ラースの憂鬱な日々⑥
セロアを連れてザルフ邸を歩く、セロアはソワソワと辺りを見回している。緊張しているのだろうか?
「どうしました?不安ですか?」
「…いえ、リットラント邸もすごいですが、この家は本当にすごいですね。至る所に金やオリハルコンが贅沢に使われていますし、装飾も見事です。それにここにくるまでの道も…あれほど平らな石をあんなに大量にどのように運んできたのでしょうか?」
全く違うところに考えが飛んでやがりますね。まぁ、らしいといえばらしいが、緊張しているのは僕だけか…などと思っていると、あっという間にミリィの部屋の前まで来てしまった。
ノックして声をかける
「ミリィ、入るよ…」
「どうぞ、開いてるわ。」
部屋に入ると既に、シルビアも来ていたようだ。セロアを見て驚愕しているように見えるのは気のせいだろうか?
「ミリィティア様…お久しぶりです。お美しくなられるとは思っていましたが、まさかこれほどお美しくなられるとは…」
「ありがとう…セロアさんも相変わらず可愛らし…お美しいですね。あの頃のままで、リットラントでの生活が思い出されるようです。」
「いえ…年甲斐もなく幼い見た目でお恥ずかしいです。」
「今回の戦争では、ご苦労されたようで…旧知の仲としては大した手助けできなかったことを心苦しく思います。」
「とんでもありません。食料の援助など公爵様には多大な援助を頂いております。ミーア族を代表してお礼を申し上げます。」
セロアとミリィが懐かしむと言うには固すぎる挨拶をしていると、セロアを見ていた殿下が何かに気づいたように口を開いた。
「おい!ラース」
「なんでしょう殿下?」
「貴様…こんな幼い少女に手を出したのか?ずるいぞ!と言うか犯罪じゃ!」
ん?どうした?最近はマトモだと思っていたが…また壊れたか…このポンコツ殿下は
「何が犯罪なのですか?」
「馬鹿者…オースティンでは子供との結婚は禁止されておる。こんな可愛い子供を羨ましい…」
「は?…」
しばらく状況が掴めず…全員でポンコツ殿下を見る。
「あの…ご挨拶が遅れ申し訳ありません。ミーア族のセロアと申します。この度は、拝謁の機会をいただきありがとうございます。」
「うむ、余はシルビア ベルモント オースティンじゃ…まぁ、見ての通り長耳族とのハーフじゃから王位継承権はない。もっと気軽で良い。可愛いな」
「ご配慮に感謝いたします。殿下はミーア族をご覧になられたことはありますか?」
「ないな長命で魔法が得意な種族と聞いているが、会うのは初めてだ。」
「それならば無理もございませんね。ミーア族は成長が人族の10歳から15歳で止まり、それ以後は死ぬ直前まで老化することはありません。私はラースよりも一回り以上も年上ですよ。」
なるほど見た目で勘違いしたのか。確かに事前の知識がなければ…いやセロアは立派な女性だ。
「な…嘘じゃろ。」
「殿下…私が8歳の頃にはセロアさんは今と同じ容姿をされていましたから…と言うか…先日のラースの話をちゃんと聞いていましたか?ラースの出産に立ち会っているのですよ。」
「いや…聞いていたが、とてもじゃないが上級魔法を使用できる魔術士には見えなくて…この姿を見たら信じられんだろ?余がおかしいのか?てっきり…ラースがそっちの性癖を満たすため替え玉を連れてきたのかと思ってしまった。」
おい!ポンコツ…
「…この姿を見れば仕方ないのですよね。」
少しショックを受けつつ、答えるセロア…と言うか、いくらなんでも、僕の評価がおかしくないか?
