ラースの独り言
オースティンの貴族は、週末に休むことになっている。ただ、前世で軍人だった僕は月月火水木金金が普通だったので、違和感が大きかった。
そのため、週末も朝早く起きて、訓練と数時間の執務を行うことが日課となっていた。それでも午前中以降は、自由に行動できるので不便だと思ったことはない。
朝の日課を終え、ミリィとの待ち合わせに向かう。ミリィと週末を過ごす時は、最初に遅めの朝食を食べることが定番になっている。
以前は、買い物の後に外で食べることが多かったが、ミリィが買い物に行くことが少なくなったので自然とこの形になった。
ミリィに商会への対応や製品の販売を一任している。大手商会を潰すようにお願いしたので、ミリィを誘拐しよとしたり、毒殺しようとしたりする馬鹿が多く出た。
僕も一緒なので、全て返り討ちにしたし、可能な限りの報復をしたが、巻き込まれる人間がいるのは間違いない。
それを嫌ったミリィは買い物を控えるようになった。とは言っても、上級貴族は信頼できる商会を屋敷に呼ぶのが普通であり、普通になったとも言えなくもない。
ただ…楽しみを奪ったのは間違いないので、申し訳ないとも思う。
食卓に着くと果物と野菜を中心とした料理が並んでいた。ミリィは笑顔でこちらを向いた。
「おはよう。ラース」
「おはよう。ミリィ…今日は随分と大胆な格好だね。」
見れば、ミリィは白いロングワンピースだけを纏っており、身体の線がよくわかる扇情的な格好をしている。
銀糸の髪は軽く波打ち、白磁の肌を彩っている。僕を見つめるエメラルドの瞳…ありのままだからこそ、より美しさが際立っていた。
「今日は外出するつもりはないし、ラースと二人で過ごすから…この格好は嫌い?」
視線に気づいたのか、そんなことを言うミリィ。
「いや…好きだよ。」
王都周辺はまだまだ寒さが厳しいが、部屋の中は暖かく過ごしやすい。
「ところで、ラースが依頼していた。上級の火炎魔法を内部で使用しても問題のない強度の鉄の筒が完成したらしいわ。同じ口径の鉄の塊もできているはずだけど…車輪がついてるけど、あんな重い物を何に使うの?」
頼んでいた大砲が出来たらしい。
「ああ…使えるかどうか週明けに実験してみるよ。」
この世界の遠距離魔法は、風と炎が一般的だが、遠距離魔法で防御魔法を破るには十倍の魔力が必要になる。
非効率なので通常は防御魔法を展開しつつ、防御魔法で相手の防御魔法を削りつつ、剣や槍などの物理攻撃で防御魔法を貫くのが一般的な戦法だ。
防御魔法は魔法による面での攻撃には強いが、物質による点での攻撃には弱い。なので、大砲を作ってみたのだ。効果は実験してみないと分からな…
「ねぇ、ラース!」
「…ん?なに。」
「考え込んで、私の話を聞いてないでしょ?」
「あ…ごめん、つい考え込んでしまったね。」
「いえ…仕事に関係ありそうな話を振った私がバカだったわ。ところで…」
その後は、たわいのない話を楽しむ。ミリィがそうする事を好むことを知っているからだ。もちろん、この時間は僕も大好きな時間でもある。
正直、ミリィは想像以上によくやってくれている。商人とのやりとりは全て任せているし、作った商品がどの身分のどの層に売れるのか考えるのもミリィだ。
ミリィは、どの商品も何もしなくても売れると言っていたが、それは違う。紙などはすでにに実用化されていたにも関わらず、売れていなかった。
確かに、耐久性や値段に問題があったとしても需要はあったはずだ。ただ、 この世界では売れてなかった。僕は、安価に製造することと多少の品質の向上に寄与したが、どう売るかなんて考えつかなかった。
それを簡単な加工だけで、商人と貴族の娘に、それぞれ別の用途で売り始めた時は驚いた。商人と貴族の間で瞬く間に販路が広がっている。今や生産が追いつかないくらいだ。
砂糖や動力機械についても次々に新しい用途を考案しており、もはや僕の出る幕はないようだ。
技術には方向性がある。その方向性が分かるということはゴールが分かっているということだ。それを実現するための研究に資源を集中させれば10倍…いや100倍も効率よく国を発展させることができる。
ただ、いくら優れた技術を持っていてもそれが普及しなければ意味がない。技術が発明されても日の目を見ずに何十年も後に評価されるなんてこともザラだろう。そのため、ミリィの嗅覚は大きな意味を持つ。答えを知ってズルをしている僕よりも、ミリィは間違いなく正しく化け物だ。
考え事をしていると、ミリィに怒られた。こうして、ミリィと過ごすのはとても心地いい。妻の才覚に恐れを感じつつも、娘の成長を喜ぶ父親のようなそんな気分にもさせてくれる。明日の日曜は何をしようか?嬉しそうに話すミリィを腕に抱きながらそんなことを考えた。




