ラースの独り言2
朝の日課を終えて、シルビアとの待ち合わせ場所に転移魔法で向かう。今日はシルビアと過ごす週末だ。
転移のために設けた部屋に入ると、今日の模擬戦で使用する装備一式が目に入る。装備を一つ一つ確認しながら身につけていく。
装備を身に付け、机の上の書き置きに目を通す。
「なになに…攻撃への強化魔法以外の魔法は禁止で、装備品のみで戦え?正気か?普通に無理だろう。」
シルビアと過ごす週末は、いつも模擬戦から始まる。今のところ10回やって10回勝っており、勝負にならないから3戦目からはハンデ戦となっている。
初めは視界の制限や右手を使わないなどの軽いものであったが、次第に防御魔法の禁止やエトグリークとの共闘などハンデ戦と言うことも危うい領域に入っている。
いずれも、紙一重に近い内容で勝利したが、防御魔法のあるなしは、戦車と歩兵ぐらいの差になる。そもそもエトグリークとの共闘に至っては、シルビアと僕の模擬戦というより、エトグリークと僕の模擬戦に近いだろう。
とはいえ、シルビアは決して弱くない。強さで言えばマーシアの魔術兵並である。さらに言えばその中でも強い部類に入る。
また、シルビアは模擬戦を通じて学習している。同じ戦法は通じない。そのため、僕にとっても新しい戦法を試す貴重な機会になっている。
新しい戦法は機密なので、転移魔法で人のいない荒野にわざわざ行き模擬戦を実施しているのだ。
準備が出来たので、転移魔法を使用する。一瞬で視界が変わり、目の前に荒野が現れる。10m程先にシルビアと人化したエトグリークがいた。
「シルビア…いくらなんでも強化魔法以外の魔法が使えないのはハンデが大きすぎる。」
「いや、解除魔法を使われるとただの魔術の削り合いになってしまうから、魔力総量の多いラースが有利だ。」
「なら、防御と解除魔法を禁止すれば十分では?」
「…防御魔法と解除魔法を禁止しても、こちらの知らない方法で何らかの魔力干渉をしてきて、魔力総量の勝負に持ち込まれると勝負にならない。エトグリーク殿と相談した結果だ。」
「うむ、シルビア殿が有利に戦うためにはそれぐらいせねば無理だな。これでも、6:4ってところだ。」
「それはシルビアが6ってこと?」
「そうだ…主の魔法をほとんど制限しておるのにな。想像もできない方法で反撃してくるから、本当は魔法を全部禁止しないと怪しいのだが…それだと流石にシルビア殿が有利すぎるのでな。」
「まぁ、いいけど…手加減できないぞ? 」
「ふ…望むところだ!今日こそは敗北を教えてやる。」
こんだけ制限させといて、威勢だけはいいな。
「それでは、距離は10m離れた場所から開始する。位置につけ。」
僕は右手で剣を持ち、歩きながら左手でポケットの中を探る。そこには、職人に形を整えさせた鉄の玉が10発入っている。
位置に着くとエトグリークが模擬戦の開始を告げる。
「始め!」
僕は即座に距離を詰め、シルビアに肉薄する。シルビアは防御魔法を既に展開しており、一撃目は防御魔法に弾かれる。そのまま5連撃を浴びせるが、いずれも防御魔法に防がれる。
シルビアが放った攻撃魔法を避けるために大きく距離を取る。シルビアが続けざまに火炎魔法を放ち、それを避けると避けた方向に回り込んでくる。上手く誘導されたようだ。
シルビアの打ち込んできた2連撃を捌いて反撃する。先ほどの5連撃で確かめた防御魔法の薄いところを狙った反撃の突きは、防御魔法を容易く貫いた。
ただ、シルビアに触れる直前で剣で弾かれる。薄いところは自分で把握しておくのは基本だ。しっかりと対応してくる。
突きが弾かれると同時にシルビアの火炎魔法が火の矢となり、降り注ぐ。仕方なく距離を取る。ここまでは互角だが…距離を置かれるとこちらがやや不利だ。
再び肉薄しようと距離を詰めるが、魔法で牽制されて距離が詰められない。接近戦であればつけ込む隙もあるが、距離を取られ魔法で攻撃されたら避けることしかできない。
それが狙いだろう。実際、こちらは距離を詰めるしかない。本来ならそうだろう…シルビアも有利な展開に持ち込めたそう思っているはずだ。
精霊魔法を展開しながら、場の精霊を支配していくシルビア、本来なら展開した側から精霊を奪ってやるのだが…禁止されているのでそれが出来ない。
精霊魔法を本格的に使われると、面倒なので、そろそろ奥の手を出す。簡単な事だ…鉄の玉の周りの空気を強化(圧縮)していく、螺旋状をイメージした空気の塊に玉を込める。
圧縮した空気の熱で鉄が溶け始めるが、周囲から圧縮することで形を保つ。そして限界まで圧縮した空気を一方向に一気に解き放つ。
熱で赤くなった鉄が手元から消えた瞬間、手元から赤い光線が放たれ、シルビアの防御魔法の一部と後ろにあった岩を消し飛ばし、少し遅れて凄まじい爆音が響く。
見れば、荒野の地面が見えなくなるくらい向こうまで抉られていた。実験のとおり凄まじい威力だ。と感心していると、呆然としていたシルビアが口を開く。
「……おい!強化魔法以外は禁止じゃと言ったろ!と言うか…あんなもん間違って当たったら死ぬぞ!殺す気か!」
「いや、空気を強化して鉄の玉を飛ばしただけだ。使った魔法は強化魔法だ禁止されていない。それに、当たらないようにかなり離して打ったんだから問題ない。」
ポンコツでも愛妻を傷つけたいとは微塵も思わない。
「間違いない…主は強化以外の魔法を使われていない。」
「な…本当か?」
「で?どうする続けるか?」
「…やめとく。まさか、こんな手があろうとはな。」
悔しそうに、でも、どこか嬉しそうにシルビアは負けを認めた。
模擬戦で勝った方がご主人様として振る舞うのだが…これ、シルビアが喜んでいるから勝っても、負けてもシルビアへのご褒美になるんじゃ…?
どうやら強引にされるのがお好みというのは本当らしい。恍惚とした表情で僕の胸に顔を埋めるシルビアを見ながらそんなことを考えた。




