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間話 逃げ延びた森の中で

 ざざーっざざーっと風が樹々を揺らめかす。

 俺たちが今いるのはイービリス帝都から東に数klm(キルメトル)と離れた大森林。

 そのど真ん中。

 なぜそんなところにいるのかと言うと。

 つまりは、偽装工作を成立させるため。

 街道など道の整理されているところや、街などに入ろうものなら衛兵に見つかりかねず、俺たちを見つけた衛兵たちは事情を知りつつもしょっぴかなければならない。そうなると俺たちは目的を達成できず、本国に送り返されてしまう。

 そして、俺とラフィに待つのは国家反逆罪として処刑。

 エリスは被害者という体なので何もないと思うが。

 だから、仕方なく大森林の中を移動しているわけだが。


「ひっ……なんの音……」


 ガァーガァーと鳴く黒鳥の声に涙目になる元皇子様と。


「やはり、キャンプの時は焼き魚にかぎりますねぇ……はむはむ……セリリューももう一本いかがですか?」


 今置かれている状況をキャンプと勘違いしている元メイドがいた。

 ……焼き魚は頂こう。

 ラフィの作るものはやはり美味しいからな。


「ってそうじゃなくて!」


 そんな有象無象の考えを打ち消すように立ち上がる。

 彼女らはビクッと体を震わせる。


「なんか、さあ。もっと、こう、緊張感があってもいいんじゃないかな!? だっていまさ、俺たち帝国から追われてるって言う設定だしさ!?」

「落ち着いてくださいセリリュー」


 ラフィが宥めてくる。


「今はもう夜ですし、今森を動くのは足元も見えないので危険です。なので、明日の朝まで待った方が良いかと思われます」


 ガチ正論を返されてしまう。

 何にも言い返すことができない。


「それにエリス様も今は動けないようですし、やっぱり明日まで動かない方が得策だとおもいますよ」


 言われてエリスの方を見てみると、涙目になりながら縮こまり身体をブルブルと震わせていた。

 これまで男装させられていたとは言え、やはり年頃の女の子なのだ。

 暗い森の中で変な声が聞こえたらそれは驚きもするだろう。

 なんか小動物めいて可愛い気もする。

 いやいや、可愛いのは当たり前だ。

 あの頃、一目惚れした女の子なのだから。


「そう、だね。焦って動いちゃダメだよね。ありがとう」


 ラフィはニコッと笑って、スッと棒に刺された焼かれた魚を差し出してくる。

 どうしてただの魚なのに、彼女が焼くと美味しくなるのだろうか?

 彼女は魔法でも使えるのだろうか。

 そんな他愛のない考えが思い浮かぶ。

 でもそんなことはあり得なくて。

 ただ、彼女の想いが形をもっているだけだと。

 そう考えると、やはり、俺は報われているなと思う。

 こんな頼り甲斐のない、行動力しか取り柄のない男を信用してついてきてくれるのだから。


「ほうははひぇまひはは?」」


 ラフィは焼き魚を頬張りながらキョトンとした顔を向けてくる。

 俺は、なんでもないと答えて視線をそらす。

 自然と空へと視線が行く。

 日がとっぷりと沈んだ空。

 キラキラ輝く星々。

 この状況を綴ろうとあるものを思い出す。

 彼女に貰った大切な日記帳。

 それは今、手元になかった。

 でも、今の状況をどうしても記録しておきたかった。


「どっちかさ、なんか書くものと紙持ってない?」


 そう問うと、ラフィは首を横に振り、エリスはうんと頷いた。


「これ、使っていいわよ」


 どこからか、ペンと紙を出してくれる。

 どこかに便利なポケットを持っているのではないかと思わさせられる。

 受け取って、下に硬いものを引き、今を綴る。




<><><><><><><><><><><><><><><><>




 やあ、諸君。

 昨日ぶりだね、元気してたかい?

 ん、話し方が変わっただって?

 君たちは察しがいい。

 そうだよ。

 今の俺は、本当の自分。

 だから、昨日書いていた「私」と今書いている「俺」は全くの別物。

 同じ人が書いているのにおかしいだって?

 ああ、俺もそう思うよ。

 俺だって、まさかこんな展開になるなんて、一mm(ミリメトル)しか思っていなかったよ。

 まあ、可能性にゼロはないって話だけで、本当に起こるとは思っていなかったよ。

 本当に、今日は色々あった。

 まずはーー




<><><><><><><><><><><><><><><><>




 紙に影がかかり、ふっと視線を上にずらす。

 そこにはエリスの顔があった。

 彼女の気配にも気づけないほど、書き物に集中していたらしい。

 エリスも目をこちらに向ける。

 今気づいたがエリスの顔は目と鼻の先にあった。

 吐息がかかるくらいの距離。

 彼女が一瞬微笑んだ。

 と思っただけだった。

 すっと後ろに引いていく。

 朝はあんなに受け身だったのに、今ではすっかりそのなりを潜めている。

 女の子だし、やっぱり恥じらいはあるのだ。

 ラフィと違って。


「くしゅん!」


 ラフィがくしゃみをした。

 噂をしたら本当にくしゃみって出るんだ。

 そう思いながらエリスに顔を向ける。


「どうかした」

「何書いているのかなって」

「他愛のない日記みたいなものさ。君に貰った日記帳に毎日つけてたんだけど、お城に置いてきちゃったから代わりの紙に書いているんだよ」


 そう、と目をそらしながらエリスは俺の左斜め前の場所に戻る。

 内容は見られただろうか、見られていたら少し恥ずかしい。

 まあ、彼女とは一蓮托生。

 見られて困るような内容は書いていないが。


「さて、もう寝ようか。明日は日が昇る少し前に出るよ」


 ラフィははい、とエリスは、わかったわと。

 同時に答えてくれる。

 彼女たちはそそくさと身支度を整える。

 そして、さっき草の上に広げた布の上に移動する。

 もちろん俺も移動する。

 荷物を軽くするため、最小限の荷物しか持ってきていない。

 故に、俺たち三人、同じ場所で雑魚寝する。

 男とか女とか言っている場合ではないため致し方なし。

 ……決してやましい思いなんてない。

 ……ないんだからね!


「それじゃあ、おやすみ」

「……おやすみ」

「おやすみなさいませ」


 パチパチと爆ぜる焚き木の音を聞きながら、ゆらりと眠気に誘われた。

 明日に希望と不安を抱えて。

 でも睡魔はそんな考えを打ち消して、俺を夢の世界に連れて行った。

遅いのに加えて短くて申し訳ありません!

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