内乱①
王国歴1085年…グレン王家当主ブルーフの密告により、南部貴族の武力蜂起と同盟国プロセリアとの内通が発覚した。
これによりオースティン王は南部征伐の勅命を下し、ラース将軍を総大将とする征伐軍3万がベルモント王家領に集結した。
王都では勅命と同時に、近衛隊による南部派の貴族及び内通者の逮捕が行われ、王都における南部派閥の排除に成功する。
これに反発したヴェルセン王家及びオルタラント公爵家を中心とする南部貴族は、王政府の不当な取り扱いに対し武装蜂起して対抗することを宣言。これに呼応する形でプロセリア軍もオースティンとの国境付近に進軍した。
「どうなっている!ブルーフの奴めここまで来て裏切りおって!」
ヴェルセン領最大の都市ノアのヴェルセン家本邸にて、メルーボ ヴェルセンは大声をあげた。本来、武装蜂起した上で王都を占領し、交渉を有利に進めるつもりであった。
国を二分する訳にはいかないことは、メルーボ自身も分かっており、まずは、交渉が行われるはずだった。王が勅命を下し、いきなり討伐軍が組織されるなど理解の外であった。
「…ブルーフ殿下は臆病ですから…先陣をきって王都を占領することに怖気ついたのでは…しかし、厄介ですな…こうなっては戦うしかありません。」
メルーボに答えたのは、オルタラント公 ウェルズである。
「北部のバカ共は分かっているのか?今、マーシアが侵攻してくれば…我が国は終わりだ。リットラントの山猿はそんなことさえ分からんのか?」
マーシアでは、ラースとセロアが開発した魔術による諜報活動が行われており、軍を動かせば容易に把握できることを知らないメルーボは、今回の討伐軍編成を無知ゆえの蛮勇と捉えていた。
「…我々は後には引けません。初戦で勝てば向こうも交渉に乗って来るはずです。」
「そうだな…早期に有利な条件で妥結できるようにしたい。こちらの軍はいつ頃に編成できる?」
「はい、すでに主力となる2万は集まっております。各地の軍が集まるのは3日後を予定しております。総数は4万を超える予定です。」
「…数ではこちらが上だな。奴らは既に編成を済ませているが、奴らが北上するのを待ち…ガロン高原で迎え撃つことにしたい。奴らはいつ頃ガロン高原に進軍してくるか分かるか?」
「編成したとはいえ、物資が揃うのは3日か4日かかるはずですので、進軍開始が早くとも4日後日…ベルモント領からガロン高原までは休みなく行軍しても一週間はかかるかと思われます。実際はこちらの勢力も抵抗しますので…到着は二週間以上後でしょう。」
「なら、4日後、各自が到着後に軍議をとりおこない、作戦を説明しよう。…物資の準備も急げ。」
「分かりました。…早速手配いたします。」
2日後ーー
「一体どうなっている?山猿がグレン領に侵攻したぞ。さらに、グレン領軍と周辺の貴族までが王に恭順を示し、山猿の軍に兵を供出した…進軍は4日以上かかるのではないのか?」
「バカな…そんなはずはありません。昨日であれば勅命から3日しか経っておらんのですぞ…何かの間違いでは?」
最小限の物資で移動してくるのか?ただ、そんな事をすれば…物資が足りなくなる…事前に準備していたのか?それにしても早すぎる。
「間違いない。いくつもの諜報から同様の報告があがっておる。山猿がグレン領からさらに北進しているとの情報もある。」
「 …どんな手を使ったのか…ただ、ガロン高原到着までにはまだ時があります。こちら側も既に3万の兵が集まっておりますし、明日には有力貴族は全員集まりますので、明日の夜に軍議を開き、4日後の明朝にガロン高原に出発すれば問題ないかと…。」
「そうだな…物資の方はどうなっている?」
「既に全ての物資を倉庫に搬入してあります。当面の戦で必要な分は馬車に積み込んでありますので…編成が整えばすぐにでも出発できます。」
「そうか、なら良い…。引き続き頼むぞ。」
3日後ーーー
「ど…どうなっている!これは…どういうことだ?」
報告書を見て取り乱すメルーボ…
「落ち着いてください。殿下…」
「これが落ち着いていられるか!一週間以上かかるはずの行程がどうやれば3日で進軍できるのだ?何かの間違いではないのか?」
「私もそう思い早馬を走らせ確認しました。確かに距離にして50kmの位置に敵の主力が布陣しています。」
「いったい…どうなっている?早馬を走らせている諜報より少し遅い程度の速度だぞ。何の警戒もせずに進軍しているということか?途中にいたこちら側の貴族は何をしている?」
「…分かりません。」
放っていた諜報が次々と姿を消しており、討伐軍が通った後の情報が全く入ってこないのだ。
「どうするのだ?今から進軍してもガロン高原に到着するのは奴らの方が早い。有利に進めるつもりがこのザマだ。」
「いえ、もはやこうなってはここ都市ノアで迎え撃つしかないかと…。」
「馬鹿な!我が領都を戦場にせよと言うのか?」
「仕方ありませぬ…敵の進軍速度の理由が不明なまま下手に進軍すれば、空になった領都を狙われかねません。それに、攻城戦になれば守る方が遥かに有利です…。」
「ぬぅ…分かった。各貴族を集めよ…軍議を開き迎え撃つ準備をするのだ。」
「畏まりました。早速手配を…」
その深夜ーーー
ザヒューーーーーーン…ドゴン!ザヒューーーーーーーン…ドゴン!
まるで巨大な何かが落ちたような轟音で目が醒める。
「何だ!この音は!」
ドタドタドタ…バタン!
「殿下…大変でございます。」
ノックするのも忘れて衛兵が衛兵が慌てて入ってくる。
「何だ!いったい何があったのだ?」
「グリフォンにより上空から攻撃を受けております。本邸は魔術による防御を施しておりますが…破られる可能性もあります。危険ですので本陣へ避難を!」
「な…くそ…すぐに向かう。私の装備を準備しておけ。」
本陣に向かう途中、街の一角が焼けて空を赤く染め上げているのが見える。なんだ…私は何と戦っているのだ?こんな無差別に人を殺すなど…人間の発想じゃない。
「悪魔め…。」
隣にいた衛兵の口から出たその言葉が、私の耳に妙に残った。




