宿場町 2
路地裏に佇んでいたのは、美女。
紛れも無い、美女。
エリスとかラフィとかとは違った、成熟しきった女性。
だから、美女。
美少女じゃなくて、美女。
俺が覚えているのはそれだけだった。
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「〜きろ、起きろって!」
「痛ったぁ!」
ばちんと頬を叩かれて、無理やり夢の世界から連れ戻される。
体を起こすと目の前に背の高いグラマーな女性が立っていた。
この人は俺が気絶する前に出会った人。
確かだきtーー
「そうですよ。セリリューがこの方に抱きついたのが悪いんです」
「会って数秒で抱きつくなんて、あの時を思い出しました」
なんなんだこのお二方。
俺の心を読んでいらっしゃる。
そんな特殊能力持ってたのか。
そう思わざるを得ないくらい、考えていたことを言い当てられてしまった。
気絶前を思い出し、恥ずかしくてうずくまって一人悶える。
「なあ、私のこと探してるっていうの、お前さんたちだよな」
「うーん、探しているのが貴女かはわかりませんが、私たちの言葉が話せて、ここ一帯の地理を知り得ている人は探しています」
「あー、それだ。私はアーガレオンが喋れて、ここいら、もっと言えばここから東にある国のことまで知ってる」
「まあ、貴女だったのですね! なかなか探しても見つからないと思っていたらこんなところで会えるなんて。でも出会えて良かったです」
「おう、私もだ。まあ、私も村の連中に、お前を探している人がいるぞ、って言われて探してたんだが、見つかって良かった」
おうおうちょっと待てい。
なんか俺抜きに話が進んでいるようだ。
まあ、それでもいいか。
話がまとまってくれるなら異論は挟むまい。
イテテっと頬を抑えながら立ち上がる。
というか、頬よりも脇腹の方が痛いのだが。
もしかして、気絶前にもらったのって、もしかしてボディブロー……?
「おう兄ちゃん、怪我はねぇか? いきなり飛びかかられてびっくりしちまってよ。あれは兄ちゃんの方に九割がた責任があるが、こっちもおもいっきし殴っちまったし、謝っとく。この通りだ、すまん」
俺が起き上がるとグラマーな女性は頭を下げて、そのの前で手を合わせていた。
こんな挨拶は俺は知らない。
おそらく、こっちの国での謝り方なのだろう。
「こちらこそ、大変無礼なことをしてしまった。本当に、申し訳なかった」
埃を払い、衣服を整えて、頭を下げる。
ここに来て、礼儀はきちんと尽くさなければいけないと改めて思わされた。
だから、精一杯の形で誠意を伝える。
俺の頭にはこの表現以上の謝意の表現は無い。
「へぇ、兄ちゃん礼儀はなんてるんだな。女見て一瞬で抱きついてくるようなやつだからロクでもねぇ人間かと思ったが、案外そうでもなかったようだな。感心感心」
彼女は楽しそうに笑って、頭をグリグリと撫でてくる。
あんまり起こっていなさそうで内心ホッとする。
それと同時に、なんだろうか、こう、なんとも言えない気持ちに襲われる。
こう、ずっとされていたいと思うような、安心できるというか、なんかそういう気持ち。
母親の温かみというか、そんな感じのもの。
まあ、母親から温かみなんて感じたことはないが。
「いまさっきのことは、水に流してやる。これから手を組む同士だからな。ガミガミやってちゃうまく行かねえだろ」
彼女は手を離し、そう言った。
やっぱり、許してもらえたみたいだ。
「これからのお前たちの行動とか、私の行きつけの居酒屋で話すっからするから、付いてきな」
彼女はそう言って、俺たちが元来た道を戻って行った。
いざかや、というのがどんなところかよく分からなかったがそれは聞かずに付いていく。
良かったと胸をなでおろしたのもつかの間。
少女二人の間を横切った時には、
「私ならあんなことされても構いませんのに」
とか、
「セリリューって、やっぱり見境ないのね。最初に私のこと襲っておいて」
と毒づかれた。
いやまあ、最初のは毒ではないし、むしろ甘い汁だが、今は考えてはいけない。
これからに新たな不安を抱え、頭がクラっときてしまう。
「おーい、早くこいよぉ〜。置いてくぞ〜」
彼女に言われて跡を追う。
少女二人も、不満そうな目をこちらに向けながら着いてきてくれるのだった。
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「着いたぜ。おやじぃ、四人、あいてっかぁ?」
