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玉砕大尉の異世界英雄伝  作者: ペコちゃん
第6章 王の剣
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内戦⑤

「どうぞお掛けください。マーチ殿下」


16歳という年齢の少女を怖がらせないように、努めて優しく話しかける。


とはいえ、気遣いは不要かもしれない。こちらの勧めに一拍間を置いて…殿下は威風堂々と上座に座った。なるほど…王族らしい王族だ。


マーチ殿下を見る王族の特徴である銀髪蒼眼の美しい容姿をしているが、格好が…些か通常と違った。なるほど…貴族同士の夜会にも舞踏会にも出席しない変人で有名だったが…。


「マーチ殿下はいつもその様な格好をされているのですか?」


「ん?まぁな…気に入っている。貴殿にとってはドレスより見慣れているのではないか?」


この世界の貴族令嬢は華やかな女性服を着ていることが多いのだが…マーチ殿下が着ているのは男性王族が軍事式典で着るやや華美な軍服…儀礼服と言った感じだ。


癖のない髪を後ろでまとめており、長身なので遠目で見れば華奢な男に見えなくもない。ただ、デカイ胸のせいで女だとすぐに分かる。


「ハハ…戦場(いま)はそうですが、王都に3人の妻がおりますので、ドレスも見慣れていますよ。それで…なぜ、殿下が使者としていらしたのですか?」


総大将の娘が使者で来るなんて聞いたことがない。


「そういえば、シルビア姉様も降嫁されたのだったな。あのシルビア姉様を惚れさせるなんてどんな男かと思えば…男装の麗人と言われても信じてしまいそうな美しさだ。意外だ。」


質問には答えずそんなことを言う。男装の麗人?貴女にだけは言われたくないが…


「妻…シルビア殿下とは、従姉妹でしたか?」


実を言えばシルビアからマーチ殿下の保護を要請されている。いっそのこと…このまま保護してしまうか?


なんでも、マーチの母は陛下の妹らしい…母君はすでに亡くなっているらしいが…まぁ、王族の結婚相手なんて王族か公爵家だろう。なんの不思議もない。


「ああ、陛下は私の伯父にあたるな。小さい頃は、シルビア姉様によく遊んでもらったものだ。」


「妻から聞いております。あの妻と遊ぶのは骨が折れたのでは?」


「ハハ…確かに、魔術ごっこではよく虐められたよ。私も得意な方だが…全く敵わなかったな。君は剣術を用いない魔術戦ですら姉様を圧倒するらしいね。グリフォンの調伏といい…本当に人間かい?」


やや呆れた様に言う。シルビアのおまけの様にグリフォンを挙げたが、マーチ殿下にとってはシルビアに勝つことがそれほど信じがたいことなのだろう。


「シルビア殿下にもよく言われますが、ただ単に得意分野の差かと…僕は戦闘面に特化しているところがありますからね。」


「その点は、姉様も相当だろう。ただ、意外だな…」


「何がですか?」


「いや、先程も言ったが姉様を娶ったのだ…しかも聞けば姉様意外にもミリィティア殿ともう一人を娶ったと聞いている。そして、戦場での活躍だ…どんな厳つい男かと思えば、少女と見紛う美しさで…声も驚くほど優しげだ。とても昼夜問わず、領民を虐殺している者とは思えない。」


虐殺?身に覚えがない…軍事施設と物資倉庫を中心に攻撃しているし、領民への被害は最小限に食い止めている。


領都が戦場となるのであれば、多少の犠牲は出てしまう。物資を焼けば民家に延焼するかもしれないし、城壁を破壊するときに大砲の砲弾がそれて民家を破壊することもある。


犠牲を完全になくすことはできない。それにこの世界の兵隊と民間人の区別が曖昧だ。攻城戦になれば全員が協力して戦争に当たる。必要があれば武器を持って攻撃もしてくるだろう。それを攻撃して、虐殺と非難されるいわれはない。


