グリフォン
グリフォンとはドラゴンの亜種とされ、伝説によると勇者が魔王討伐の際に乗った動物であると言われている。
飛行速度については全ての龍種で最も早く、直接的な戦闘力は龍の真種に劣るものの、大隊(武装した300名から1000名規模の隊)に匹敵する戦闘能力を持つとされている。
実際、グリフォンを目の前にして、僕はその強さを感じ取っていた。こんな動物を調伏出来るはずがない。魔力が桁外れだ。
グリフォンがこちらに気付き睨みつけてくる。今にも飛びかかって来そうだ。
「大丈夫じゃ。封印されているから本体は動けん。」こちらの不安を感じとったのかシルビアが言う。
グリフォンをよく見れば透明な鎖状の封印が何重にも施されており、戦える様な状況ではないことがわかった。
それに、失敗したシルビアが生きていることを考えれば命の危険はなさそうだ。取り敢えず、何で戦うのか聞いてみた。
「動けないのに、どうやって戦うのですか?」
「そうよな。グリフォンの前にある水晶に触れて魔力を流し込むと、グリフォンの精神体と自分の精神体が繋がる様に出来ておる。グリフォンの精神体を制してコントロール出来れば調伏完了となるらしい。とはいえ、余は繋がった時点で音をあげてしまったがな。」
見るとグリフォンの前には、人の頭ほどはある大きな水晶が床にうまっていた。それに触れる。するとーー意識が水晶に吸い込まれるような感覚と共に、視界が真っ白になった。
ただひたすら広い真っ白い世界にラースは一人立っていた。ただ、自分の意識が何かと繋がっていることが感覚的にわかる。
「人間ごときが…精神世界で我を調伏しようなどとは愚かなことだ。あの方ですら困難だろうよ。」
頭に直接響くような声とともに現れたのは、白い世界に羽ばたく金色のグリフォンだった。
「どうすれば、従っていただけるのですか?」乗り気ではないが、これは興味深い。命の危険がないのだからやらない手はないだろう。
「フン、語るは無粋よ。この精神世界では貴様と我との境目は曖昧だ。感じればわかるはずだ。」
その言葉に従って、あるがままに感じてみる。一気にグリフォンの記憶が流れ込んでくる。魔王軍と戦い敗れて死にかけているところを勇者に助けられたこと。その後、勇者とともに戦い魔王を倒したこと。
勇者が死んでしまって、調伏できるものがおらず人間から恐れられるようになり、信頼していた人間たちに騙され封印されたこと。
記憶とともに、勇者への愛情、自分を幽閉した人間たちへの憎しみ様々な感情が伝わってきた。そして理解したーー
「ほう、我が記憶と感情を全て見ても音をあげぬとは…普通は数年分でも見せられれば発狂するか音をあげるものなのだがな。歴代の王も王宮主席魔導師さえも不可能であったことだ。」
「頭が破裂しそうですよ…それでは、始めましょうか」そう、僕はグリフォンと闘う資格を得たのだ。その資格とは、グリフォンと対等な存在になること…つまり、グリフォンの知識と魔力を受け止めることができる器がなければならないのだ。
ただ、そんなことはどうでもよかった。僕は得た知識と力を試したくて仕方ないのだ。
「こんな短時間で我の全てを自分の物としてしまうとはな…あの方以上の才覚やもしれぬな。」
グリフォンがあの方と呼ぶのはただ一人だけ、唯一自分の魔力と身体を委ねた存在…勇者と呼ばれた存在である。
そして、激しい戦いが始まった。上空を滑空するグリフォンに遠距離魔法を打ち込んで行く。
グリフォンも遠距離魔法で応戦してくる。僕の予想以上にグリフォンの遠距離魔法の精度が高く、僕の防御魔法が一方的に削られていく。(移動しながら…なんて精度だ。)
