ランチ、オゴリマス。
「それ、俺のーーーー!!」
その声の方へ向けば、そこにいたのはクリクリした大きな目のかわいい感じの少年である。
「マオー。これ、君の?」
そう、この人物こそが国が「総力」を挙げて追っている魔王本人だ。
名前は、マオー・ツォイゼ。 17歳、実は 5代目。
情報では次の町に居るはずだったのだが、偶然にもここで再開する。
「そう!」
クリファーナの問いに、力強く頷く魔王。
「でも、これ、モンスター斬ったら出てきたよ?」
悪魔の微笑みのようにも見えるクリファーナの笑顔。明らかに「知ってます」と言うクリファーナの笑みに、魔王は不満をぶつける。
「黙れ賢者!知ってるくせに!財産隠すためにモンスターの幻つける技法くらい知ってるだろ!」
「そんなの聞いたことなーい」
「嘘言うな!サイーナ知ってたお前が知らないはずないだろ!」
「だから、どういう事よ?」
さっきからなんの話をしているのだと、仲間はずれは嫌いらしいミレフィオリは、口を尖らせた。
「だから、そのモンスターは俺の貯金箱なの!」
「貯金箱ぉ?」
ミレフィオリの素っ頓狂な声が森に響き渡る。
「そう、俺だって出張で色々物入りなの!ずっと持ち歩くと危ないし、この辺銀行ないから、隠すためにモンスターの幻つけといたの!」
「なんですって?私、襲われたのよ?もう少しで殺されるところだったのよ?」
「んなわけねーよ。こいつは温厚なんだ」
「私だけじゃなく、この女の人も襲われていたわ」
「こいつは誰も襲わねーよ。食料もいらないし。本当の生物じゃないんだ」
「でも現にねぇ!」
「俺の魔法が失敗してるはず、、、、、………ないよな?」
最後の方は不安になったのか、なぜかハリスとクリファーナに顔を向ける魔王。
「その女の人は何をしたかは知らねーけど、確かに追われてたよ」
「マジで?」
それに驚きを隠せない魔王。
「うん。でも、スキップでゆっくりだったけどね。女の人の形相は凄かったけど…」
それを聞いた魔王は、どうも納得したようだ。
「ああ、きっとこの人何したか知らないけど、気に入られちゃったんだな。遊び相手と思われたようだ。かわいそうに。あんな顔だから怖がられちゃって…」
「じゃあ、そんな形相じゃなくて、かわいく作っとけよ」
「ペットにして可愛がられたらどうするんだよ。申し訳なくて、元に戻せない」
「人情あふれる魔王だな」
「そう思うなら、早く返して」
そう言って、魔王はエメラルドを返せと手を出した。クリファーナは、手の中のエメラルドを見て、
「でも僕たち、とってもお腹が減ってるんだよね」
「知るか、そんなもの。国から毎月、お金支給されてんだろ?」
「もう、底つきかけ」
「そんなの、お前らの財政管理がなってないだけじゃないか」
うぐ、と勇者一行が詰まったが、そこはさすがのミレフィオリ嬢、反論ならお任せである。
「何言ってるの!私達の旅の資金は国民の皆様の血税から出ているの!魔王が存在しなければ、こんなとこに税金使わなくてすむの!と言うことは魔王が原因じゃない。だから、もらったってなんの文句もないはずよ!」
「どんな理屈だ!お前らが勝手に追ってんだろ!俺の知ったことか!存在否定しやがって!人権侵害だ!訴えてやる!」
「悪人に利用する法律はないわ!」
それに反論するのはなぜか魔王ではなく賢者クリファーナ。
「そんなこと言ったら、悪人を裁く法律も適用されないよ。それに悪と善の境なんて曖昧で……」
「そうだ、そうだ!」
ヤジを飛ばすがごとく、魔王は少しクリファーナの後ろに隠れて同意する。
その間にハリスはクリファーナの手からエメラルドを取り、光に透かしていた。その間にも魔王は必至に抗議する。