所狭しと並んだ店の一軒に、彼女は扉を開け顔を突っ込んでよくわからないことを発した。
すると、中からも声がする。
無論、俺にはなんと言ってるかなんてわからないが。
「おう、空いてるってよ。そんじゃ二階行こうぜ」
扉をあけて俺たち三人を招き入れる。
「あ、言っとくけど、上に上がる時は履物脱げよ。それがここのルールなんだ」
彼女に言われるがままに動く。
なんちゃらになんちゃらしたらなんちゃらになんちゃらという言葉をどこかで聞いた覚えがある。
確か、王立図書館の隠し蔵書室で見たことがある気が。
「わかりました」
靴を脱ぎ、二階へと上がる。
階段はミシミシと音をたてていることから、木造であることがわかった。
それも、割と昔に作られた建物。
「こんなにミシミシ言ってて、この家壊れないのですか?」
「ああ。ここは大昔からある場所でな、作ったやつの腕が良いからこんな長く形持ってんだよ」
「へぇ、そうなんですね……こんな建物を作れるのは王国にもあまりいません」
「そうだろうよそうだろうよ。なんせ、うちは技術が売りだからな」
気になっていたことを俺の代わりに聞いてくれた。
さすがラフィだ。
さすらふ。
それよりもなんでこのメイドは俺の考えを読めているのだろうか。
やっぱり、何年も付き従っているとわかるようになるものなのだろうか。
だとなんで俺にはわからないのだろうか。
やはり女の勘っていうもの何だろうか。
俺も元々女だったのになんでだろうか。
思考が堂々巡りを開始する。
頭をブンブンと振り、余計な考えを吹き飛ばす。
「どうした? そんな頭振ってっとバカになるぞ」
「無駄な考えを吹き飛ばしただけだ、気にしないでくれるとありがたい」
グラマーな女性は元に帰り二階に上がって行った。
「さて、じゃあ本題話そうか。まず最初に自己紹介をしよう。私の名前はアカシア。見ての通り、そやな女流浪人さ。今は訳あってこの村に滞在してるってわけだ。流浪人っていてもスキルなしではできなくてね、色々な言葉を話せるようにしてんだ。それと、たまにこうやってこの村に来た旅人をうちの国まで案内してるんだ」
彼女が自己紹介をしてくれる。
それによると彼女はアカシアというらしい。
そして、流浪人をやっているそうな。
有り体に言ってしまえば無職の旅人。
でも、そのスキルが彼女がただ者ではないことをうかがわせる。
「ではこちらも自己紹介を。俺の名前はセリリュー。商家の跡取りとして世界を見てこいと言われて、ただ今旅をしてる最中だ。そして隣にいるのがエリスティ。俺の妻だ。そしてもう一人、金髪の彼女がラフィ。旅のお供として、親父に付けられた世話役、というか護衛役だ」
「へぇ、商家の若旦那なのかい。そしてその彼女はあんたの新妻ってことか。おうおう、兄ちゃんも隅に置けない男だねぇ!」
アカシアは豪快に笑って話しかけてくる。
「じゃあ、安全に送り届けねぇと、お前の親に面目がたたねぇな。安心しろ、ちゃんと送り届けてやるからよ」
アカシアは、安心できる言葉を投げかけてくれる。
やはり、彼女は見た目と違わず、優しい性格をしているようだ。
こんな人と出会えるなんてツイている。
そんなことを思いながら、彼女とこれからについて話すのだった。
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彼女と話を終えて、『いざかや』と呼ばれた場所を出る。
外はもうすでにとっぷりと日が暮れていた。
とりあえず、夜を越えるために宿屋へと戻る。
アカシアと話したことを思い出す。
これからの移動について。
まず明朝に馬を借りて次の村のある場所まで行く。
そしてその村で一晩過ごし、そのまた明朝に出て国に行く。
ざっくりとだがそんな感じで話が落ち着いた。
エリスとラフィと横並びになりながら宿のある中心部へと戻る。
「感じのいい人だとは思いますけれど、ちょっと怪しいと思いませんか?」
「私は特にそんなこと思いませんでしたが」
「俺もあんまり違和感は覚えなかった。信頼してもいいと思う」
ラフィがふと発した疑問に思ったことを答える。
すると彼女はうーむと唸って、まあ、と言ってたそれから言葉を紡ぐことはなかった。
ラフィの勘はよく当たるが、今回だけは外れいてほしい。
そう思いながら、足取り軽く、宿屋に戻るのだった。
まーだまだ続くーよ、宿場町




