喪失と出逢いの新天地 1
その国についた時、俺はため息を吐いてしまった。
でもそれは、呆れとか、疲れとか、そういう類のものでは無くて。
ただただ、見惚れて吐いてしまったため息だった。
何故ならば。
その国は、ただただ美しかった。
アーガレア王国の街を言葉で例えるならば、剛直。
イービリス帝国の街を言葉で例えるならば、豪奢。
そして、この国の街を言葉で例えるならば、優美。
人々の営みと自然とが共存しており、初めて見る樹木がいたるところに植えられている。
「着いたぜ。ここがお前さんたちの目的地。黄昏の国、だ」
アカシアが到着報告をしてくれる。
なるほど黄昏の国とは、なかなかにあっている名前だ。
今はちょうどその時間だが、夕日に照らされる風景がとても美しい。
いつまでも見ていられるような、そんな風景だ。
「もうそろそろ日が暮れてしまいます。早く今日の宿を確保しなければいけませんね」
「そ、そうだな」
ふと後ろから声をかけられる。
その声にわれに戻り、馬を厩舎に預けに行く。
今気づいたが、この国には関所がないみたいだ。
その代わりなのかわからないが、壮麗な門がそびえていた。
その門をくぐり、街の中に入る。
俺の目的を叶えるために。
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「それにしても、初めて見るものばかりだな......どれもこれも王国にはない。文化が違うのか」
壮麗な門を潜り、街に入る。
まず目に飛び込んできたのは縦横に敷かれた舗装された道。
道の脇には店だろうか、物を店頭に出し、商いをしている箇所がちらほらと見受けられる。
でも時間なのだろうか、店仕舞いを始めている所もある。
が、そんなものはとりあえず横に置いといて、まずは今夜の宿を探す。
新天地での情報収集と、この国の長との謁見は明日以降にすることにしよう。
「おう、おめーら、私はここで別れさせてもらうぜ。私の役割りはおめーらをここに連れてくることだからな。あぁ、そうだ。あと一つだけ世話焼いてやる。この大通りを真っ直ぐ行って、3つ目の角を左に曲がったところに、縁、つぅ大きな宿屋がある。そこなら三人一人一部屋でも、頼めるだろうよ。てことで、じゃあな」
アカシアがそう言い放つ。
こうなることは分かっていたが、いざとなるとやはり寂しいものだ。
彼女とはそんなに長い間一緒にいた訳では無いが、別れるとなるとそれはまた話が別だ。
去っていこうとする彼女に待ってくれと呼びかける。
「なぜ、あなたはそんなにも俺たちに優しくしてくれるのですか? こんな何も知らない人達と一緒に行動するの、嫌じゃなかったんですか?」
「はぁ、だから最初にも言ったろ? 私はここに用事があったんだ。そして、お前さんたちはここに来たかった。目的地が同じ。だから、一緒に行動した。ただそれだけの事だ。優しいとか嫌とか、そんなんは一切関係ねぇよ」
頭をボリボリと掻きむしりながら、そっぽを向いたまま答えた。
その答えは、少し不思議なものではあったが、どういう訳か、俺を納得させるものであった。
「そう、でしたね。それでは、またどこかで」
「おう。じゃあな」
振り返ることなく彼女は歩いていった。
その姿を見送って、俺達も紹介してもらった宿屋に歩き始めることにした。
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「はぁ、とりあえず、これであたしの任務は終わりね。あとは、彼女が上手くことを成せれば完璧なんだけど」
夜になった路地裏で、女は少女のことを思い浮かべる。
それは彼女が所属する組織の要であり、最後の希望だ。
「一時の迷いに惑わされて、全てを台無しになんて、そんなことは許されないからな、レース......」
女は物憂げに空に呟く。
そして、路地のさらに奥の闇に消えていった。
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教えて貰った場所につくと、そこには聞いた通りの大きな宿屋があった。
看板には「縁」と書いてあるから間違いはないだろう。
建物の大きさの割に質素な扉を開いて入る。
「夜に申し訳ないが、三人分の部屋は空いているか」
「旅人さんでごさいますね。申し訳ありませんがただいま二部屋しか空いておりません」
「そうですか」
アカシアが嘘言った。
「わかった。二部屋とって頂けるか」
「かしこまりました」
結局二部屋ということになった。
まぁ、いつもが人部屋だったから良くなったといえば良くなったのだが。
話し合った結果、俺とラフィ、エリスの部屋割りに収まった。
これは、エリスがどうしても一人部屋がいいと願ったからそうしただけだが。
とりあえず、宿屋も決まったし、これからは腹ごしらえだ。
三人揃って宿屋の食堂に向かうことにした。
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「はぁー、疲れた。でも、ここのご飯、美味しかったですね」
「そうだね。なんというか、こう、俺の知らない味だった」
さっき食べた夕飯についてラフィと話す。
何の変哲もない、他愛のない与太話。
こんな話が出来るのも、今日が最後かもしれない。
なんてったって、明日からは一世一代の行動に出るのだから。
「今日はもう寝よう。明日万全の状態で動けるようにしとかないと」
「そうですね。では、また明日。おやすみなさい」
光を消して目を閉じる。
いつもはすぐに寝付けるのに、今日はあまり寝付けない。
気がつくと隣ですぅすぅと静かな寝息がきこえてくる。
それを聞いていたら、なんだかこっちも眠くなってきた。
目を閉じて、再び眠る努力をした。
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気がついたら朝になっていた。
昨日の夜に悩んでいたことはなんだったのかと思うぐらいに清々しい朝であった。
「セリリュー! ちょっとこっちの部屋に来てください!」
いつの間に外に出ていたのか分からないが、廊下からラフィが顔を出した。
向かった先はエリスの部屋。
ラフィに招き入れられ、入ってみると、そこには誰もいなかった。
その代わりに、紙切れがひとつ。
ベッドの上に置いてあった。
"セリリュー、ラフィ、ここからは、私は一人で行動する。事後報告になって、ごめんなさい。 エリスティーゼ"
紙切れにはそう書いてあった。
それは俺を動揺させるに事足りて、しばらくなんにも考えられなくなった。
俺はどうすればいいのだろうか。
エリスは何を考えているのだろうか。
謎が一気に増えて俺を押しつぶそうとする。
気が遠くなる。
目の前が、真っ白になった。