「俺だって、汗水流して働いてんだ!そのエメラルドだって、ムソー鉱山から流れ出た河から必死になって探し出したんだ!俺達家族が 1年は過ごせる金額だぞ!」
自力で掘り当てた上に、そんな人情話聞かされたって!と思うが、ミレフィオリは若干の感銘を受けたようで、言葉を何も発しない。それに代わるように、ハリスが呆れたように言った。
「でもな、マオー。これ品質悪いぞ。その上、オイル処理はヘタだしカットも悪いし。どこに持っていく気か知らねーけど、1年過ごせる金額にはならないぞ」
その言葉に唖然として発する言葉もなくなった魔王。
「これ換金するなら、お前の耳に付いてるピアス売った方がいいぞ」
「そんなことできるか!!って、なんでお前そんなに宝石に詳しいんだよ」
「俺、宝石大好きだから♪」
「強欲勇者が!」
それをクリファーナが溜息をついて聞いていたのは誰も知らない。
そこまでは人情噺にほろりときていたミレフィオリが、ハリスのうんちくで勢いを取り戻した。
「だから、もらっといてあげるわ。安物を高額で売りつける悪党は見過ごせないわ。私が、責任を持って処分してあげるから」
「そう言う問題じゃなくて、とりあえず俺のなの!」
「黙りなさい、魔王。特に目立って悪い事しないからって言っても、あなたが魔王であることに代わりはないの。悪人の財産は没収。没収先は国。国によって派遣されている私達のものになっても、なんの問題もないのよ。ハリス、クリファーナ、やっておしまい!」
むちゃくちゃな屁理屈に近いセリフに、魔王が反論する余地はどうやらないようだが、勇者と賢者はそれに応じない。
「やだ、めんどくさい」
「お腹減って力でない」
自分ですればいいと言わないのは、魔王がミレフィオリに勝てる相手ではないからだ。
「あんた達ね!このエメラルドが手に入れば、ご飯にありつけるわよ!」
飯! 正義の味方は、空腹という本能の魔に侵される。
ハリスとクリファーナは、目を合わせた。
「首謀者は姫さんで問題ないか?ついでに、強盗の罪は着せられないよな?」
「そう、僕たちは脅されただけ。それに、僕たち以外誰もいないし、大丈夫じゃない?」
その台詞に、魔王は慌てて講義する。本気で勇者と賢者に歯向かってこられたら堪ったものじゃない。
「天知る地知る我ぞ知る!誰も見てないからって、悪いことしちゃいけません!魔が差したでは通用しません!」
なぜか魔王に説教される勇者パーティ。だが、人間目の前の欲にはなかなか勝てない。
「とりあえず、ハリス斬りつけられる?」
「人に刀は向けない主義」
「じゃあ、僕がするね。魔王、悪いけど、僕今から[追跡火炎]使うから、よろしく」
「使う魔法で脅さない!何、その本気度満載の嫌な魔法」
「でも、ご飯」
ついに、魔王は勇者達に根負けした。
「分かった、分かったから。飯くらいおごってやるから、そのエメラルド、返して」
「ほんと?やった」
ハリスとクリファーナは、したりと喜ぶが。
「7日間よ」
ミレフィオリがすかさず声を出す。
「7日も?おまえら無駄遣いしすぎ。国のやつらなのに質素倹約できてないな。血税はどうした」
ハリス達は元々反論する気はないが、ミレフィオリは何も言えなかった。
「一食だけで勘弁しろ。俺だって生活があるんだ」
文句を言いつつマオーは、先にたって歩き出した。
ちなみに、モンスターに襲われていた(?)女性は誰にも構われず、 1時間後に目を覚まし、自分の村で吹聴したが、時折現れる異形の顔のモンスターの性格は村ではよく知られており、引っ越ししてきたばかりの女性の話は誰にも信用してもらえなかったそうな。
fin