ラースの憂鬱な日々
「…どうしましょう…陛下、ザルフ卿。」
「「知るか!」」
怒気を孕んだ声を揃え、オースティンの重鎮二人が吠えた。
「そんなこと言わないで、可愛い義息子が困ってるんだから、相談に乗ってくださいよ。」
本当にどうにかしてほしい…というより、前世じゃ女気なんて一切なかったのに、もしかして身体の欲求に引き摺られてるのか?
「うるさい!知るか!自分でどうにかせよ。義息子とはいえ、浮気した嫁の父親に相談することか?まさに、自分で蒔いた種だろうが…」
「ははは…陛下!上手いですね。」
「いや…茶化さないでください。ここまで怒るとは…シルビアは泣くし、ミリィは無表情で僕の手に短剣を刺すし、家に行っても無視されるし…」
「あのタイミングでいえば、当然そうなるよ。手を出してしまったものはしょうがないが…ラース殿…頭はいいが馬鹿だな…」
「母上と同じこと言わないでください。…そうですね。僕は大馬鹿野郎です。その上、クズで卑怯で最低野郎です。」
「お前そんなキャラだっけ?…同情はせんが…オースティンの最強戦力がそれでは困るぞ。」
「それじゃ、何か良い方法を教えてください。あの二人を一番よく知るのは父親である陛下とザルフ卿だと思って相談しているのです。」
「とは言ってもね。なかなか頑固な娘でね。一度怒らすと…少しずつ怒りを収めてもらうほかないよ。小まめにプレゼントを送ったり、愛を囁くぐらいしか手がないのではないかな?」
「ミリィについてはそうですか…分かりました。今日からやってみます。」
「うむ…シルビアにはそうじゃな…言いたくはないが、あれで押しに弱いところがある。謝罪しつつなし崩しで抱いてしまえば許すと思うぞ!あいつの母親もそうじゃった。3度目の浮気の時など殺され掛けたが…それで…ゴホッン!ああ…その際は何が何でもシルビアを手に入れるという言葉を添えるといいぞ」
聞いてもないことまで話し始めたが、僕とザルフの視線に気づいて軌道修正したらしい。
「…なるほど!陛下が僕より屑なことが分かりました。蛇の道は蛇…参考にさせてもらいます。」
「貴様…人が相談に乗ってやればぬけぬけと…余だって婚前に他の女に手を出さんわ!ザルフの言う通り、最悪のタイミングだ。腐れアンポンタンが!」
「まぁ、陛下…冗談はこれくらいにして…ラース殿…私も陛下も人の親だ。娘が悲しんでいれば腹も立つし、泣かせた相手を拷問して…ラーチス湾に沈めて鮫の餌にしてやりたいぐらいは思う。いや…ラース殿ではなく他の貴族だったら…おそらく実行していたんじゃないかな?」
「いや…余はそこまでせんよ。まぁ、ただここまでコケにされたら殺すぐらいしてたかもしれが…」
あ…この人達…本気だ。
「とはいえ…国の英雄を殺すわけにはいかん。貴様は我らにとって恩人のようなものだしな。」
「そうですね…不本意ながら娘と一緒で許すしか手立てがない。ただ、この状況はどうにかしてもらいたいものだ。シルビア殿下もミリィも一人娘だ。早く孫の顔が見たい我々としては、仲直りしてもらわないと気が気じゃない。それに、君のせいで可愛いミリィの様子が…まぁ、とにかく頼んだよ。仲直りのためのサポートは惜しまないから…」
「余も同意見じゃ…王位継承権がないとはいえ、可愛い孫を早く見たい。それに、娘の笑顔を取り戻せるのは貴様しかおらんからな。」
「…陛下…ザルフ卿…」
二人とも…涙が溢れそうになる。こんなことをしでかした義理の息子に励ましの言葉までくれるなんて…怒られて楽になろうとしていた僕が情け無い。
「さぁ、喉が渇いただろう。冷めないうちにお茶をどうぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
ザルフが淹れてくれたお茶に口をつけようとすると…
「ザルフ卿…このお茶飲んでいただけますか?」
「いや、私は家で飲んできたから…遠慮せずさっさと飲め…クズ」
「これ、猛毒入りじゃないですか!死んだらどうすんだ。」
「チッ!魔法探知で気づいたか。死ねば良かったのに…」
この野郎…陛下もグルだったか…
「どうせ、気づくんだからごちゃごちゃ言うな…ゴミ」
すげー口悪いな
「よく分かりました。悪いのは私ですからね。一人でどうにかしてみせます。」
「ふん!初めからそうしろ…クソ義息子…」
「まぁ、どうしようもなくなったら言ってよ。孫を見たいというのは本気だからね。」
「早く孫の顔を見せろ…クズ」
部屋を去る直前にこんなことを言う二人…この人達はどこまで本気なのか?いや、この人達なりに元気付けようとしてくれていたのだろう。




