少尉の盗賊退治②
8歳になった…朝目を覚ますと、ミリィが隣で寝ている。あの誘拐事件以降、ことある毎にミリィが僕のベットに入って来るようになった。
はじめは本当に怖がっていたため、邪険にも出来ずミリィが眠るまで撫で続けたこともあったが…それがまずかったのか?今では当たり前のように、入って来ようとする。
対策として、部屋をしっかり施錠したのだが、そうすると廊下で寝ていたことがあったので開けておくことにした。メイドにも頼んでみたが、最終的には主人の意向には逆らえないらしい。
ただ、一緒に寝ることは譲らないものの、他のことでは僕の言うことをよく聞くようになった。魔法に関しても初級魔法はほとんど使用出来るようになっている。
他に変わったことはゼロフィスに仕事を任されたことだ。その内容は、領兵何人かを連れて山賊「龍の尻尾」を討伐することだった。
オースティン王国と帝政マーシアの停戦成立後、多くの傭兵が解雇された。その多くは定職につけず野盗や山賊に身を落としている。
その被害は馬鹿にならないため、リットラント領軍による山狩りが定期的に行われている。
当初は成果を出した領軍による山狩りだったが、そのうち領軍が動くと山賊達も身を潜めてしまうようになり成果がでなくなった。
領軍による討伐によって、山賊達も組織化して対応しようとしているのだろう。村や街に協力者がいるかもしれない。
と考えれば、領軍は動かせない。ならば同等の力を持つ者に少数で動いてもらう他ない。
ゼロフィスは年齢に関係なく、能力で仕事を任せる。そこは好感が持てる部分でもあるが…さすがに8歳の息子に盗賊の討伐をさせるのはどうだろうか?
案の定、お母様とセロアから猛反発を受けていた。だが、ゼロフィスも食い下がる。この作戦がどれだけ有用か語っていた。
ゼロフィス…頭はいいはずなのだが、脳筋すぎる。子供の身を案じる女性陣に作戦の有用性を説いたところで意味がない。まぁ、前世の僕もそういった女性の機微に無頓着だったけどね。
山賊の討伐かぁ。ゼロフィスは戦いのプロである。こないだのリーダー格の男を捕縛した件もあり、僕に私兵を何人か任せれば危なげなく討伐できると踏んでいるらしい。
その見たては、おそらく間違っていない。今の自分の力がどの程度通用するのか。再び試したい気持ちもあった。なので、ゼロフィスに助け舟を出す。
「僕はやりたいです。」
お母様とセロアが驚きの目を向ける。
「ダメです。」セロアが真っ先に反対の意思を示す。
お母様もそれに同意の意思を示す。
「お母様、先生、僕は領主の息子です。領主たるもの領民が困っているのであれば、その手助けをするのが当然だと思っています。」
「それにお父様は戦闘のプロです。無茶な作戦ならば8歳の息子に任せたりしません。それに、危ないと判断したら、早い段階で引き上げて来ます。」
お母様とセロアに困惑の表情が浮かぶ。
「ミリィはどう思う?」
ここで、ミリィに意見を求める。9歳になったこの少女に僕は絶大な信頼を寄せていた。
「伯母さま、セロアさん、ラースがここまで言うのだから危険は少ないのではないでしょうか?」このタイミングで話しを振られた意味を理解し、即座にフォローしてくれる。
「危険の大小の問題ではありません。戦いに行く以上は不測の事態もあり得ます。死んでしまうかもしれません。他にいくらでも方法があるのに、8歳の子供をそんな危険に晒すのは異常です。」
セロアは間髪入れずに反対する。よっぽど危険なところに行かせたくないらしい。
「そうですね。ただ、ラースは騎士の子です。いずれは戦いに身を投じなくてはなりません。実地で経験を積むのは悪いことばかりではないと思いますが?」
気付けば、僕たち家族を置き去りにして、セロアとミリィが言い争っている。2人とも言っていることは正しいが、これでは平行線だ。
「これは、私がラースに依頼した仕事だ。ラースが依頼を受けると言った以上、私はこの仕事をラースに任せるつもりだ。」
ゼロフィスが強い口調で決定を口にした。ゼロフィスは家族の意見をなるべく尊重するが、一度決定したら覆さない頑固な面もある。
それをわかっているからか。セロアもそれ以上は反対しなかった。
ただ、自分が一緒について行くことはちゃっかり認めさせていた。もしかすると初めから一緒に来ることが目的だったのではないだろうか?
何はともあれ、盗賊退治が決定した。明日から準備に取り掛かろう。ーー
ーーーあの食事の後、盗賊の討伐のために、ゼロフィスは装備などを揃えるための資金をくれた。
そのため、買い物に行くことにした。この世界に来て、買い物などしたことがなかったので、セロアを伴って必要な物を揃えに行く。
捜索に時間がかかるかもしれないので、食糧や日用品を買い込む。ただ装備品を買うだけなのに、セロアは終始機嫌が良かった。
武器も一応買うことにする。セロアに両刃の短剣を買い、僕は日本刀によく似た太めのサーベルを購入した。
セロアに買った短刀は非常に高価な物だったが、一目見た途端にセロアにピッタリだと思い衝動的に買ってしまった。いつ渡そうか?