同じ威力なら、上から攻撃する方が有利である。しかも、グリフォンは高速で移動しているのだ。これでは、歩兵と戦闘機の戦いである。勝ち目がない。
なので、前世の記憶を思い出し対応可能な兵器をイメージする。思いついたのは高射機関銃である。魔法に回転を加えて速度と飛距離を伸ばすことに成功する。
僅かなさ差だが、徐々にグリフォンの防御魔法の損傷率が僕のそれを上回った。
堪らず、グリフォンは接近戦に切り替えてくる。お互いにぶつかり合う防御魔法。
このまま防御魔法がなくなれば、鋭い爪も嘴も持たない僕が不利になる。不利と言うよりも、僕が勝つのは不可能だ。人が猛獣に素手で勝てるはずがない。
ギギガガガ…互いの防御魔法が削られなくなった瞬間、僕は何もない空間から一振りの刀を作り出した。
「な…なんだと…我の技だけでなく。あの方の技まで使うと言うのか!」そう、それはグリフォンの記憶にあった勇者の技であった。
数時間の戦いの後、精神世界でボロボロになって、グリフォンの前に跪くように座り込む。精神世界にも関わらず呼吸が苦しい、手がしびれて動かない…限界だ…もう戦うことは出来ない。こんな苦痛は前世で死ぬ直前以来だ。
「ふはははは…」グリフォンは堪えきれぬように笑い出した。そして、前足の爪先を僕に向けて言い放つ。
「まさか我が敗れるとは…人間に調伏されるのはあの方以来2度目か…」?…見ればグリフォンの胸には僕が作り出した刀が深々と突き刺さっている。現実世界であれば間違いなく致命傷だろう。
「いえ……勝ったとは言い難いですね。現実世界ならこちらも戦闘不能で引き分けです。しかも、はじめから接近戦で戦われていたら、一方的にやられていました。」
「フン…その歳で我と引き分け、あの方の御技まで手に入れたのだ。…まさに天才とは汝のことだ誇るがいい。汝のような若造に…第一調伏とはいえ調伏されるのは口惜しいが…仕上げを行うがいい。」
「…仕上げ?」何それ?それに第一って?
「名をつけるのだ。汝と我をつなぎとめるな」
いきなりそんなことを言われても困る。グリフォンだから…
「えーと…グリーク?」
「よろしい…我はエトグリーク!偉大なる龍の末裔にして、空を統べる者!汝ラース リットラントの生ある限り、我が忠誠を汝に尽くそう!」
エトグリークのその言葉を聞くとラースは現実世界に引き戻された。それと同時に、エトグリークを拘束していた鎖が砕け散る。
エトグリークは何事もない様に鉄の牢屋を破り、そして、僕の前に立った。(で…でかい中国でみた虎の2倍はある。)
「我の額を触れ!」恐る恐る額に手をやる。触れた瞬間、魔力の総量が驚くほど増えた。
「すごい!力が溢れてくる。」
「汝と我の魔力を統合した。これで汝は我の魔力を自由に使うことが出来る。」
その後、ベルフェルム殿下に調伏が成功したことを伝えると褒美として大金貨を百枚もくれた。
平民なら大金貨一枚で2年は余裕で生活出来る。それを百枚…グリフォンから知識と力を得たので…これ以上の報酬をもらうのは何か悪い気がするので辞退しようとしたが…
「これは先行投資だ。返すことは許さん。好きに使うが良い。もちろん、今後も余に尽くしてくれれば、厚遇を約束する。」と言われた。要するに、お近づきの印みたいなモノらしい。
それならば、貰わなければ逆に失礼に当たるだろう。と考えてありがたくいただくことにした。
王位継承の可能性の高い王族との繋がりも出来た上に、グリフォンと大金まで手に入れた。怖いぐらいに出来すぎだ。
ちなみにオースティンの通貨の交換率は
大金貨=正金貨10枚
正金貨=銀貨10枚
銀貨=銅貨10枚
銅貨=鉄貨10枚
鉄貨=銅銭2枚
銅銭=鉄銭5枚
となっており平民の平均月収は銀貨4枚ほどである。大金貨百枚がどれほど破格か…わかるだう。