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玉砕大尉の異世界英雄伝  作者: ペコちゃん
第1章 異世界に転生を命じられました。
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公爵家の娘

7歳になる前にちょっとした出来事があった。リットラント家で女の子を一人預かることになったのだ。


預かるのは、母方の8歳になる従姉らしい。母の家系はオースティンで2つしかない公爵家の一つだ。当然、リットラント家よりも家格も上だ。


領地も王都に近く、王家との関係も深い…そんなお嬢様が、こんな田舎の親戚に預けられる理由はなんだろう?


考えているとセロアが察して、教えてくれた。どうやら公爵家で家督の相続争いが起きているらしい。


オースティンは周辺国との関係がよくないので。家臣が領土を分けて弱体化するのを禁止している。


そのため、激しい相続争いが珍しくない。兄弟同士で暗殺することもあるらしい。


相続争いで劣勢の弟は、争いに関係のない、リットラント家に嫁いだ姉を頼ったらしい。


理由はどうあれ、楽しみだ。女の子とはいえ同年代の子供と会うのは初めてだからだ。今までリットラント家は親戚付き合いはおろか、貴族同士の付き合いもほとんどなかったからだ。


父のゼロフィスは一人っ子だし、母の実家は王都に隣接するように領地を持っている。リットラントは周りを山脈に囲まれており、 王都から来るとなると往復で3週間はかかる。とてもじゃないが、気軽に行き来出来る距離ではない。


そんな訳で、王都の状況も聞けるかもしれないし、同世代の子供と会うのは楽しみなのだ。ただ、問題もある前世も含めて子供の頃に女の子と遊んだことなどないことに気づいたからだ。(どの様に接すれば良いのだろう?)


まぁ、セロアに聞けばいいだろう。と考えてセロアの方を見る。すると珍しく難しい顔をしていた。


その夜、セロアにどの様に接すればいいか聞くと、

「王都に近い貴族ほど面子を気にします。プライドも高いので、下手に刺激する様な言葉や誤解を招くような言い回しは避けた方が無難でしょう。後は、丁寧に接すればラースなら大丈夫です。勝手に向こうが好意を持ってくれます。」

セロアが僕の顔を見ながらそう言った。


そんなものなのだろうか?まぁ、セロアがそう言うのだから間違いないだろう。


ーーー2ヶ月後、お嬢様を迎える日が来た。屋敷の玄関にある馬車寄せに2台の馬車が止まっている。


1台の馬車は見たことないような見事な宝飾で飾られていた。その馬車から、一人の女の子が降りて来た。


髪色は輝く様なプラチナブロンド、瞳は緑に近い青色だった。まるで陶磁器の様な肌と相まって、まるで芸術作品の様な雰囲気がある。


やや切れ長の目が、気が強そうな印象を与えるが…同時に8歳の少女とは思えない気品を感じさせる。


リットラント一同が見惚れていると、美しい少女は見事な立ち振る舞いで、名前を名乗った。


「ミリィティア ハインラントです。これからよろしくお願いします。」


「これはこれは、ご丁寧にありがとう。リットラント家の当主ゼロフィス リットラントです。長旅でお疲れでしょう。自分の家だと思ってお寛ぎ下さい。」


ゼロフィスが挨拶した後、母、僕の順番で挨拶を済ませて、夕食を一緒に食べた。夕食時にセロアを紹介したが、お互いに特段の反応はなかった。


3日後、身辺の整理が終わり落ち着いたことを確認してから、ミリィティアの所に遊びに行った。


コンコン、ドアをノックし入室の許可を求める。

「はい、どうぞ」

ドアをゆっくりと開ける。そこには客間のソファーに座り読書をしているミリィティアの姿があった。

「ラース殿どうしました?」


「いえ、ミリィティア様に王都のお話しなどを伺いたいと思いまして。」


「そんなに、畏まらないで大丈夫よラース殿は弟とみたいなものだから…ミリィでいいわ。」


クスッと笑いそうな、柔らかい雰囲気ーーもう少し、気軽に話しても大丈夫そうだが…油断は禁物である。


「わかりました。お言葉に甘えてミリィと呼ばせていただきます。私のことはラースとお呼び下さい。」


「はい、ラース…そう言えば幼いのに魔法を使えるらしいわね。まだ貴族院学校に入ってもいないのに優秀なのね。」貴族院学校は10歳から15歳くらいまでの貴族の子息が通う学校だと聞いているが、詳しくは知らない。


