ラースの憂鬱な日々③
翌日、昨日の今日で…不誠実な気もするが、ミリィのところに行ってシルビアのところに行かない方が失礼だろう。
陛下には事前に許可を取ってあるが、会うのが一番気まずいのがシルビアだ。セロアの件で怒られるとは思っていたけど…まさか号泣するとは思っていなかった。
気まずい…でも行かねば…本当に結婚を白紙にされたら…そう思うとゾッとする。
勇気を振り絞り、部屋をノックする。
「シルビア殿下…入ってもいいですか?」
「……」
返事がない。
「シルビア殿下…入りますよ。」
そう言ってドアを開ける。部屋に入ると椅子の上で膝を抱えているシルビアと目が合う。もう何日も経っているのに泣き腫らした目が痛々しい。
罪悪感で吐きそうだが…唾を飲み込み誤魔化す。
「シルビア殿下…陛下に聞きました。もう何日も外に出られてないと。」
「……」
こちらを睨みつけながら無視される…心が折れそうだが、ここで引いてはダメだ。強引に
「…シルビア殿下のお怒り尤もです。ただ…僕はシルビア殿下を手放すつもりはありません。」
「…どういう意味じゃ?…いくらお前でも王族を好きにはできんはずじゃ。」
「今の僕ならそうですね。そしたら、僕はこの国を手に入れて…殿下を僕のモノにします。」
シルビアの頬が赤く染まるのを確認する。よし…嫌がってはいないようだ。僕はシルビアに近寄り、軽く触れる。
「…なら余が外国に嫁いだらどうする?」
「その時は、その国も手に入れて…殿下を僕のモノにします。どこに行こうと…どんな困難があろうと関係ありません。僕は必ず殿下を手に入れてみせます。」
陛下いわく、出来るか出来ないかは関係ない。僕は君を何が何でも手に入れたいんだと伝えることが大事らしい。本当かな?これで嘘だったら本当にクーデターでも起こしてやる。
シルビアの目を見る。泣き腫らした目は変わらないが、先程とは異なる潤みがその瞳に宿っていることがわかる。
「強引な男じゃ…」
顔をそらすが離れようとはしない。ここで頬に手を添える。
「そうだよ。僕のシルビア…僕はわがままな男だ。許されないことをした自覚はある。でも、君を手放したくはない。」
わがままな上、矛盾のオンパレードだ。
「それならば、あんな事しなければよかったのじゃ。」
「それに関しては弁解のしようもない。ただ、これだけは信じてほしい。僕は君を愛しているし、君を一番幸せに出来るのは僕だ。」
「強引な上に、思い込みが激しいようじゃな…ただ、ここまで言われては仕方ない。オースティン最強の男が相手では逃げられぬからな…余も観念するとしよう。」
やや芝居掛かった口調だが、嬉しそうだ。
「それでは許してくださるのですか?」
「ああ…ただし条件がある。」
「なんでしょうか?」
「ミリィに許してもらうことじゃ…それが出来れば余も許そう。」
「……分かりました。」
とりあえず…これでミリィに許してもらえれば…3人と生活することができる。
「それでは…お暇いたします。」
立ち上がると同時に、シルビアの手を優しく引っ張り額にキスをする。
「…今はこれで…我慢します。それじゃあ、また…」
「アホ…まだ、許していないぞ!」
顔を真っ赤にして叫ぶように言うシルビアの声を背に受け、部屋を出る。うまく行かなかったらどうしようかと思ったが…意外と上手くいくものだ。意外と…強引にされるのが好きなのか?
…あとは、どうやってミリィに許してもらうか。
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ラースが出て行ってからしばらく、ラースの出て行ったドアを睨む。あの自分勝手な男は、こちらの気も知らないで…
「…危ないところじゃった。」
条件もつけないで許してしまうところだった。危ない…あれだけで許していたらミリィになんと言われたか。
でも、あんなに強引に迫られたら断るのは至難の業だ。好きな男ならと注釈はつくが強引な男は嫌いじゃない。
いや、むしろ強引にしてほしい。お父様の影響だろうか?でも、これで許してしまえばミリィを裏切ることになる。条件を付けたことでなんとかミリィの顔を立てたと言えるだろう。
辛い役目を押し付けたとも言えるかもしれないが、仕方ない…今日の件で、自分がラースに心底惚れていることに嫌という程気付かされた。
そもそも、許すも何も他の女の所に行かれたら、困るのは私とミリィじゃ…捨てられそうになったら泣いて縋りつくぐらいするし、いくらでも都合のいい女になってしまう自信?がある。
ラースを失うなんて考えられない。それなら死んだ方がマシだ。ミリィの予想では…あと2、3人…側室が増えるらしいが、ルールさえ守るなら許してやらないこともないかな?
でも、やっぱり腹は立つ…ただ、今は早くラースと遊びに出かけたい。強く抱きしめてほしい。そのためにも、ミリィと早く仲直りしてほしい。
ラースの唇の感触が残る額を触りながら、そんなことを思った。やはり、私は王族らしい駆け引きなどできない…ラースの前ではただの小娘だ。




