ラースの憂鬱な日々②
「ミリィ…開けてくれないかい?寒くて凍えそうなんだ。」
寒くて凍えそうな夕方…窓の外からミリィに呼びかける。
正面玄関から行っても、会ってくれないのだ。だから、木に登り外からミリィに念話で呼びかける。
あ、目があった…と思ったらカーテンを閉められた。
ただ、初めは無視していたミリィも、1時間、2時間経つと無視できなかったらしいカーテンを開けてこちらを見る回数が増えてくる。そして、6時間後にようやく窓を開けてくれる。
「そんなところで、どうしたの?用があるなら正面玄関から入ればいいじゃない。」
「それじゃ…話を聞いてくれないじゃないか。こうでもしないと部屋にも入れてくれないだろ?」
服の金具についた霜を払いながら、ミリィの部屋に入る。
「入ってもいいなんて言ってないわ」
「でも、窓を開けてくれて、声を掛けてくれた。嫌なら直ぐに出て行くよ。」
「ふーん、で何しに来たの?」
「可愛い妻に会いに来るのに理由が必要かい?」
「そう嬉しいわ…それじゃもう帰ってくれないかしら。」
「少し話しはできないかい。ミリィ」
「私もたくさんお話ししたいよ。でもね。とてもそんな気分になれないの。誰かさんのせいで!」
落ち着いた口調ながら最後は怒気を帯びていた。ああ…ミリィが僕に対して怒りの感情を出すのは、あの誘拐事件以来…見たことがない。
「それは本当にごめん…謝罪しても許されないことをした…でも、君と仲直りしたいんだ。」
「じゃあ、セロアさんと別れて…」
「…ぐっ…ごめん、それはできない。」
「そうね。これでセロアさんを捨てるっていったら、一生許さなかったわ。でも、今は話すことはないわ。前回の通りセロアさんとの結婚は認めるけど、あなたを許す気にはなれない。」
よかったご機嫌とりでも言わなくて…
「…そうか、それじゃ…今日はもう帰るよ。でも諦めないよ。また来る。」
「…今度は正面玄関から来なさい。部屋ぐらい入れてあげるわ。毎回、外で待たれたら迷惑だから…」
少し前進かな?
「ありがとう…そうさせてもらうよ。あと、これミリィに似合うと思って持って来たんだ。気に入らなければ捨ててくれてもいい。」
受け取ってくれそうもないので、机の上にプレゼント用の包みに入った髪飾りを置き部屋を出る。
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ラースが部屋を去った後…ザルフ邸を去るラースを窓から確認してから口を開く
「…危なかった。」
ラースの顔を見た瞬間に許してしまいそうで、ずっと口も聞かなかった。でも、あんな手段を使って来るなんて…卑怯だ。
こんな寒い日に外にいられたら、心配してしまう。本当は30分もしないうちに入れてしまいそうになった。ラースが風邪でも引いたらどうしよう…刺し貫いた手は大丈夫かな…でも、ここで許したら…ラースのためにならない。
ラースは私が何でも許してくれると勘違いしている。いや、勘違いではない…私はきっと何でも許してしまう。
そもそも、私は自分がラースに釣り合うとは思っていない。魔術も剣術も上級者の域には達してはいるが、殿下やラースのような一流ではない。
公爵家で領地も家柄もオースティンでは一級品だが、ラースなら同等のモノを今回の件で与えられていてもおかしくない。
むしろ、殿下と私と結婚することで領土や褒賞に関しては控えめになってしまう。
英雄とならなくても私だけなら、リットラントの継承権を放棄して公爵家の婿養子になることで手に入れられたのだ。
私としてはそれが理想だったのだが、今となってはそうはいかない。私だけでは釣り合わないし、私だけではハイラント公爵家だけが力を得すぎて、王家や他の公爵家にひんしゅくを買いかねない。
シルビア殿下とともにプロポーズされた時は、一番大きい感情はもちろん嬉しさだった。二人同時というところには少しの悔しさもあったが、安心の方が大きかった。私一人で繋ぎ止めておけるか不安だったし、公爵家としても王族と一緒なら都合がいい。
私の予想では、ラースはあと2、3人は側室を作る。その時に、今回のようでは困るのだ。側室を作るにしてもルールがある。
今回のように、操を立てて待っている婚約者がいるのに、他の女を抱くようではダメだ。今は私と殿下が我慢すればいいし、セロアさんは一歩引いてくれると思うが、そうじゃない相手の場合…まずい。
序列は大事だ。妻同士が争えば損をするのはラースだ。ラースはいずれオースティン、いや南部大陸の王になる必要がある。その男が妻を御し得ないのでは何と言われるか?
そうしないために、私と殿下がしっかりと手綱を握る必要がある。そのためにも、勝手なことをすれば痛い目に合うと理解してもらわないと困る。
口で言えばラースはとりあえず聞いてくれるだろう。ただ、本能の部分を抑えるには弱い。というか、今回の件で信用できなくなった。
早く許してしまいたいが、簡単には許してもらえないと知ってもらう必要がある…それに、規則を決めて魔法契約もしなければならないだろう。シルビア殿下が耐えられないかもしれないが、私一人でもやり切らなければ…
そう考えながら、プレゼントの包みを開ける。私が好きな工房が作った髪飾りだった。いつも興味ないようだったのに、知っていてくれたのだろうか。
辛い…許してしまいたい。