「いえ、師に恵まれただけで、まだまだです。」


「謙虚なのね。そういう子は好きよ。」


「あ、ありがとうございます。」真顔で好きと言われると思わず、照れてしまう。


「もし、よければだけど…私に魔法を教えてくれないかしら?」


ーーーん?思いもよらない言葉だったが…断る理由もない魔法を通じて仲良くなれるかもしれない。


「いいですよ。喜んで教えてさせていただきます。」

にこやかな笑顔で、そう答える。その時、ミリィの頬が朱に染まった様に見えたは気のせいだろう。


ミリィとの話しは、非常に有意義なものであった。幼いにもかかわらずオースティンや他国の政情に詳しく、状況を客観的に、正しく理解しているようだった。


熱中して話していると、ミリィのメイドが声をかけてきた。

「ミリィティア様、ラース様、もう遅くなってまいりました。そろそろおやすみの時間でございます。」


ふっと時間を見ると、かなりの時間が経っていることに気づいた。あまり長居するのも失礼かと考えて御暇することを伝える。

「そうですね。ミリィと話すのが楽しくてつい長居してしまいました。」


「そう、楽しい時間は過ぎるのが早いわね。ラース…毎日でも遊びに来てね。」


「わかりました。おやすみなさい。ミリィ」

そう言うと、ミリィの部屋を後にした。



朝ーー今日の剣術は父ゼロフィスが教えてくれる日であった。いつものように、明るくなる前に起床し準備体操と基本訓練を済ませてゼロフィスを待つ…。


いつも一人で来るゼロフィスが、今日は二人で来た。


「おはようございます。お父様…どうしてミリィも一緒なのですか?」


それを聞いたゼロフィスは質問には答えず、不思議そうな顔をしてから、からかう様な口調で言う。

「いつ愛称で呼び合う仲になったんだ?」


ミリィは愛称だったのか…


「昨日からです。ゼロフィス伯父様。ラース…おはよう。」黙っていると、ミリィが返答した。


「なるほど!ーーミリィ殿は、見学だ。剣術の訓練を見てみたいと言われたのでお連れした。」

ゼロフィスはすべてわかった様な顔をしてニヤリと笑った。おそらく全くわかっていないだろうが…


「そうです。王国の守り手と言われるリットラント騎士の剣術をぜひ拝見したいと思いまして、特にゼロフィス伯父様は剣鬼と言われ、王都でも有名な方ですから。」


おそらく言葉通り、興味があるのだろう。

「ははは、剣鬼などとはお恥ずかしい。今は週に2、3度こうして息子(ラース)に剣術を教えるくらいで、一線を退いた身…幼い息子にも追い越されそうです。」


ゼロフィスは、脳筋だが腕は確かだ。リットラントは剣で名を上げた家名であり、ゼロフィス自身も15年前の帝政マーシアとの戦争に参戦し、若年ながらも勲章をいくつも授賞する様な活躍をしたと聞いている。


そのため、王族の血が薄いにも関わらず、辺境伯として広大な領土を持つことを許され、公爵家の娘まで嫁にもらっている。この国の騎士としては完璧な経歴の持ち主だ。


そして、何より強い。この世界の剣の技術そのものは前の世界に劣る。


理由は、それを補って、なお有り余る身体能力の高さがあり、鎧の上からでも当たれば致命傷になるからである。この世界では急所や鎧の隙間を狙ったりしないのだ。ただそれは、この世界の剣士が弱い訳ではないのである。


現に、前世からの蓄積もあり、技術については、ゼロフィスと互角の僕はゼロフィスに一度も勝ったことがない。最後は必ず力で押し負けるのだ。


まぁ、成長すれば、僕の身体能力もこちらの世界に合わせたものになるはずなので数年後には追いつけるはずだ。


「それでは、ミリィ殿も見学していることだし、お前も準備体操は終わっている様だから、今日は試合形式で行うとするか。」


そう言うと、ゼロフィスは木剣を構える。一切スキは無いように見える。


ただ、リーチに差があるため、間合いを詰めなければ勝負にならない。機を見て一気に踏み込み、ゼロフィスに向けて木剣を振り下ろす。


それを読んでいたゼロフィスは、斬撃を木剣で受け、僕の踏み込んだ足を、足で思い切り払った。


足を払われて、バランスを失いそうになるが、勢いを利用して回転し、ゼロフィスの背中側に回る。


(チャンス!)そのままの勢いで、ゼロフィスの背中に木剣を突き立てる。それを、後ろを向いたままで寸前で躱された。それと同時にゼロフィスの後ろ蹴りが僕の下腹部を捉えた。


(ぐっ、後ろに目でもついてるんじゃないか?)