「これは失礼なことをした。ラースの魔術の先生ということは、オースティンの恩人と言っても過言ではない。謝罪する。」
おや…犯罪者扱いされた僕には謝罪なしか…まぁ、仕方ないか。
「いえ、本当にいつも言われますからお気になさらないでください。それに教師と言っても…貴族院学校に入る頃には全て追い抜かれて、用済みになった無能ですから」
あれ?なんか棘があるな…これはもしかして、事前に言わないで学校に行くことを決めてしまったのを、まだ根に持つていのか?意外と繊細だからな…
「いや、最年少でマスターの称号を得た麒麟児と聞き及んでいる。優秀なのは間違いない。」
「過分なご評価を…ありがとうございます。ただ、ラースの先生と言うのはちょっと無理がありますね。私は、家政婦程度のことしかしていませんし、見せたらすぐ出来るような子供でしたからね。」
最近の家政婦は大隊相手に何時間も交戦できるらしい。
「ほう…ラースの子供時代かその話は是非とも聞いてみたいな。」
「殿下…セロアさん…親交を深めるのも良いですが…ルールを先に決めてしまいたいのですが…」
「おお!そうじゃった。それが目的だったな。でも、ルールを決めても…そこの男は最低限のマナーも守れなかった男だぞ?守れるのか?」
「神に誓って…守ります。」
「出発前にも似たようなことを聞いたが…裏切られた。信じられるか!」
まぁ、それはそうですよね。僕もそう思います。
「魔法契約を使って縛りますから、安心してください。」
「魔法契約かぁ…それなら間違いないな。」
王族は魔法契約をよく使用するため、あまり抵抗感はないようだ。
「私が求めるのは、この3点よ…何か付け足すことがあれば言ってください。」
渡された紙を見る。
ラース・リットラント(以下、甲とする)は、シルビア ベルモント オースティン、ミリティア ハイラント、セロア(以下、乙、柄、丁とする)との間に以下の内容について序列2位の魔法契約を結ぶ。
1、甲は新たに妻を増やす場合、乙柄丁と事前に話し合いの場を設け、許可を得なければならない。
2、甲は自らの意志で姦通を行わない。
3、乙柄丁以外の婚姻は側室とする。ただし、以下のような特別な事情がある場合は個別に協議する。
⑴ 新たに妻となる者の身分が高位で側室となるこ
とに問題が生じる場合
⑵ 新たに妻となる者に王位の継承権又は、その他
特別な継承権があり、その子に継承させる必要が
ある場合
⑶ その他、乙柄丁の内二人以上が必要と認めた場合
「良いのではないか?はっきり言えば…婚外性交したら死ぬぐらいでも構わんと思うが…」
「それだと…ラースの意志でない場合も死んでしまいますから…」
「そうか…それは困るな。まぁ、序列2位は3日ほど激痛に襲われる程度であろう?問題ないのでは?」
「セロアさんは何かありますか?」
「いえ…私は横入りした訳ですから何も言う立場にありません。ただ、種族も身分も違う私を正妻にするのは混乱を招くのでは?側室でもなんでも、ラースの側にいれればいいのですが…本当に良いのですか?」
「もちろん、セロアさんの意志を尊重します。ただ、セロアさんには正妻になって頂かないと困るのです。聞けば、ラースと関係を持った時に婚約のことを知らされてなかったのですから、セロアさんはむしろ被害者です。それにセロアさんもミーア族ではかなりの名家ですから問題ありません。」
ん?なんか強引な理由付けだな…まぁ、僕もセロアが本妻になるのは賛成だが…言ってはなんだが、小国に匹敵する領土を持つ公爵家や王族を人口一万程度の自治区にいくつもある名家と一緒にするのは無茶があるな。
「…そこまで仰られるなら、お受けしますが…」
「そうしてもらえると助かります。他に何か問題はありますか?なければ契約に移りたいのですが…」
「ありません。」
「ない!」
それじゃあ決まりか…良かったこれで許してもらえる。
「ん?」
何故か僕に集まる視線…ああ、そうか
「もちろん…どんな条件でも受け入れるよ。それで、許してもらえるなら…ね。」
「それじゃ、契約を始めます…」
ミリィが契約内容の書かれた羊皮紙を机の上に広げる。文書以外にもいくつかの複雑な魔法陣が書かれている。
「それでは、一人ずつ血を垂らして…」
ミリィがそう言って短剣で指先を切り、羊皮紙に血を落とす。シルビア、セロアも続き、僕もそれに倣う。
それが終わると、羊皮紙が鈍く輝きそれが収まるとミリィが口を開く。
「これで契約は完了しました。序列2位の契約なので、破った場合は3日間の耐え難い激痛が襲います。破ることがないようにね。これで一応許してあげる。」
ミリィが僕の方を見て、笑顔を見せた。これで許してくれると言うことだろう。一時はどうなるかと思った…戦争より疲れたかもしれない。本当に良かった。




