ラースとセロア
今日はセロアと一緒にリットラントに行く予定だ。朝早く出発するため、いつもの日課はせずに転移魔法で移動する。
2人で行動するときはセロアがリードしたがるので、セロアに任せている。まぁ、この世界では一回り以上年上だし、知識も豊富なため勉強になることも多い。
特に、庶民の暮らしを知るのはセロアからだろう。前世では庶民だったが、こちらの世界に来てからは直接に見る機会は少ないのだ。
今回は、リットラントに作ったミーア族の復興街を極秘に視察し、その後にセロアのご両親に挨拶する。結婚してたのに、一度もお会いしたことがないのは、忙しかったとはいえ流石に無礼だろう。
元々は広い山岳地帯に分散して住んでいたミーア族に充てがわれたのは、リットラントでも自然が豊かな場所であるブーマ湿地だ。土壌としては豊かだがやや排水の弁が悪い場所だ。
湿気が多く小麦の栽培には向かないため、人口が少ない地域だったが、ミーア族の主食の芋類や一部の雑穀はよく育ち1万人が移住したことで一気に開拓が進んだ。
魔法が得意なミーア族が住んだことで、土魔法によって沼が埋められて畑に生まれ変わり、簡単な作りながら街も出来つつある。
また、狩猟の代わりに補助金を出して、家畜を与え放牧させている。今は、食糧の一部を僕の資金から融通しているが、2、3年後には自給だけでなく売買も出来るようになるだろう。
ミーア族の復興街には人族も出入りしており、人族がそれほど珍しくないようで僕が街を歩いてもあまり意識されることはなかった。
ただ、セロアにフードを被るように言われて不思議に思っていると、子供向けの紙芝居のようなものでマーシア軍からセロアとミーア族を救ったことを題材にしたと思われる話が行われている。
「ラースのことを勇者の生まれ変わりと言う人もいて、崇拝され始めていますから…控えめにみる人で英雄…戦場で戦う姿を見た人は軍神と崇める人もいるくらいです。」
それは、初耳だ。それでは見つかれば大騒ぎになるだろう。そのため、セロアは機密扱いで一般人として街に入ったのか。
それでも、街の代表会に行くと扱いは大きく変わる。出迎えた全員が跪いている。これでは、王を出迎える時にのみ行う臣下礼と一緒だ。
「ようこそお越しくださいましたラース様…復興途中ですので、大したおもてなしも出来ませんが、ミーア族一同歓迎いたします。」
「いえ、こちらこそ連絡もなしに復興の最中にきてしまい申し訳ありません。ただ、今回は可愛い妻のご両親にご挨拶に来ただけですから、お気持ちだけで十分です。それに僕に跪く必要はありません。跪いての出迎えは王族を迎える時にだけ行うものですから。」
「はい、もちろん王族の皆様がいらっしゃれば同様に対応させていただきます。ただ、身を呈して我々を守ってくださったラース様は、我々にとって王族の方と同等かそれ以上に敬うべき存在です。」
困ったもので、この認識が一般的なのだろうか?
「…ありがたい話ではありますが、それでは僕が不敬を疑われてしまいます。それに、僕がミーア族の方に求めるのは服属ではなく、友誼です。今後もリットラントとミーア族の発展のため協力できればと考えています。」
「畏れ多いことでございます。現状では我々は与えていただいてばかりですから…もし、お役に立ててこのご恩をお返しできれば、改めてラース様の良き友人となれるよう努力いたしましょう。」
「分かりました。その時を楽しみにしています。」
なるほど、今は借りがありすぎてとても対等に振る舞えないから、臣下の礼を受け取ってほしいということか…まぁ、別に敬意を持って接してくれるのはいいことだし、今はこれで良しとするか。
その後、会談も円滑に終わりセロアの家に向かうことになった。
セロアの家は復興街の代表庁舎の近くにある。ミーア族の有力者が集まる地区だ。
「名家とは聞いていたけど…立派な家だね。」
復興街では一番大きいのではないだろうか?
「ん〜?話しには聞いていましたが…こんなに立派になっているとは…この家はウチの力と言うより、ラースと結婚した娘の実家を貧しいままにしておくのはマズイと言う政治的な理由だと思われます。」
なるほど、そういうことか…
「そうなんだ。そういえばご両親には今日のことを伝えてあるんだよね?」
「はい、連絡しないと出掛けてしまうことも多いですから…大騒ぎになるのは嫌なので代表会にも極秘にするように伝えましたし、親にも周りには黙っているようにと伝えていますが…」
「そうか、代表会のことも含めて、色々と気遣わせしまったみたいだね。ごめん。」
「いえ、そもそも私の実家を訪れるなんて私のわがままに近いですし…ラースの立場ならうちの親が出向くのが普通ですので、謝るのはこっちです」
「いや、僕も早くご両親にお会いしたかった。むしろもっと早く来るべきだったと思う。」
「そう言っていただけると助かります。では、入りましょうか。おそらく、感知魔法で来ていることが分かっていると思うので」
流石はミーア族…魔法が得意な種族なだけある。ドアを開けると、2人のミーア族が座礼している。
セロアのご両親だろうか?
「ようこそお越し下さいました。ラース様…セロアの父パルセでございます。隣が妻のキャルロアでございます。このような辺鄙なところで大したもてなしも出来ませんが、歓迎させていただきます。」
「お会いできて嬉しいです。義父上、義母上…お顔をお上げください。あと、様はやめて下さい。僕は義理とはいえお二人の息子なのですから。」
「それでは、お言葉に甘えてラース殿と呼ばせていただきます。」
固いがラース様よりはましか?ミーア族の特徴だろうか…2人とも10代後半にしか見えない。80歳を超えているらしいのだが…
「…お好きにお呼びください。これは、王都のお土産です。お口に合うと良いのですが…」
「これはご丁寧にありがとうございます。どうぞ、簡単ではありますが食事の準備もしてあります。どうぞ、お上りください。」
案内に従い部屋に入ると、ちゃぶ台のような座卓に座いすが置いてあり、料理が並んでいる。
な…なんだと…米だ!米がある。料理も豆腐のようなモノや魚の塩焼きなど、まるで日本食のようだ。
「ラース様のような大貴族には、この様な郷土料理…いささか質素にすぎるかもしれませんが…」
「いえ、実はミーア族の方々がどの様なものを食べているのか興味があったので、食べられるのを楽しみにしていました。ありがとうございます。」
米以外にも醤油らしきモノがある。大豆もあるのだろうか?だとしたら最高だ。
その後、ミーア族の郷土料理を楽しみ。久しぶりの米を堪能した、




