終戦会談
僕が天幕に入ると、桜色の髪にブラウンの瞳を持つ少女が前回と同じ様に座っていた。ただ、前回とは異なり…少女は余裕がなく、不機嫌そうな雰囲気を撒き散らしていた。
「…やってくれたな。ラース殿…まさか、無抵抗の人民を無差別に攻撃するとはな。綺麗な顔をしてえげつないことをする。」
よく言う…自分たちも奴隷を捨て駒にしたくせに…人民と奴隷とでは価値が違うとでも言うのだろうか?
「…出来ればやりたくなかったのですが…弱者ゆえに手段を選べなかったもので、最も効率的な方法を取らせていただきました。」
「あーその通りだ!我が国最大の工業地域は火は鎮火したが、半分が焼け落ちて復興には1年近くかかるし、農業地帯については刈り取り前の穀物のほとんどが焼けて、なおも延焼中だ。狙ってやったとしたら大したものだ。」
おまけに補給用の施設にまで攻撃を加え、徹底的に焼き払ってもらった。帝政軍の補給線は今やボロボロである。これでは、数日のうちに干上がるだろう。全て狙い通りだ。
「まぁ…それはそうと早く本題に入りませんか?陛下も急がなければならないのでしょ?」
「ああ…そうじゃ!貴殿のせいで急いで帝都に戻らなければならん。できれば、貴殿はここで殺しておきたいのが本音だ。しかし、国を存続させるために仕方あるまい…オースティンと停戦条約を結びたい…急いで取り次ぎを頼む。」
今や帝政軍にとって最大の脅威はラースであり、カーディナルの中でもラースを殺すのは最優先事項であった。
ただ、ラースを殺すのにはあと数日はかかる。そして、ラースを殺せば息子を殺されたリットラントは捨て身で攻撃してくるはずだ。
そうなれば、ミットラントを抜けるのに少なくとも3週間はかかる。継続的に補給路を断たれたら、どれほどの餓死者が出るか…試してみる気も起きない。さらに言えばグリフォンの攻撃が続けばさらに被害が拡大する。
「取り次ぎの必要はありません。私はこの戦争の交渉についての全ての決定権を国王陛下からいただいています。」
そう言って王の印の付いた任命書をカーディナルに見せる。
「…まさか…ここまで予測済みだったのか?まぁ…聞くだけ無駄か、停戦の条件だが、我が国が単純に撤退するだけではダメか?」
「それは出来かねます。今回の戦費分の賠償金と旧オースティン領の返還を要求します。」
「な…、賠償金は支払わん!貴殿が焼き払ってくれたおかげでそんな余裕はない。領土についても、占領してもいないのに割譲など慣習的にあり得んだろ。」
その通りだ…この世界の慣習では割譲や返還を求めるなら占領することが最低条件だ。しかし、強気に出る…これでダメでもこちらには最後のカードが残っている。
「こちらの条件が気に食わないのなら…そちらの妥協を示していただきましょう。全てダメと言うことであれば、本意ではありませんが…我々は徹底的に抗戦するしかありません。」
「くっ!足元を見おって…ならば、旧オースティン領の3分の1を割譲する。ただし…賠償金は支払わない。」
これは破格と言っていい条件だ…旧オースティン領の3分の1といえばリットラント領の1.5倍程度の面積がある。あまり欲張り過ぎてもダメだ。
「わかりました…その条件で停戦に応じましょう。」
その後、細かい条件を詰めて停戦が成立した。短期間とはいえ帝政マーシアは数万の兵隊を戦闘で失い、空からの攻撃による火災で一般市民にも数万の死者を出した。
これにより、ラースの名前はオースティンだけでなく、帝政マーシアとその属州にも名を轟かせることとなる。
この戦争は、連戦連勝であった帝政マーシアでは血の7日間と呼ばれ、後のマーシアの歴史家たちはこの時がラースを殺す最後のチャンスであったと口を揃えて言う。
そして、この戦争から始まるオースティン王国と帝政マーシア間の戦争は、忌々しい聖魔戦争になぞらえて、第2次聖魔戦争と呼ばれることとなる。