「虐殺は心外ですね。僕は必要な作戦しか行っていません。ヴェルセン王家こそ、領民を盾にするような籠城を選択せず、野戦にて決着をつければ良かったのです。」


「本来はそのつもりだったようだ。ただ、貴殿の進軍が思いのほか早く、対応出来なかったのだ。」


確かに、相手が市街に立て籠もってしまうとは思わなかった。数で上回っているのだから何処かで野戦を仕掛けてくると思ったのだが…情報を絞りすぎたかな?まぁ、こちらからすれば些細な問題に過ぎないが。


「まぁ、確かに予想外ではありましたが…それより、殿下は何を目的にいらしたのですか?」


ここで、互いの人道主義を話してもしょうがない平行線だ。


「なに…稀代の名将と謳われる貴殿と一度ぜひ話してみたくてね。後は、領民を保護してもらいたい。」


「…僕が稀代の名将とは光栄なことで…保護についてですが…我が軍はすでに領民の被害を最小限にする努力をしております。必要があれば、今後も対応していきます。」


子供のごっこ遊びに付き合っている暇はない。とりあえず、建前を口にして…帰ってもらおう。


「不十分だからこうして足を運んだのだ。領民の完全な保護のため、領民に攻撃することを禁止し、徹底してくれ。」


もしかして、現場の混乱を狙って言ってんのか?戦争中に領民の完全な保護など不可能だ。そんな指示を徹底すれば、それを突いた攻撃をされる。民間人に扮して奇襲したり、治療のため受け入れた民間人に攻撃されたりする。


もちろん、明らかな民間人は保護しているし、攻撃の対象にはしていない。必要であれば食料も配給している。


ただ、訓練された兵士はそれだけ費用がかかっている。これからマーシアとの戦争も控えている。貴重な兵を危険に晒すことはできない。命は平等と口で言えば簡単だが…今は違う。


「今は戦争中です。自分達の安全を担保できない状況で、領民の完全な保護は難しいかと…もちろん十分に配慮しますが…」


「それではダメだ。そもそも貴族や兵は国民と王のためにあるのだ。兵の安全はその次であろう。」


あ…ダメだコイツ…温室育ちすぎて理想論を言えば話しが通るものだと思っているのだ。確かに、王族の娘が温室の中で理想論を言えば、きっと心地よい返事が返ってくるだろう。


ただ、現実はそうではない。理想論は圧倒的に有利な立場でなければ成り立たない。今の状況は有利でもそれをやれば兵の損害が増す。理想論を振りかざして無理した挙句に、より酷い結果をもたらすことの方が多い。


「そう言われましても…これ以上の対応はできません。それに、些か不用心過ぎませんか?敵の本陣に大将の娘が来るなんて…人質にされてもおかしくないですよ。」


平和ボケしたバカ娘を少し脅すつもりで、そう言った。


「それは良い案だ。戦争が早く終わるならそうしてもらおう構ない。どちらかにしろ…この戦い万に一つも勝ち目はないのだから…」


バカなのか豪胆なのか分からなくなってくる。勝てないと分かっているのだから、状況が理解できるくらいの頭はあるはずだ。


さて、厄介な事になった。もう、さっさと帰ってもらいたい。


「いえ…それには及びません。殿下を保護することはあっても、我々は人質などに利用することなどありません。」


「そうだろうね…領民の安全より効率を優先する君が、簡単に勝てる相手に、そんな外聞の悪いことをする訳がない。」


まるで、見透かしたように言われた。少し癪に触るが…同時に納得した。確かに、人質も効率的なら行っただろう。例えば、マーシアの侵攻時に敵の有力者を人質にとれば有利になるならそうする。勝つために手段なんて選ばない。


善悪というより、僕は意外と効率しか考えていないのかもな…前世でも無意味な玉砕には腹立たしさを覚えたが、必要があるなら玉砕も仕方ないと考えていたしな。どちらも死ぬには変わらないのに…


