少尉の事件簿
エトグリークの件が落ち着いてから1カ月弱が過ぎた。学園生活にはすっかり慣れてしまい、学ぶ内容は新鮮味を欠くモノばかりだ。ハッキリ言って退屈だ。
王命についても、次の王命はまだ発表されていないらしい。シルビアは頻繁すぎるくらい会いにくるが、ベルフェルム殿下からは週末に食事を誘われることがあるくらいだ。
昼休みに入り、ミリィとともに食堂に行くと隣にシルビアが座った。
「シルビア殿下…ここは下級生の指定席ですよ。中級生の指定席はあちらです。」ミリィが少し諦めたような声で嗜めた。
「良いではないか、許可はとってあるさ。」さして気にしてなさそうに、答えるシルビア
「まぁ、それよりラースよ。」
「何でしょうか?殿下」
「気付いておるか?」
「はい、数日程前から複数の魔法で監視されているようですね。対象はミリィではなく僕のようです。」
「…流石じゃの。誰だか検討はついておるのか?」
「え…え?」ミリィが戸惑っている。まぁ、気付いてなかったよね。微弱な気配しかない。シルビアのような魔眼持ちでもなければ、気付かないだろう。
「いえ…正直な話し心当たりが多すぎて困っているところです。」
「心当たりとは?」
「最有力はラルフール公爵です。ただ、エトグリークを調伏したことからベルモント家以外の王族や有力貴族の可能性もありますね。」
「ふむ、確かにラースは今や注目の的じゃからな。」
「なので監視自体はそれほど気にならないのですが…問題は監視の一つに強い敵意を持つ者がいることです。」
「敵意…ふむ?…おっと長話しすぎたな。余は戻るが、くれぐれも注意するようにな。まぁ…ラースの脅威になる魔術師がこの国におるとは思えんがね。ただ、悪い予感がするんじゃよ。」そう言うと去って行くシルビア
「…ねぇ、監視されているってどういうこと?」
「ああ…ネズミや鳥の意思を乗っ取って自分の目や耳にする魔術があるんだ。それを使って僕を監視しているって話しだよ。」
「えぇ…そんなこと出来るの?すごいけど…悪趣味ね…」
「中級魔術師なら難しくない魔法だからね。ただ、気配に気付けば対応もできる。寮の中には一匹も入れてないから何も心配しなくて良いよ。」
「そう、ラースがそう言うなら大丈夫ね。」
調伏は知能の高い動物にしかできない。そのため、知能の低い動物なら強制的に精神を乗っ取ってしまった方が簡単だ。
ただし、調伏とは異なりただの操り人形となってしまうので、過去の記憶や魔力を共有することは出来ない。つまり、監視や密偵などにしか使えないのだ。
今回の監視にしても、その多くはネズミや鳥・ヤモリであった。しかし、1回だけ得体の知れない何かを捕まえようとして逃げられたのだ。
あれは、強い意思を持っていた。ただ、これはミリィには伝えない。ミリィをいたずらに怖がらせるのは避けたいからだ。
なので、ミリィにバレないように処理することにする。自分やミリィにはもちろん、すでに寮の周りにも、シルビアにも結界と罠を張り巡らしている。僕に知られずに干渉することはまず不可能だーー
ーー罠を貼って三日経つが何の反応もない。
どうやら一度取り逃がしたことで、完全に警戒されてしまったらしい。そろそろ積極的に動くべきか?そう考えていると、気になる情報が入ってきた。
下級貴族の生徒が3人ほど姿を消したらしい。しかも、魔術の才能がある者だけである。
何か関連があるのだろうか?念のため、シルビアに協力を依頼した。
「…という訳で協力してもらいたいのですが?」
「ふむ…ラースでも難しいなら余にも無理じゃろ!普通に考えて。」
「いえ、魔力の探知なら魔眼を所持しているシルビア殿下の方が向いているでしょう。二人で捜査した方が効率が良いですから…それに、容疑者に心当たりもあります。」
「心当たり…誰じゃ?」
「ベルール ハインラントです。」学園内ならまず間違いない。
「ベルール?…ああ、ラルフール公爵の馬鹿息子か?しかし、あやつは魔術が得意と言ってもギリギリ中級魔術師ぐらいだぞ…とてもじゃないが何匹も小動物を操れるとは思えん。」
辛口な評価である。10代前半で中級魔術師にギリギリ届くなら貴族院学校全体でもトップクラスだろう。まぁ、王宮主席魔術師に匹敵する力を持つシルビアから見ればその程度だろうが…
「はい、以前のベルールなら…せいぜい一匹か二匹使役できれば上出来の腕前です。ただ、魔石を使えば話は別です。精霊さえ使役できます。」
「なるほど…ただ今回の騒動を考えると、少なくとも中位精霊を使役出来る魔石を用意せねばならんぞ。そんな魔石はそれほど多くない。」
「いえ、中位どころではありません。少なくとも上位精霊…下手をすればそれより上位の存在かもしれません。」
「馬鹿なありえん…上位精霊を呼べる魔石など国宝クラスだぞ。何か確証があるのか?」
「実は、一度接触し拘束魔術をかけたのです。」
「…拘束魔法?何を使ったのだ?」
「神々の拘束です。」
拘束魔法の最高位魔術だ。神獣や上位精霊ですら短時間は拘束可能な代物だ。
「神々の拘束だと…ならば上位精霊以上は確定じゃな…信じられん。」
「僕もまだ半信半疑です。…だからこそ確認したいのです。それに、ベルールは公爵家ですから明確な証拠を押さえなければ罰することもできません。できれば魔石を押さえたいところです。」
「ふむ…わかった協力する。この件でラルフール公も連座にできれば、公爵家の相続権はザルフ公のモノだ。支援している我が家の利益にもなる。」
「ならば…今日の夜にベルールの寮に忍び込んで確認したいと思います。よろしいですか?」
その後は、細かい点を打ち合わせた後に、準備のため、一回分かれて再集合することにした。