まぁ、買うべき物は、買ったので明日に備えてゆっくり休むことにする。
父親から貸与された兵士5名は、依頼のあった日から情報収集に動いてもらっている。現在、被害状況と目撃状報から、小隊並み(50人程度)の盗賊団が一つあることが分かっていた。
ただ、一箇所に留まる訳ではなく一定範囲を移動しながら活動しているらしい。
その範囲が思ったより広いので、なるべく直近での目撃情報がほしいのである。
兵士達が持ち帰った情報を、地図に書き込んでいく。この1ヶ月でこちらが把握していない事件が2件あったらしい。いずれも領民ではなく、旅人か商人が襲われている。
ワザと領主側が把握しにくい獲物を選んでいるらしい。頭はそこそこ使っているようだ。ただ、地図を見ると一定の規則性を持って移動していることがわかる。
情報からある程度、敵のいる範囲を掴めたのでその辺りを中心に捜索することにした。
捜索していると、すぐにそれらしき集団を見つけることに成功した。今は洞穴を寝ぐらにしているらしい。
攫って来たのか、裸同然の女性の姿も何人かいる。それを見たセロアが露骨に嫌悪の表情を見せる。
女性達は保護しなければならない。兵士一人に応援を呼んで来るよう命じて、攻撃に移ることにした。
僕はセロアに光魔法を最大出力で準備するように言った。自分自身は風魔法を準備し始める。
見張り以外が、洞窟の中に入ったことを確認した。次の瞬間には見張り役の2人が音もなく倒れた。
風魔法で、鉄の玉を勢いよく飛ばしただけである。回転を掛けることで威力を上げていおり、音も風魔法で相殺している。
セロアは驚愕の目でこちらを見ている。そんなに驚くべきことだろうか?
続いて、洞窟の入り口に近付き洞窟内の空気の流れを探る。空気の動きで洞窟の中には50名近い人がいることがわかる。
さらに、洞窟の深さや、他に入り口がないか。空気が漏れるような穴はないか調べる。
どうやら、問題ないようだ。セロアと兵に下がるように伝える。そして、洞窟の入り口を塞ぐような形で付近の空気を圧縮した。やったことはそれだけだった。
洞窟内の火が消えたこと、中の人が
動かなくなったことを確認して、ゆっくりと空気の圧縮を緩めていく。
洞窟内に空気が十分戻ったことを確認し、兵には行動不能になっているであろう盗賊の捕縛を命じ、セロアには捕まっていた女性達の治療をお願いした。
兵は理解が追いつかないらしく、不思議そうな顔をしていたが、盗賊が失神しているのを見ると命じた通りに行動を起こした。
セロアは何をやったか理解したらしく、瞬時に行動に移っていた。
1時間後に応援が到着し、捕縛した盗賊を引き渡し、治療した女性達を保護してもらった。
ゼロフィスに報告するために、セロアと一緒に家路につく。
「いつ、あんなことを思いついたんです?」機嫌悪そうに質問してくるセロア。
「鉄の玉を魔法で飛ばしたことですか?それとも洞窟内の空気を抜いたことですか?」
「両方です。まるで以前から練習していたように感じました。」
「練習はしていません。ただ、以前からこういったことも出来るだろうと考えていました。」
「思いつきですか?もし、洞窟内が脆かったり、他に入り口があった場合は失敗したはずです。その場合どうするつもりだったんですか?」
ん?いやに突っかかるな。
「最初に洞窟内の空気を探って、他に入り口がないか。強度は十分にあるかを空気の流れで確認しました。それと」
「もし、実行できない場合は風魔法で火を消した後で、先生に最大出力の光魔法を洞窟内に放ってもらい、盗賊が混乱状態になっているところを叩くつもりでした。」
「それでは、質問を変えます。ラースは今回、最小のリスクで最大の結果を出しました。これは本来なら褒められるべきでしょう。」
その時、セロアの顔をはじめて見た。今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「こんなこと言うべきでないこともわかっています。ただ、何故ですか?人を殺したのに何故!そんな平気な顔をしてられるのですか?私はラース…あなたが怖い」
「…え?…」その言葉とその顔を見た時の僕は本当に情けない顔をしてしていたと思う。
何故だ?いつも味方でいてくれたセロアに怖いと思われるようなことをしただろうか?
今回もセロアや味方が最も安全な方法を選んだ。それは、セロアも理解しているはずだ。何故?何故?頭が混乱する。--その後は何を話したか覚えていない。