それでも、自分の部下に命じるのは嫌だったし、他に選択肢があるならそちらを選択するがね。


「それなら、お話しは終わりです。さぁ、お嬢さん…護衛をつけて送らせていただきますので、お帰りください。」


短い間で、僕の本質を突いたのは見事だが、いつまでも賢しい子供の相手をしている訳にはいかない。


「お…お嬢さん?…歳は一つしか変わらないだろう…子供扱いされるのは心外だな。そうだね…もうじきか…もう少しだけ話そう。」


いや、帰れよ!ん?もうじき?なんの話しだ?


「残念ですが、こちらも予定がありますので、お引き取りを…」


と言った瞬間にドアがノックされる。


「なんだ?」


「ラース将軍閣下…ヴェルセン家から使者がいらしていますが…どういたしますか?」


ん?どういうことだ。ああ、なるほどな。


「…良い、ここへ通せ。」


このお嬢ちゃん…勝手に来たんだな。まぁ、そりゃそうだね。


「夜分に申し訳ない…なっ!…ラース将軍閣下にお話しが…ヴェルセン家の名代で参りました。バイロン ミルラントと申します。」


使者は応接テーブルでお茶を飲んでいるマーチ殿下を見て、言葉が詰まったがなんとか最後まで言うことができた。


「なるほど…貴殿が正式な使者というわけか。で?用件は?」


「我が主人であるメルーボ ヴェルセン殿下は、閣下に降伏をしたいと考えております。」


「それは賢明なご判断だ…僕も自国の兵や民に剣を向けることに胸を痛めていたところだ…条件は?」


もちろん飲むか飲まないかは条件を聞いてからだが


「条件を申し上げます。一つは現在の所領と財産の三分の一を保証する。二つ目は投降した貴族の安全の保証、三つ目は領民の保護と食料の供出でございます。」


ふーむ、爵位と土地が残ると南部派閥が復権する可能性がある。それでは、ダメだ。


「なるほど、反乱軍が降伏し、武装解除すれば三については確実に保障しよう。ただ、一、二は保証できない。貴族の地位や財産は王陛下のみが保証できるからだ。それに、反乱軍に参加した貴族の所領は国家に帰属することになり、今回の反乱に参加した貴族は王族を含め裁判を受けてもらう。早期に降伏すれば、減刑も期待できるが、完全な安全の保証はできない。」


「な…それでは、ほぼ無条件降伏ではないですか…我が軍はまだ主力を温存しておるのですよ。状況を汲み取っていただきたい。戦えば長期戦となりますよ。」


「なるほど…そう言う見方もできる訳だ。なら、もう一回戦ってみれば身の程がわかるかな?ただ、その場合は、裁判までの安全の保証も一切出来ないがね。」


少し強めに伝える。


「…一度持ち帰ってもよろしいですか?あと、殿下をお返しいただきたいのですが…」


「かまわない。ただ…停戦はしない。降伏するなら早めに決断することを勧める。あと、こちらとしてもマーチ殿下は早く連れ帰ってほしい。」


マーチを返すことに同意した僕の言葉に、使者は安堵の表情を浮かべたが…


「私はここに残るぞ。ラース殿…貴殿が領民の保護を実施してくれるか見届けねばならん。」


この言葉で絶望した顔に戻る。


「な…何をおっしゃるのですか!お嬢様…一緒にお戻りください!ご当主様もご心配なされています…何よりこれでは人質に取られたようなものです。」


「心配はしなくていいのでは?ここは、今の領都で最も安全な場所だと思うが?」


「ですが…敵地でございます。ヴェルセンの自覚がお有りならお戻りください。」


「 断る!」


いや…帰れよ。


結局…使者は早く戻って伝えねばならないと、説得を諦めて帰ってしまった。どうすんだコレ?

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