最悪の時
遠隔魔法が起こした砂埃が晴れた時に、カーディナルが見たのは予想外の光景だった。全滅してもおかしくないような攻撃をしたにも関わらず、オースティン軍は身をを低くして密集体系を作るだけで防ぎ切ったのだ。
いくら、防御魔術があるとはいえこれは異常だ。一旦引くか…そんなことが頭に過ったが有史以来で最強の軍と自負する近衛魔術師団を指揮して敗走などあり得ないと思い直し…全軍に突撃を命じる。
「誇り高き我が剣よ!我が敵を打ち砕け!全軍!突撃せよ!」
それと同時に一万の魔術兵団が、ラース隊に襲いかかる。至るところで防御魔法がぶつかり合い火花のように魔力が飛び散る。
魔術兵団とぶつかるのは今回で二度目であるラースは自分の隊がこのままでは勝てないことを知っていた。
互いの防御魔術は互角と言ったところだ。ただし、兵団は個人がそれぞれ行うのに対し、ラースの隊はラースが全て行っている。そのため、攻撃に集中できるラース隊が一見有利に見える。
ただ、元々の剣術の練度が兵団の方が高いの
だ。そのため、どの隊員も苦戦を強いられている。しかも、敵は兵団だけで三倍強…その後ろには帝政軍約20万以上が控えているのだ。絶望的だ…そのため、応戦しながら徐々に下がるように指示を出す。
ラースと数百名が殿を務め…狭い街道に徐々に下がっていくラース隊…それを追う近衛魔術師団。ラースが何人も切り捨てて行くが…ラースの身体にも幾つもの傷が刻まれていく。
ラースの魔力量は魔術師団全体と比べても遜色ないが…人が一度に使える魔力量には肉体との関係で限界がある。例えば、 魔精霊との戦いでは、ラースは魔精霊と互角に戦うため精神体を削りながら戦った。
精神世界での精神体は、現実世界の肉体と同じ性能を持つが魔力への耐性は格段に上がる。そのため、もし現実世界で精神世界と同様の魔力を使えばラースの身体は耐えられずに間違いなく死ぬ。
自分の魔術耐性は魔術兵と大きな差がないことは、先の戦いで承知していた。だからこそ、3千の兵に防御魔法を掛けることにしたのだ…互角とはいかなくても、魔術兵団に太刀打ちできる数千の戦力が必要だった。
結果は見事に成功した。一ヶ月という短期間でである。そして、ラースは一つ目のカードを切った。
少しずつ引いていくラース隊に、追撃する帝政軍…3kmほど追撃した時、それは起きた。
バカァーーーーーン!凄まじい炸裂音とともに地雷魔術が長さ3kmに渡り炸裂する。第3師団を葬った地雷魔法を使用したのだ。
この攻撃により、近衛魔術師団はその数を約半数に減すことになった。
ーーーこれに最も驚いたのは、皇帝カーディナルであった。自軍の精鋭が一瞬で半分に減ったのだ。しかも、相手はまだ健在なのである…この後どれほどの犠牲が出るか…予測すらできない。
「…くっ!ばかな…こんなメチャクチャなことが許されるのか…」
停戦することも視野に入れたが、もしここで停戦することになれば、目の前の軍隊は恐らく何倍にもなって帝政マーシアの前に立ちはだかることになる。
この敵を打倒できるのは、これが最後のチャンスだ。そう考えたカーディナルの行動は早かった。すぐに魔術師団に体制を整えさせ、迎撃体制を整えさせたのだ。
ただ、一旦作戦を立て直したい…そのため、カーディナルは相手に会談を持ちかけることにした。
ーーーラースは帝政軍からの会談に、明朝までの停戦を条件に応じることにした。
両軍とも後方に下がり、その中央に天幕が作られる。そして、ラースは指定された時間に士官数名を連れて天幕を訪れた。
天幕に入ると凛とした声が響いた。
「ほう…たかが数千で我が軍を苦戦させる将軍…どんな厳つい顔をしておるか楽しみだったのだが…まるで女のような顔だな。」
僕は内心の動揺を隠しながら…国家間の儀礼作法で挨拶をする。
「お会い出来て光栄です。皇帝陛下…私がオースティン北方軍指揮官ラース・リットラントであります。」
「ふむ…堅苦しい挨拶は嫌いだ。楽にせよ。」
そう答え皇帝の座るべき位置にいるのは、僕よりも2歳ほど下に見える。桜色の髪とブラウンの瞳を持つ美少女だったーーーー




