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間話 エリスティーゼ・フィアリリー 2

「なにか、奴からされましたか?」

「体を舐められるとか、逸物をあてがわれるとかですかね」

「もう少し早く貴女のことを迎えに来れてればこんなことにならずに済んだのに……」

「そんなに気落ちしないで。わたしの純潔は守られたのだから、それでいいわよ」

「そう、ですか……水浴びは着くまで我慢なさってください」


 体に纏わりついていた男の唾液が乾き、なんとも言えない気持ち悪さに襲われる。

 今わたしは、ローブに体を包まれながら馬車に揺られている。

 湯浴みはどこかへ着くまで我慢だそうだ。

 まあ、耐えることはわたしの得意分野であるからあまり関係ないのだが。

 ガタンガタンと車輪が揺れ、木製の荷車に直に衝撃が伝わる。

 ちょっとばかし痛い。


「本当はこんな馬車で貴女様をお運びいたすのは気がひけるのですが、まさか貴女様があんなところにいるとは思わず……申し訳ないです」

「だから、そうなんどもなんども肩を落とさないでください。わたしは、そんな顔よりも笑ってる顔の方が好きですから」

「……なるほど、まだ十にもなられていないのに、本当によくできたお方だ。あの女が危惧しただけのことはある」


 時折、というか初めて会ってすぐに敬語が使われ始めたことに違和感を感じたが、何かわけがあるのだろうか。

 それよりも最後の、あの女、が誰を指すのかが気になる。

 まあ、それは後々わかるだろう。

 そんなことを考えていると、頭にうっすらと靄のようなものがかかってきた。


「私どもの隠れ家まではまだ距離があります。なので、おやすみなされますか?」

「そうするわ。もしよかったら、膝を貸してくれない?」

「私のでよかったら、どうぞ」


 勧められた通り、少し仮眠をとることにする。

 その隠れ家とやらについたらきっと起こしてくれるだろう。

 そう思いながら、泥土に飲まれるように眠った。




<><><><><><><><><><><><><><><><>




 ふと目を開けると、そこには女性が立っていた。


 綺麗なドレスに包まれ、長いブロンドの髪、でも、顔は靄がかかって伺うことはできない。


 その女性は周りから敬われる存在のようだ。


 彼女は一人きりになって、前へと歩き出した。


 無意識にわたしは彼女のことを呼び止める。


 なぜそうしたかはわからない。


 わからない、だけど、そうしなければいけない気がした。


 でも、彼女は振り返ることはない。


 振り返る素振りすら、しない。


 わたしは、その場にへたり込む。


 その心に残ったのは、虚無感と、絶望だった。




<><><><><><><><><><><><><><><><>




「つきましたよ、起きてください」


 優しい声に起こされる。

 目を開けると、そこにはたわわな果実が実っていた。

 否、大きな胸であった。

 彼女から感じたものは、ここから発せられていたのだろう。

 膝枕をお願いしてしまったのもこれが原因だろうか。


「狭い屋敷ですが、どうぞ上がってください」


 馬車を降りた場所にあったのは、大きな屋敷だった。

 周りを木々に囲まれて隠れるように佇むそれは、まさに隠れ家の名に相応しいものだった。


「大きな屋敷ですね」

「まあ、広さと立地だけが取り柄の屋敷です。貴女様をここに招待することになるとは思いませんでした」


 そう言いながら彼女は扉に近づいていく。


「みんな、帰ったよ!」


 屋敷全体に広がるように大きな声でよびかける。

 すると、返事は返って来なかった。


「あはは。ここにいるやつら、みんな個性が強いというか、マイペースなんです。多分他の任務に従事中かな、帰ってきてないってことは」


 彼女はポカンとしてるわたしに屋敷の説明をしてくれる。

 それによると、ここには彼女の他にもだれかいるみたいだ。


「とりあえず私しか居ないですけれど。ようこそ、歓迎致します。私の名前はアステリーぜ・グレインワース。クリスティ・クロレース元王女殿下」


 彼女に()()()()を呼ばれてハッとする。