そう思いながら、自ら後方にジャンプして蹴りの威力を逃がす。それと同時に間合いをとる。


再び、大きく踏み込む。それに合わせてゼロフィスの足払いが飛んでくる。


ただ、その技はさっき見たばかりだ、踏み込んだ足を少し上げて、ゼロフィスの足払いをよける。そして、ゼロフィスの空振りした足をよけた足でそのまま払う。柔道で言う、燕返しという技だ。


ゼロフィスは見事にバランスを失い、よろける。隙ができた所に、追撃を加える。ただ、一撃目は寸前で避けられ、二撃目、三撃目は余裕を持って木刀で避けられた。


一回、間合いを取ろうと下がると、ゼロフィスが一気に攻勢に出てきた。その斬撃すべてをギリギリで躱す。


ただ一向に斬撃が弱まる気配はない。これではジリ貧である。


一かバチかゼロフィスの振り下しに対してカウンターを合わせる。次の瞬間、お互いの木刀が肩を打つ直前で止まっていた。


「参りました。」そう言って頭を下げる。


残心をとっていたゼロフィスもそれを受けて、残心を解く。


「え…引き分けじゃないの?」ミリィから疑問の声が上がる。


確かに一見すると、引き分けに見えなくもない。決めようと思えば、ゼロフィスはいつでもきめられたのだ。ただ、ミリィが見ていたので僕に見せ場を作ってくれたに過ぎない。



最後の打ち合いにしても、木剣を止めるタイミングが全く異なっていた。


真剣勝負で止めずにそのまま振り下ろしていたら、僕の剣がゼロフィスに到達する前に、僕は真っ二つになっていたであろう。


一瞬の差だが…それ程の差があったのだ。完敗だ。やはり強い、僕が知る限り前世を合わせてもこれ程強い剣士はいなかった。最強の剣士と言われても信じてしまいそうだ。


そう考えていると、ゼロフィスがミリィに向かって話し始める。

「どうです?とても7歳とは思えない動きでしょう。親バカだと思われるかもしれませんが、後2年もすれば私どころか近衛騎士団の団長ですら追い抜くでしょう。」

いや、ただの親バカだった。


「それ程ですか。すごいのですね。ラースは」

ミリィは心底関心したように言った。


「いえ、過大評価です。自分などまだまだです。」


その後はいつも通りの、形中心の訓練を行い終了となった。


朝飯を食べ終わると、ミリィの部屋に呼ばれた。着替えて、身なりを整えてから部屋に向かう。


話の内容は魔法を教えてもらいたいとの依頼だった。周辺の案内もかねて、外出して教えることにした。


「わぁーすごいわね。」

ミリィが目を輝かせている。目の前には大きな滝が流れ落ちている。


「この辺りで一番大きいルーン滝です。綺麗でしょ」せっかく自然豊かなリットラントに来たのだから、雄大な自然を楽しんでもらおう。


その後は、様々な花が咲き誇る場所やリットラント市街地が見渡せる高台などに行った。どの場所も、楽しんでもらえたようだ。


夕方に差し掛かる頃に、七色湖と言われる透明度の高い湖に来た。

「わぁ!!」ミリィらしく無い子供らしい声が響く。ミリィの視線の先には、透き通った湖面に沈みゆく夕日があった。湖面は角度によって色を変えていく、赤や紫、青と本当に美しい。


「すごい!湖面の色はなんでこんなに変わるの?」

嬉しそうにミリィが言う。


「この辺りは、オリハルコンの鉱床があるそうです。オリハルコンが水に溶け出すことで魔力が干渉して、この様に7色に輝く様に見えるらしいですよ。」

オリハルコンは魔力に干渉されやすい金属で、魔力を通すことで性質が変化することで知られるこの世界独自の金属だ。


「ヘェ〜、ラースはなんでも知っているね。」


「いえ、たまたま先生が教えてくれた内容だからですよ。」


「ふふ…ラースはそればかりだね。魔術も剣術も大人顔負けで、知識まであって、おまけに謙虚だなんて完璧すぎるわよ。わたしが無理して大人っぽくしているのが、なんか馬鹿みたいに思えるわ。」


「過大な評価感謝いたします。ハインラント様」冗談ぽく、馬鹿丁寧に挨拶をしてみる。


「やめてよ。ラースが丁寧に接してくれるのは嬉しいけど…私はもっとラースと親しくなりたいの」


「それは、嬉しいですね。それではどうすればいいのですか?」


「だから、敬語はやめて対等に話をしたいの。」目を逸らし、頬を赤くしながらそう答えるミリィ…


「……わかりました。ミリィ、それじゃあ、これからはそうするよ」

少し考えてからそう答えた。


日が沈んだ後も、七色湖は不規則に星の様にきらめいて美しかったーー

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