら、このくらいでは死にはしませんので。
……死んでも蘇りますし、構いませんけど、……」
「舞雷九さん、なんか最後凄いことをさり気な~く言った気がしたけど、気のせいかな~。」
「ナポリタンさん、何か言いました?」
「いえ、なんでもないです!」
舞雷九さん、恐るべし。
システム上の権力なら、大臣の中では下から数えた方が早いけど。社会的立場ならトップ3に食い込める程の猛者。
ギルドマスターにして、国王であるとにかくラーメンさんも、彼女には強くは出られない。
「はっ!今、川の向こうに婆さんが手を振っているような夢を見た。」
「破亜斗さん、取り敢えずこのポーションを飲んで。その後、全力でその夢を忘れてなかったことにして。」
「申し訳ありません。愚弟が迷惑をかけた上にポーションまで貰って。」
「いえいえ、うちの領の特産品なので。まだまだ大量にありますし、ポーションの使用が可能かを実験したかったので。
HP回復しました?どのくらいですか?」
「う~ん、ゲームの時と大して変わらないな。」
「それは良かった、ではさっきの話の続きをしましょう。
オレは横領なんでしてねぇぇ!!!」
「分かった、分かったから。申し訳なかったから。」
破亜斗さんはただただ平謝りすることおおよそ10分間。
「分かりました、その謝罪を受けましょう。」
「にしても、うちの国ってそんなに余裕あったのか、全然知らなかったわ。」
「正確に言えば唯一余裕があるところですね。それ以外はてんで駄目ですから。」
「やはり、プレイヤー数が……」
「元からその話は短期間で解決できるものではないとのことでしたので、一回置いときましょう。
予算をいきなり三倍にしたい理由を述べてください。」
「ああ、うちの艦隊って、ルーンを彫ってエネルギーを行き渡らせるんだろう?それがちょっとな。」
「えっ、ルーンが使えなくなったのでしょうか!?それは一大事です!!三倍と言わず、十倍でも構いません!必要とあらば、百倍でも掻き集めましょう!!!」
(もしそんなことがあったら、この国は滅んでしまう。きっと帝国と連合に呑み込まれるに違いない。それは避けなければ!)
「だから、違うって。逆だよ、逆。」
「はて、逆と言うのは?」
「聞いて驚くなよ。戦艦のメンテナンスをいつものように終えて。俺はルーンの開発をしてた。」
戦艦の魔導動力炉からは、凄まじい程のエネルギーが生み出される。
どれ程凄まじいかと言うと、戦闘力が上の中プレイヤーでも突っ込まれたら半殺しに遭うくらい。
そこから生み出される莫大なエネルギーをルーンで戦艦の隅々まで行き渡らせる。
故に、ルーンの開発やルーンを更に多く彫れる技術はいつだって王国の最重要課題だった。
だったというのは、これから起きる革命的出来事により、解決されるからである。
「ルーンを彫って実験している時、急に彫れるルーン数が多くなった。
いや、多くなったと言うのは語弊がある。制限が完全になくなった、と言った方がいいだろう。」
主人公と舞雷九さんは目玉が飛び出る程見開き、口は卵丸々一個入れてもなお余裕がある程ポカーンと開いていた。
この状態が数十分続いたという。
数十分後。
「「マジでええぇぇえぇぇぇぇぇ!!」」
戦艦章はもう少し続きます。
出来れば次話で終わらせます。