内戦④
「馬鹿な……」
夜通しグリフォンの夜襲を受け、物資の過半が焼け市街や重要施設にも甚大な被害を受けたとの報告を聞き、メルーボ ヴェルセンは茫然とそれだけを口にした。
これでは、籠城戦は困難だ食糧が保たない。早急に降伏せねば、各貴族と各門の指揮官に伝令を…そう考えたとき新たな報告が入る。
「報告します。敵主力が北門に到達、守備隊指揮官に対し降伏勧告が行われました。現場指揮官のバルトロ ファーン子爵閣下は即座に降伏勧告を拒否し、弓と遠距離魔法による攻撃を実施し、交戦に入っています。」
「馬鹿な!なぜ、降伏勧告あったことの連絡がこちらに来ないのだ!」
怒鳴られた伝令は一瞬硬直するが…なんとか返答する。
「…申し訳ございません。ただ、戦う前の降伏勧告は形式的に行われることが多く、現場指揮官が無視又は拒絶で返すことが通例となっております。」
物資の状況を知らない。現場指揮官ではそう考えても仕方ない。なんせ、数ではこちらが上回っているのだ。
頭では分かっていても刻一刻と悪くなる現状を考えれると、伝令の首を飛ばしてしまいたい衝動に駆られる。
「…ご苦労だった…退がれ。援軍を準備する。」
なんとか耐えて、伝令を下がらせると…
ドォオオオオオオオオン!ドン!ドォオオオオオオオオン!
まるで山が崩れたような音が領都全体に木霊する。今度はなんだ…何が起こった!
すぐには情報は入ってこない。混乱した情報網からなんとかそれらしい情報得ていく…敵の新兵器による攻撃で城壁が破壊された。一撃で城門が吹き飛んだ。など不安になる要素しかない断片的な情報を聞かされた挙句に…全貌が把握できたのは、既に北部市街地を占領されたあとだった。
北門に配置していた5千の兵の損耗は5割を超え全滅判定…残りは敗走してきたが、負傷者が多く…いや負傷していなくとも兵としては使い物にならない。すでに彼らは心が折れていた。
メルーボは完全に放心状態で椅子に腰掛けていた。本来、ラースがグリフォンの調伏などという偉業を成さなければ、オースティンの王座に座っていたのはベルフェルムではなくメルーボだったはずである。
それが今や、反乱の首謀者として断罪されようとしている。…降伏を申し出よう。最悪…幽閉されて一生を終えるかもしれないが…一族の延命も求めなくてはならない。
亡き妻の忘れ形見である娘のことが頭に浮かぶ。あれはベルフェルムの姪に当たる…いくら反乱軍の指揮官が父親でも殺しはしないだろう。どのタイミングで降伏すべきか…とりあえずオルタラント公を呼ばねばならないーーーー
「殿下…入ります。」
ノックと共に入ってきたオルタラント公は憔悴仕切っていた。恐らく、昨日から働き詰めだったのだろう。
「…で、どうすべきか?私は降伏を考えている。」
もう、どう頑張っても戦争を長引かせる程度のことしかできない。数こそ討伐軍と互角以上だが、あと1、2回戦えばその数すら怪しくなる。
「…それは、時期尚早かと…まだ大半の兵が残っております。全軍で当たれば、何らかの戦果を出せるやもしれません。」
もはや、作戦でもない。ただの希望を口にしたオルタラント公に不思議と怒りは湧いてこない。
「すでに分かりきっておる。糧食は空撃により焼かれ、保って一週間…それ以上は無理だ。…我々は敵の空撃にも未だ対応できていない。そして、今日の新兵器だ…全軍で当たればどれほどの被害が出ると思う?さらに…後方にはハイラント公の率いる1万の援軍がいる。数の有利など遠になくなっておる。」
「…しかし、このまま降伏すればどの様な待遇になるか…」
「分からないな…ただ、もはやそれしかない…。」
ズヒューーーーーーーーーーーーーン…ドオン!
また、敵の空撃が始まった。今夜も眠れそうもない。そう思った時、家令が慌てて入室してきた。
「た…大変にございます!」
「…どうした?空撃が開始された事なら見れば分かる。他に何かあったのか?」
「お嬢様が…お嬢様が…」
それを聞いて不安になる。娘がどうしたのだ?少なくとも本邸は防御魔法がかかっており安全なはずだ。
「お部屋にいらっしいません!…領民の保護を直訴するため敵の本陣に向かうと書置きが…それと、お嬢様付きの使用人もおりません。」
「…な…なんと…馬鹿な」
眠れないどころか、落ち着く暇さえ与えられないようだ。報告を聞いたメルーボは、あまりの事にしばらく放心状態になったが、すぐに正気を取り戻し…討伐軍指揮官ラースに使者を走らせるのだった。




