英雄の凱旋
ベルフェルムは自身の執務机に座り、ひとりで考え込んでいた。内容はラースへの褒美についてである。
実のところ、帝政マーシアの侵攻は数万程度で終わると予想されていた。それでも互角に戦い痛み分けの停戦に持ち込のがやっとだと考えていた。実際、戦力差を考えればそれすら困難なことなのだ。
ただ、ラースならばそれが出来ると考えていた。そのため、人参をぶら下げて焚きつけたのだ。結果、ラースはうまくやった。いや、やり過ぎた。
もう、すでに二人を嫁にして公爵家の跡取りにするだけでは足りないだろう。リットラントの継承権を承認し、正規の将軍職と勲章,新領地を与えてもまだ足りない。
マーシアの数十万の軍勢はオースティン王国にとって絶望的な数だった。ハッキリ言って今こうして国として存続していること自体が奇跡なのだ。それを数千で撃退し、旧領地の回復さえやってのけたのだ…もうオースティンごと褒美で与えても良いのではないかとさえ思えてくる。ただそれは出来ない…
領地に関してもハインラントとリットラントの継承権、そして新領地の所有権…それを認めてしまうと王政府の直轄領に匹敵する。
それが一人の男に継承されるとなれば、実質的には国王を超える権力を持つことになる。そんなことをすれば、譜代の貴族達は不満を持つ、最悪は内戦になりオースティンは存続出来なくなる。
とりあえず、当面は二人と結婚すること…正規の将軍職と部隊指揮権を与えること、公爵領とリットラントの継承権を承認することで落ち着かせることにしたーーー
王都に着いたのは終戦して、2カ月以上経過してからだった。王都に到着する前に、隊全体に凱旋パレード用の装備と服が貸与された。
ラース達が王都へ入ると、その歓迎振りは凄まじかった。これほど人がいたのかと思うほど、路上は人で溢れかえり、ラースを見て失神する市民が出たほどだ。
そして、国王と謁見するため宮殿に向かう。貴族たちの好奇の目はラース一人に注がれていた。少女と言っても信じてしまいそうな14歳になったばかりの少年が数千の兵で数万の帝政軍を破ったと言うのだ。
貴族達の多くは、その話を鵜呑みにすることはなかった。自分にも出来たはずだと思う者もいれば、そもそも帝政軍に内政上のトラブルがあったための漁夫の利だと思う者もいた。
いずれにせよ。大半の貴族はラースを実力どおりには見ておらず、運の良い奴だという認識であった。
それが、王族と公爵家からそれぞれ最も美しい娘を嫁に迎えることを許され、公爵領のみならずリットラントの継承権を認められ、さらに特設の将軍職まで与えられるとなれば、嫉妬を買うのもやむ得ないだろう。
嫉妬や憎悪の目を感じながらも、それを無視して王の執務室へ向う。執務室前に着くと賓客用の部屋に通され、それほど待つこともなく、ベルフェルムが姿を見せる。
ラースは完璧な臣下の礼を見せた。
「よせ…義息子よ。せっかく堅苦しくならん様に賓客用の部屋をとったのだ。」
賓客用の部屋はオースティン以外の君主又はそれに準ずる者が来た時に使用する部屋だ。つまり、王が対等に話しをする時に使用される。その意味を理解してラースは口を開く。
「恐れ多いいことです。ベルフェルム陛下」
「ふん…どうもお前は何をしたか分かっていないようだな。こっちはお前にやる褒美を考えるだけで頭が痛い…オースティンを丸ごとやってもお釣りが来るほどの大偉業だよ。」
「褒美などいりません。約束どおりシルビアとミリィを妻にする許可…あ…あと、もう一人妻を迎えることをお許しいただければ特に何もいりません。」
少し時間が止まる。
「…もう一人?だと…まぁ、もう何も言わん…好きにせよ。ただ、シルビア達への説明は自分でやれ…あと、公爵領とリットラントの継承権に加えて、お前のための将軍職を準備している。それは受け取ってもらうぞ」
「畏まりました。しかし…良いのですか国内の貴族に不満が溜まるのでは?」
「ああ…内心は不満があっても、言い出すバカはおらんさ。ミリィと結婚すれば公爵領を継承するのは当たり前だし、リットラントも慣習上は継承権を放棄するのが妥当だが、元々はお前が継承権を持っていたものだ。褒美で与えたところで誰の懐も痛まない。」
「そうですか…新規の将軍職とは?」
「名誉職みたいなもんだ。特に業務もない。」
「分かりました。領土にしろ、役職にしろこちらから要求はしませんが、いただけるならいただきます。」
「そうしろ…あと、別邸でシルビアとミリィが待っている。行ってやれ。」
会いたい気持ちと不安な気持ちがある。セロアのことをどう伝えるか…そう考えると、ラースは頭が痛くなるのを感じながら貴賓室を後にしたーー




