再会
シルビアとミリィが待つ部屋の前で、足を止める。
ドアを開けすぐに二人を抱きしめたい強い衝動がある。
ただ、ドアノブを掴もうとするが、開ける決心がつかない。セロアのことをどう伝えたものか…許してくれるかな?いっそのこと説明しない方がうまくいくのでは…
いや…許してもらわなければならない。セロアに対する責任もある。自分がひどい屑だと自覚はあるが、セロアにしてしまったことを伝えない訳にはいかない。
悩んでいると向こうからドアが開き…ミリィと目が合う。
「ああ…ラース!ラース!」
名前を呼ばれながら抱きつかれる。ミリィの良い香りに包まれ、心地よい感覚に嬉しさとともに思わず抱き返す。
そして、泣いているミリィの頭を撫で言う。
「ただいま…ミリィ」
「おい!二人だけの世界に浸るな!余もいることを忘れておらんか?」
「ただいま戻りました。シルビア殿下」
「ああ…よく戻った。見事な戦果じゃった。正直な話し、続報を聞くたびに絶望したよ。皇帝自身が全魔術師団を率いて侵攻してくることを聞いた時などは生きた心地がせんかった。」
「厳しい戦いでした。勝算はもちろんありましたが…保険をかけておいてよかった。」
「しかし、想像の遥か上の戦果だ。英雄も英雄…今や民の間では、建国神話の勇者様と肩を並べるような存在だよ。君は…」
冷静さを保っているが、シルビアは嬉しさを隠しきれていない。人より少し長めの耳が上下に揺れるように動いている。
「畏れ多いことです。シルビア殿下」
「殿下はよせ…ラースよ。君は余の…ゴホッん!私の夫になるんだ。もう公然の噂となってはいるが、正式には勲章授与式の後に発表されるだろう。」
「では、それまでは殿下と呼ばせてください。僕の愛しいシルビア」
「まあ、いい好きにせよ。」
「ただ公然の噂になっているのに文句を言う者はいないのですか?」
シルビアは耳を動かすのをやめ、少し考える仕草を見せる。すると腕の中に収まっているミリィが少し強い調子で答える。
「それは心配ないわ。ラースは間違いなく英雄にふさわしい戦果を挙げたわ。国が滅んでもおかしくなかったのに、それを救った。増してや…王家と公爵家が婚姻を認めているのに文句を言ってくる奴は相当な大馬鹿者よ。」
「うむ…内心どう思っているかは別として、表立って文句を言う奴はおらんじゃろうて…公爵家の継承権やリットラントの継承権も認めたところで誰も損をしないし、新設の将軍職も同じじゃろう。一番言ってきそうな教会連中も祝福の言葉を用意しているそうじゃ。」
「内心は面白くない連中もいるのでは…」
「それはいるだろう。自慢ではないが余もミリィも一部の者から見れば相当な優良物件に違いない。」
「二人とも美しい上に、公爵家の継承権や王族になれる権力まで付いてくるのは魅力的ですからね。」
腕の中でミリィが「美しいなんて…」と頬を赤らめているが、話しが進まないので流しておく。
「…加えて王家の直轄領に匹敵する領土を持つことになる訳だ。妬みは買うだろうよ…」
「何か弱味を見せれば叩こうとする者も多いということですね。」
「そうじゃな…一応は毒殺などにも注意せよ。」
「分かりました…」
「ところで…ミリィ!いい加減に余と変われ!」
「チッ!せっかく再会を噛みしめているのに…」
「ミリィ…貴様…本当に遠慮がなくなったな。」
「あら、嫌でしたか?」
「いや、子供の頃に戻ったようで心地よいが…そんな話しは後だ。早く変われ!」
その後、シルビアが腕の中に収まり、夕食の時間になるまで談笑することにした。
セロアのこと?伝えるが…いつ伝えればいいのか?とりあえず今ではないだろう。




