王族
ーーーシルビアと友誼を結んでから、3日後のこと。ミリィとともにベルモント家に招かれた。どうやら、シルビアとミリィは旧知であるらしい。
当然と言えば当然か…王族と公爵家知り合いでないはずがない。さらにいえば、3大王家でザルフを支持しているのはベルモント家だけなのだ。
そのため、シルビアとミリィは幼馴染みのような関係らしい。
「いつか、殿下にご紹介しようとは思っていたのですが…まさか、先にお知り合いになってしまうなんて、強者同士は惹かれ合うものなのですね。」
「いや、まさかミリィの同居人とはな…世間は狭いな。」一見すると仲が良さそうだが…実際は違う。すでに、ベルモント家へ向かう馬車に乗るとき、僕の隣にどちらが座るかで揉めている。
それに関しては、僕が3人掛けの真ん中に座ると申し出て解決した。ただし、機嫌が治った訳ではない。
シルビアはミリィに見えないところで、僕の脇腹を思い切りつねりあげている。(余を口説いておいて、他の女と同居するとはどういうことじゃ?)と訳せる。口説いた覚えなどないのだが…
ミリィはミリィで先程から、僕の足をヒールの踵で強く踏み締めていた。(私の目の届かないところで、何があったのかな?帰ったら説明してもらうから。)と訳せる。ハッキリ言うがやましい事などなに一つもない。
かと言って、どちらを立てても角が立つのだ。現状維持が最良だと考えて、ベルモント家に着くまで我慢することにする。
そんな事をしているとベルモント家に着く,大きさと作りはザルフの家に似ているが、所々に王家の紋章が施されていた。
ベルモント家に入ると執務室にいる、主人のもとへ通される。シルビアの父はベルモント家の当主であり、王位継承第2位の大物である。
シルビアが部屋をノックする。
「失礼します。」
「よい、入れ!」
許可を受けてシルビアに続き部屋の中に入る。大きめの執務室の机に座り、こちらを睨むような鋭い視線を向けてくる銀髪碧眼の大男がそこにいた。
「シルビア、ただいま戻りました。」
跪くシルビアに続いて、ミリィと共に跪づいた。
「公爵家ザルフ ハインラントの娘、ミリィティア ハインラントです。お久しぶりです。」
「辺境伯ゼロフィス リットラントの息子、ラース リットラントです。お会いできて光栄です。」
「ふむ、ベルモント家当主ベルフェルム ベルモントだ。久しいな、ミリィよ。そして、リットラントよ!よく来た。お前の噂は、友人であるザルフ公からよく聞いている。」
「聞いた内容が、あまりに現実離れしていたからザルフ公の戯言だと思っていたが…我が娘まで同じ様にお前を英雄になる器であると言う。これでは、信じないわけにはいくまい。」
「多大な評価です。自分は英雄の器など程遠い凡人でございます。」
英雄扱いされるのは悪くない。ただ、面倒ごとが舞い込むのは勘弁してほしい。
「ハハ…謙虚なのは良いことだ。それで一つ頼みがある。当家が王より預かっている一匹の獣がいる。その獣を調伏してほしい。うちのシルビアでは無理だった。歴代の王宮主席魔術師でも調伏できなかった獣だ。」
ほら来た。面倒ごとだ。しかし、断れそうもない。王族からの直接の願いだ。
「わかりました。出来る限りやってみますが、主席魔術師殿が無理だった獣を私如きが調伏出来るとは思えませんので、予めご了承ください。」
この世界で言う、調伏とは動物や人を魔法的に従属させることを言う。
「わかっておる。ただ、これは王位の継承を左右する重大な仕事だ。成功した暁には、それなりの褒美をやろう。後、獣については調伏した者に授けるとの王命もある。」
あまり乗り気でないことを悟られたらしい。ただ褒美なんて欲しくはない、生活するには十分すぎるぐらい金はあるからだ。獣に至っては興味すらない。
(まぁ、適当にやって帰るか)
「それでは、すぐに取り掛かってくれ。シルビア案内してやれ。」--
シルビアについて地下へ向かう途中、なぜ王位を左右するのか質問する。
王国では王の子息が王位継承権を持ち、通常であれば長子が継承することになる。これは前世でもこの世界でも一般的な方法だ。
しかし、王に子息がいない場合、三大王家であるヴェルセン家、ベルモント家、グレン家から王位継承者を選ぶことになるのだが、その継承順位の決定方法が特殊なのだ。
継承順位は血統と功績で決まる。王位を継承するには、王又は三大王家の血統を持つ者で、王の直系以外は三大王家に属していなければならないとされている。
次に功績は今までに就任した役職ごとにそれぞれ割り振られた点数で決まる実績点と王が出す10の王命をやり遂げた時にもらえる王命点がある。
実績によるポイントは、ヴェルセン家が宰相メルーボ15P、ベルモント家は王国軍副元帥(元帥は王が兼ねるため実質の軍トップ)ベルフェルム10P、グレン家は外務卿と財務卿を兼任するブルーフ8Pである。
王命については、1つの王命で5Pがもらえる。現在は6つの王命を終えて、ヴェルセン家が2勝、ベルモント家が2勝、グレン家も2勝と10Pずつ取り合っている状況だ。
ただし、ヴェルセン家とグレン家は協力関係が強いためベルモント家が1位となった場合、両家の合計ポイントを上回らないと厳しいらしい。これは無理だ。残りの王命は今回を合わして4つ、この全てを勝利しても両家の合計点に及ばない。
ただ、そうではないらしい。この獣の調伏は最難関の王命であり、勇者が調伏してからは調伏出来た者は一人もいないらしい。ポイントも他の王命の4倍の20Pがもらえる。これなら、残り4つのうち獣の調伏を含めて3つを達成すれば王位継承権を得ることが出来る。
そんな事を話していると、獣を閉じ込めている牢屋の前に着いた。牢屋の中には、鷹のような頭部と前足を持つライオンの様な生き物がいた。見たことのない生き物だ。
ただ、その姿には見覚えがある。王家の紋章に描かれ、オースティンの象徴であるグリフォンであったーーー。