セロアの新英雄伝
明日はラースと過ごすことが出来る特別な週末だ。嬉しいし、楽しみなのだが…少し気後れしてしまう。
ラースの結婚相手は王族のシルビア殿下に、公爵家のミリィテイア令嬢だ。本来、私の出自からすれば、生活費をもらって愛人になるか、手切れ金をもらってサヨナラするのが妥当であろう。
私が本妻の一人になれたのは、ミリィ様の影響が大きいだろう。当然、シルビア殿下自身が異種族との混血で異種婚に対して理解があったのも大きいし、ラースが私を欲したこともあるだろう。
ただ、一番はミリィ様だ…ミリィ様はラースと共に過ごした時間が私の次に長い。だから、ラースに必要になるモノをよく理解しているのだ。
確かに、才覚と立場であればシルビア殿下が一番上なのは間違いない。戦闘では近衛の魔術兵を相手に互角に戦って見せ、魔術は特定の分野に限ればラースすら凌駕する才能の持ち主だ。
私も魔術には自信があったが、遠距離支援系の魔術以外はシルビア殿下に太刀打ちできない。ラース以外では魔法の才能で太刀打ちできる者など存在しないだろう。
頭脳にしても貴族院学校を首席で卒業し、いくつもの研究論文が学術的に評価されている。王族だからではない純粋な研究者としての評価だ。
才能だけならどこをとっても完璧な存在だ。しかしである…彼女は何処までも普通な女性なのだ。ラースのことが好きで、好きで仕方なく、深い愛情のみでラースを見ている。
ミリィ様も非凡だが、秀才に過ぎない。貴族院学校もラースに続く次席と優秀で、どんなことでも一流の水準でこなす。
客観的に見れば才能の塊のように見える。しかし、ラースやシルビア殿下を見た後では、何処にでもいる優秀な人物に過ぎないのだ。
超一流、英雄と呼ばれるには少しずつ欠けているのだ。でも、ラースもシルビアも家の中ではミリィ様に逆らえない。一見して対等でもコントロールしているのはミリィ様だ。
ミリィ様も、ラースが好きで好きで仕方なく、深い愛情をラースに向けているのは間違いない。でも、それだけじゃない。
ミリィ様はラースのことを一番知っていて、ラースのためになることなら手を汚すことも躊躇わない。シルビア殿下は、正義に反することはやらないし、させないだろう。次善策を探すはずだ。
私もシルビア殿下ほどは潔癖ではないが、似たように考えるだろう。
ただ、恐らくミリィ様はそれをしない。最もラースの利益になるように、最も確実な方法をとるだろう。そう感じさせる何かがある。
今回の騒動で、私を正妻にしたのも何かラースのためになると考えたからだろう。
数年前、ラースに依存しきっていた少女が、ラース以上にラースのことを考えて行動することで、その一点において異常な才能を発揮する。それが久しぶりに会ったミリィ様という女性に私が抱いた印象だ。
それは、ラースに対する服従を意味するのではない。むしろラースという規格外の化け物と対等にあろうとするミリィ様が考え抜いて行動した結果なのだろう。
常にラースのために動くことで、ラースにとってなくてはならない存在になろうとしているのだ。
と…いけない、いけない。もうこんな時間だ。明日は朝早くからラースと出かけることになっているのだ。準備して寝るとしよう。楽しみにしすぎて、寝れるか心配だ。




