密談
「プロセリアの軍部が僕を暗殺しようとしているのはご存知ですね。」
そう言った瞬間、マーチ殿下は首を傾げた。
「…どういうことだい?まさか、自分の国を訪れた賓客を暗殺しようとしているなんて恥知らずな真似をしないだろう。」
「…国境付近で我々を襲った盗賊は、盗賊にしては数が多すぎます。それに統制が取れすぎていました。あれは、間違いなく軍属です。」
「まさか…そういえば地方貴族の領地で歓待を受けた時に、君はいくつかの料理に手をつけなかったね。普段残すことなんてないのに…」
「はい、替えがきく地方貴族の領地で僕に出された料理には高確率で毒が入っていました。もっとも、王都や有力貴族はそんなことしませんでしたが…」
「なぜ、その時に非難しなかったんだい?格好の材料だろうに…。」
「…非難しても実害がない以上は知らぬ存ぜぬで済ますか…よくて地方貴族や現場指揮官を処罰して終わりですよ。今回の会談での対応を見る限り、でっち上げだと言い始めてもおかしくない。」
「泣き寝入りかい?珍しいね。」
「まさか…そのつもりならこのタイミングで話しませんよ。」
「なら、どうするんだい?」
「奴さん達は、僕を生きて帰すつもりが無いようです。虎の子の魔法騎士と精鋭の近衛騎士団約三千で待ち伏せして襲撃するようです。」
「な…プロセリアの魔法騎士と近衛騎士団といえば、南部大陸中部では常勝無敗と言われる精鋭中の精鋭だろ?大丈夫なのか?」
「まぁ、プロセリアが相手にしてきたのは、ポルーセやマール・ベルッテなどの少数の常備軍を持たない都市国家連合です。マーシアの魔術兵団に比べれば大人と子供ですよ。」
「ただ、あの時は数千の兵を率いていたんだろ。今回は戦えるのは君を含めて十名だけだぞ。自信があるのは結構だが…300倍の戦力差だぞ…過信すべきではない。」
そういえば、マーチ殿下は僕が2万相手に一人駆けをやったことを知らないんだな。あれも千の兵を率いて行ったことになってるのだ。
「向こうが手を出してきたら、その時点で遠征軍2万がプロセリアになだれ込みます。プロセリア軍は南部派閥軍と戦法は変わりませんし、規模も大体似たようなものです。負けようがありません。」
「まぁ、君がそう言うならそうなのだろうね。」
マーシア殿下はどうやら僕の指揮官としての能力を評価しているらしい。盗賊との争いも僕一人で片付けたが、マーチ殿下は盗賊の規模について興味を持たなかったので伝えていなかった。
もしかしたら、一兵士としても強いが、小規模の盗賊を倒す程度の実力だと思われていてもおかしくない。まぁ、それはそれで問題ないか。作戦に支障がなければ無理に理解させる必要はない。
「逃げることも可能な作戦をたてますので安心してください。逃走のため襲撃時に一緒の馬車にいる必要があります。一台の馬車は囮に使いますので、初めは別々に乗り、タイミングを見て、気付かれないように、そちらの馬車に飛び移ります。」
「わかった。あの子も乗せていいかい?」
「構いません。怖がらせてしまうかもしれませんからね。」
本当はマーシアが領地奪還作戦を行おうとしているとの情報も掴んでいるが…そちらの対応は父上とシルビア殿下に任せている。
あちらは勝つ必要はないのだ。こちらが終わるまで時間を稼げばいいのだから、それほど難しくないはずだ。
あくまで予想だが、こちらで勝てばマーシアは無理をせず撤退するはずだ。なんせ、フラレシア王国と南部植民領で対立しており、西部群島でもルーイ群島国家と武力衝突が起きたらしい。
まぁ、どちらも間接的ではあるが、支援しているのは我が国だ。マーシアがプロセリアに支援しているように…我が国もマーシアと対立しそうな国に支援している。
マーシアが疲弊してくれれば、こちらは体制を整えることができる。できる限り、こちらが有利となるように立ち回らなければいけない。
上手くいっていると言っても、国力ではあちらが何倍も上なのだ。油断するわけにはいかない。
さて、先は長いが…まずは目先のプロセリアを片付けるとしますか。馬鹿にどちらが上か分からせる必要がある。




