転機
盗賊討伐から一週間後、いつものように目を覚ます。頭が痛い…セロアに怖いと言われたこと、そして泣き出しそうな目で見られたことは、思っていた以上に心身に堪えた。
さらに、セロアに避けられるようになったのだ。昼寝の時間にも部屋に来なくなった。
自分の全てを理解してくれ、受け入れてくれると思っていた。
悪いことをした自覚はない。ただ、言われれば思い当たることがあった。直近に行ったことを思い出す。まず、僕は見張りの盗賊2人を殺した。目的を達成するために最も確実な方法だったからだ。
しかし、生かして捕まえることも可能だったし、人を殺したのに…僕は当然のように振舞った。
ここで、前世で初めて人を殺した時のことを思い出す。
前世では全く余裕はなかった。殺した直後のことは、ほとんど覚えていない。やらなければやられる状況だったからだ。必死に反撃した。
その後、相手の武装解除が完了し、敵兵の死体を見た時に人を殺したことを自覚した。足は震え、嘔吐したことを思い出す。
思えばその後は何人殺しただろうか?最後の玉砕では、玉砕命令をあんなに嫌悪していたにもかかわらず、一人でも多くの敵兵を殺そうとしていた。いつの間にか殺すことが当たり前になっていたのだ。
あの時、あの戦争では周りもそうだったから、異常だと思わなかった。殺さなければ、次は自分や家族がやられると本気で思っていた。
だが、今はどうだ?人を殺して平然としている8歳児…異常だよ。どう考えてもね。
他にも問題があった。僕の魔法の活用方法が軍事利用に偏りすぎていることだ。前世が軍人なので仕方ない部分もある。
しかし、魔法に精通し、争いを好まないセロアから見たら魔法を人殺しの手段としか見てないように写っただろう。さらに、強力な魔力を持っていれば…怖がられるのは当然か?もしかすると…以前から恐怖心を持っていたのが、今回のことを切っ掛けにして表面化したのかもしれない。
とはいえ、現状は打つ手はない。今の僕がいくら弁解しようとも、表面的な物だと思われるだろう。
言葉で言いくるめても、より関係が悪くなるだけだ。かこくな環境には耐えられても、これ以上、セロアに冷たくされたら僕の心が耐えられない。
自分の心の脆さに驚く。幼い身体に精神も幼くなったように感じる。いくつになっても人は傷つきたくないのだ。
コンコン、ドアがノックされる。セロアだったらノックなどしない。勝手に入ってくる。だからこれはセロアではない。
「…どうぞ」
「こんばんは、ラース」
プラチナブロンドの美少女が入って来た。ミリィだ。寝る時間にはまだ早いが、最近はこうして少し早めに来て、一緒に話すことが多くなった。
どうやら落ち込んでいる僕を慰めようとしているらしい。この少女は、気の強そうな顔をしているが心優しい少女だ。一緒に遊んでそれはよくわかっている。
「こないだの盗賊討伐で何かあったの?あれから元気ないよ。セロアさんもだけどさ。」
「いや、なにもないよ。ちょっと疲れが取れなくて…」
「そう…ならいいんだけど、私に出来ることがあったら言ってね。ラースの力になりたいんだ。」
「ありがとう。ミリィ」
疲れた顔で無理に笑う。恐らくうまく笑えて無いだろう。
「無理しないでね。」ミリィは僕の隣に寄り添うように座ったーーー。
寝る直前、ミリィは言い出しにくそうに言った。
「そういえば、学校のことなんだけ…」
学校…オースティンには5つの王立学校がある。いずれも王都周辺にあり、軍学校がほとんどであるが一つだけ…貴族院学校だけ異なる性格を持つ。
他の学校が身分に関係なく生徒を受け入れているのに対し、貴族院学校は貴族の子息しか入学出来ない。また、選抜試験も厳格で優秀な者しか入れないそうだ。
つまり、将来は国の中枢を担うエリート達の集まりなのである。ミリィが公爵家を継ぐなら必ず入学しなければならない。
貴族院学校での人脈は、非常に強く、卒業生とそうでない者では驚くほど扱いが違う。
ただ、ミリィの家は相続争いの真っ只中だ王都に帰れば命の危険もある。半ば諦めていたらしいが、僕を見て気が変わったらしい。
僕と一緒に行けば…僕が側にいれば、毒殺から襲撃までだいたいの危険は避けられる。
通常、10歳からの入学だが、特別選抜と呼ばれる試験があり、優秀であれば10歳未満でも入学可能らしい。
最初はこの話を断るつもりだった。この世界の学校がどんなものなのか、同年代の若者がどの程度の実力なのか、興味はあった。しかし、セロアとの契約は10歳までなので、それまでは家を出ず、セロアとおもしろおかしく暮らそうと考えていたからだ。
ただ、今のセロアは僕を怖がっている。僕がこの家にいない方が安心して生活出来るのでは無いだろうか。
そう考えると、行ったほうがいいような気がしてきた。今、僕が学校に行ったとしても、セロアには満額の退職金と残り2年分の給与が渡されるはずである。
無理に僕の側にいる必要はないのだ。泣きそうな気分になるが…
「そうだね…ミリィ…一緒に学校に行こう。」
絞り出すようにそう言った。それが間違いだったのか、正解だったのか…わからない。
貴族院学校に入校したいと言うと、ゼロフィスもキャルロアも賛成してくれた。…セロアは平静を装っていたが、明らかに動揺しているようだった。
ここで失敗に気づく、セロアにまず相談しておくべきだった。この場ではセロアに反対する権利はない。
本人が希望し、保護者二人が賛成しているのだ…反対など出来ないだろう。
もし、事前に相談すれば引き止めてくれただろうか?そんなことを考えたが…もう遅い。もしかすると自分だけ除け者にされたと感じたかもしれない。
ただ、弁明している時間はなかった。試験まで日がないことから、すぐに王都ウェルボンに向かうことになったのだーーー