 今まで忘れていた名前。

 なぜ忘れていたのかと思うほど、忘れられないその名前。

 そう、私は、この国の、王女だった。




<><><><><><><><><><><><><><><><>




 屋敷前に言われたことが全然頭から離れないが、取り敢えずはその考えは後回しにする。


「クリスティ様、取り敢えず、湯浴みをしましょうか」

「そう、ね」


 後回しに、そう思ってもやっぱりどこかで考えてしまう。

 アステリーぜに話しかけられたが、上の空で返してしまう。

 動かず、ソファに座って上の空でいたら、女性に立たされて浴場に連れて行かれる。


「取り敢えず、身体中に付いた汚い唾液を落としますよ。まだ子供でわからないかも知れませんが、女性はいい匂いでいないといけないんです。女性=いい匂い、なんですよ」

「そんな理論、ないですよ。ふふっ」


 変な理論に笑ってしまう。

 浴場について羽織っていたローブを外される。

 そして、アステリーぜも己の服を脱ぎ捨てた。


「さ、いっしょに入りましょう」


 ということで、アステリーぜと一緒に浴場に入ることとなった。



 さっとお湯を浴びて、広く大きな湯船に浸かる。

 こんな大きな湯船に浸かったのはいつ以来だろうか。

 あまり記憶が定かではない。


「驚きましたよ。まさか貴女様があんなところにいたなんて」


 ちゃぽんとアステリーぜがとなりに入ってくる。

 そして、後ろに回り込んでわたしの体を優しく包み込んでくれる。


「でも、貴女様を見つけることができて、本当に良かった」


 アステリーぜはわたしを抱きしめる力を強める。

 ……思い出した。

 アステリーぜの家のグレインワース家は、王族直属の暗部の内の一家だった。

 そして、彼女は、わたしが王族だった時にお世話をしてくれていた人だ。

 思い出したが取り敢えず言わずに、この優しい時間をゆっくりと過ごした。



「さて、私たちの組織について説明しますーー」


 浴場を後にして、ある程度時間を置き、アステリーぜはこの組織について説明してくれる。

 この組織は、レジスタンス、つまり国家に反旗を翻した者たちの集団らしい。

 最終目的は国家転覆。

 王族の粛清と公国化、だそうだ。

 その理由は、女王の政治になったからと言って、結局は腐るものは腐ると。

 今の政治は腐っている、だから新しく刷新すると、そういうことらしい。

 そして、私のことについても詳らかに教えてくれた。

 わたしの名前はクリスティ・クロレースということ。

 ある理由で廃嫡されたということ。

 そして、その理由とは、頭がキレすぎるから、だそうだ。

 大きくなった時に政治の転覆を図られると考えた女王がとった策だそうだ。


「以上になります。そして、全てを伝えた上で問います。クリスティ様、私たちに協力していただけないでしょうか?」


 アステリーぜは真剣な眼差しでわたしに問いかけてくる。

 それは、つまり、国家転覆の片棒を担いでくれ、ということだ。


「いいですよ」


 わたしは短くそう答える。

 なぜなら、断る理由がないから。

 今になって、全ての記憶を思い出した。

 わたしは、女王(あのひと)の身勝手によって、廃嫡された。

 復讐とまでは言わないが、何か一矢報いたい。


「ありがとうございます」


 彼女はそう短く答える。

 そこからは、これからの動向について説明してくれた。

 その夜は、誰も屋敷を訪れるものはいなかった。




<><><><><><><><><><><><><><><><>




 ゆっくりと目を開ける。

 そこは見慣れない天井。

 今はあの元王子と行動を共にしてるんだと思い出す。

 眠くはないが眠い振りをする。

 単に、彼らを騙すための演技。

 スッと立ち上がり、彼女に会いに行く。

 私は、少し重い足を引きずりながら、彼女の待つ酒場へと歩みを進めた。

短くまとめようと思ったらめちゃくちゃに...

これでも良くしたつもりなので、誤字脱字等ありましたらお教え頂けるとありがたいです。

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