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堕天のナイフ  作者: ゴマちゃんなしでは生きられない (ゴマなし)
9/30

★『堕天使』と呼ばれる男

「…あー、やーっと回ってきた。俺のデビュー戦がさ。」


月の照らす夜の静けさとは裏返しに、幾つもの車が音を奏でる都市部の一角を見下ろし、男はタバコを吸っていた。夜の背景に溶け込むように目立たないフード付きの黒服を着て、そこから覗かせる目つきはどこか獣のような獰猛さを感じさせる。

そこはイギリスの都市部に建つマンションの一室のベランダで、そこから都市部特有の光の煌めきがよく見える。ただ、男はそれがうざったくてしょうがない。田舎のゴミ溜めの様な町で育ってきた奴にとってはここは小洒落過ぎだ。さっさと『仕事』をして、念願のデビュー戦を完了したい。


「もう予備役は勘弁っすわぁ…」


いわばこの仕事はゴミ溜め生活をしていた時にやっていた事と然程変わらないわけだが、それでもこの『組織』に入ってからというもの、雑用が多すぎる。大抵用がなく、待機して終わる事がほとんどである『予備役』としての仕事が多い。

つまり主役じゃない。今までは。


『コードナンバー、4649、用意はいい?』


左耳につけていたイヤホンから色気のある声が流れてくる。ウチの作戦長みたいなポジションの人だ。確かコードネームは、


「いつでもいいっすよ、『ヴィーナス』」


タバコをふかしながら男は陽気に答える。


『確認したわ。任務遂行準備に入る。よく聞いて』


『ヴィーナス』は美人の方だと聞いているがどんな人なのだろう。あえる機会があれば是非ともお茶してみたいなと、今全く関係ない事を思った。


『3分後、その射線上に赤色の車、プレートナンバー514が現れるはずよ。今回のターゲットはそれ。その車を無力化させて頂戴』

「無力化、って事はターゲットの運転手を射殺してもいーんだよな?」

『許可するわ。手段は問わない。結果が全てよ』

「…あーい」


陽気な返事とは似合わないであろう相棒であるスナイパーライフルを丁寧に撫でた。自分の身体程ある相棒と、俺はこの任務を遂行しなければならないのだ。


『以上よ。健闘を祈る』


それっきりイヤホンからは何も聞こえなくなった。後はまぁ頑張れって話なのだろう。俺はそんな事を気にせず、一枚の袋を取り出した。


「……失敗は出来ねぇからな」


その袋を破り、中身の粉を口に含み、飲み込む。身体の中に入り、しばらくすると自分の身体が火照って、無理やりエンジンを掛けられたかの如く気合が入る。

徐々に何かが広くなる。世界が、広く、なる。

感覚は限界まで研ぎ澄まされ、余計な思考を抜かれていく。その感覚を受け入れ、男はスナイパーライフルの前にがっしりと陣取り、確認ついでにスコープを覗く。


「…ヨォク、見えるねー。えへッ」


自分の目がはっきりと開く。瞬きを必要としない程だ。これなら外す事はないだろう。今日の風は静かだ。弾がぶれることもない。


「残り、30秒」


大きく息を吸う。チャンスは恐らく一回。外す事はないだろうが、デビュー戦を万が一にでも失敗は許されない。


「10秒前……へへ、きたな、」


大きく息を吸って精神を落ち着かせた後、スコープを覗くとターゲットである車を確認した。間違いない、あれだ。凄い勢いで蛇行しているが、所詮は射線上だ。落ち着いて照準を合わせれば外さない。


そして、その時が、来た。



「3、2、1……バーン」



男は引き金を引いた。マズルフラッシュと耳を狂わせるような銃音と共に銃弾は飛んでいく。一秒もしない内に銃弾はターゲットに吸い込まれ、運転手を倒す。そんなビジョンが確信していた。

しかし、その男は確かに見た。


「……え」


スローモーションになったかの如くスコープ越しで、自分が殺意を込めて放った銃弾が、


『別から放たれた銃弾』によって弾かれ、軌道を修正されたのを。


その結果男の銃弾は明後日の方向に飛んでいき、関係のないビルの壁に着弾。ターゲットに届いていない。無力化は成立していなかった。

そっと背中を撫でられたような悪寒と、何が起こったかが理解できない思考の渦が押し寄せてくる。ようやく出てきた言葉は、言葉にならない反射による戸惑いの声だけだ。


「……は、……え……?」

『コード4649、外したの!? 現状報告を』


先ほどまで沈黙していたイヤホンからたくし上げるように『ヴィーナス』の声が飛んでくる。その声に余裕はない。だがそれは男も同じだった。失敗が許されないデビュー戦でやらかしたのだ。


『再装填……いや、やられたわ、進路を変えられたっ!』


『ヴィーナス』は弾の再装填を命令しようとして諦める。恐らくターゲットも狙われていたことに気づいたのだろう。男の射線上にいた車はいとも簡単に横道に逸れて逃げ出した。


『くっ、……コード4649、現状報告を! 何があったの?!』

「わ……わかんねぇよ……。ただ俺は完璧に狙った…。でも、なんか…別の銃弾…弾かれて…それで…」

『…まさか、邪魔が…?!』


『ヴィーナス』も戸惑っているようだ。男の言い分にも気になる事は山ほどあるが、だがターゲットを追うことが先、そう判断した『ヴィーナス』はもはやこれ以上コード4649である男には言葉をかけなかった。


『……索敵を優先して、予備役をフル動員して……』


『ヴィーナス』は即座に指揮をとる。ターゲットを逃すまいと躍起になるが、内心してやられたと思ったのだろう。声に覇気がなくほとんど期待もしていなかった。だが、



『……………10秒後、無力化する。強襲班の突撃命令を頼む』


『……えっ!?』


イヤホンから別の男の声が流れてくる。恐らく共同の連絡網を駆使している事から予備役に違いない。しかし、ターゲットは射線外へと逃げた。予備役がどう頑張ろうと今の位置ではどの予備役も不可能、なのにどうやって無力化するというのか、などと男が考えていると、


『…!! ターゲット沈黙、無力化成功ですッ! 強襲班も突撃済みです!』


『ヴィーナス』でもさっきの男でもなく、報告員が作戦成功を知らせてくる。まさか…そんなわけがないと男は動揺した。だが、『ヴィーナス』はそう来たかと一言呟いただけで、対して驚いている様子が見られなかった。


『……一応聞くわ。無力化したのは、誰?』


『ヴィーナス』は深いため息を吐いた後、分かっているけど、と言わんばかりに冷静に確認してくる。報告員は一呼吸おいて、告げる。



『――――……コードネーム、【堕天使】です。』


メインストーリーはほんの少しダーク色が強くなったりします。シリアス色も。そこんところ、コードネーム、4649ならぬ、この作品をヨロシク。


…………コードネーム4649の代わりに謝ります。本当に申し訳ありませんでした。。


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