★しあわせと出会う乙女EP
時間にして、おおよそ数秒の事だっただろう。時間にすれば数秒、体感では数時間そうしていた様に感じた触れ合いは、ゆっくりと終わりを告げた。その後、数秒余韻に浸る様に見つめていたが……、
「……………。」
「……………。」
「……………………………ポワッ!!」
先に羞恥に耐えきれなくなった僕は、俊敏な動きで黒崎と距離を取った。10メートル程。我ながら素晴らしい動きだったと思う。
「…………きり」
「あッ!! えっとボク、ソロソロ、おうち、かえるッ?? すごい、おうちにかえるよっっ!!」
自分でもその後はよく覚えていない。逃げる様に走って立ち去った。
……が、すぐに手にキャリーバッグが無いことに気がついて慌てて黒崎の横に置いてあったのをかっさらい、凄くおうちに帰った。
慌ただしく帰宅してすぐ、僕は荷物を置いて布団にダイブした。
現実から目を反らすのに凄い便利なオフトゥン。それに来るまって、僕は、
「う〝う〝う〝ぅぅぅぅ……」
鳴いた。まるで猛獣の鳴き声のように。自分でも凄い声が出てるなと思う。
理由はもちろん、さっきの事だ。
お礼とはいえ、僕のワトソンである黒崎と……キ……キ……
「キエエェェェンっっ!!」
恥ずかしすぎる。ナンデ!? なんで僕キ……なんてしちゃっタノー!? 今思えば、何てことをしたんだ僕は。
「…………どない、しよ」
耳に残った関西弁でついボヤく。先ほど怖がっていた思いは何処へ。今は羞恥に支配されてしまっていた。
……でも、仕方がない。したかったんだ。自分が。
もちろん勢いでもある。でもそれ以上に、黒崎への気持ちが高ぶってしまったのだ。抑えきれない、ほどに。いつもの自分なら、考えられない。それほど、事件の恐怖により精神的に不安定になっていたのだろう。
「…………。」
この気持ちは、例えるならば小さな種。
初めて出会った日が過る。勘違いした事によるきっかけから始まった、黒崎との探偵ごっこ。
彼は一言でいえば、お人好しだった。
僕がついてきてと言えば、彼は面倒くさそうにしつつもついてきた。今日みたいな猫探しから、ちょっとした事件まで。……もちろん、前みたいに女装してホテルに入ってと言った時は、全力で逃げるみたいだが。
そんな探偵ごっこを一年近く続けてきて、僕はいつしか、彼を相棒だと思うようになった。本当に、僕にとってのワトソンだったのだ。
そして、その頃からだろうか。僕が、満たされる心に比例して、大きくなる『感情』を抱えたのは……。
その『感情』は、なんとなく気が付いていた。だが同時に、それを理解してはダメだと、直感が告げていた。『まだ』気がついてはダメなのだと。
コレは、僕の『使命』を邪魔をする。そう思ったのだ。
「……そう、僕は、」
まだ、『女の子』になるわけにはいかなかった。僕には、成すべき大事な『使命』がある。
僕はそのために、ホームズになった事を忘れてはならない。全ては、『真実』を知るために。だから、その『感情』を認めるわけにはいかない。……はずなのだが、
「今日だけ……限定おんにゃのこだもん……」
一度燃え滾った熱はそう簡単に冷えてはくれない。なので、今日だけ、そう言い訳をする。明日からは、また捜索だ。明日からはまた、『桐谷勇気』になる。女の子になってる場合ではない。
今日の事は、『なかったこと』にしよう。そうして、忘れよう。
謎を解決する足跡はまだ掴めていないのだから……。
「…………。」
唯一の手掛かりは、一枚の新聞の記事。
それはこの近くの地区での殺人事件。もう一年以上前のもの。容疑者も、被害者も死んだ、奇妙な事件。これは遠目から撮影された建物の写真だ。
その写真に、僕は異物を見たような奇妙さを感じる。
確証を得たわけじゃない。はっきりしたわけじゃない。
けれど、その写真には、確かに『真実』かもしれないモノが、
「………………………お姉ちゃん」
ホームズの謎解きは、まだ終わりには遠い……。
しあわせと出会う乙女、終わりです。どうでしたでしょうか。個人的には、色々と書くのが楽しく、同時に難しい話でした。雰囲気がコロコロ変わっていったので、読者にとっては置いてけぼりを食らった人もそう多くないのでは、と。
ところで、今回の題名について、解説します。
しあわせ、これは物語前半部分の死と隣り合わせの状況、そして物語後半部分の幸せと呼べる状況の二つの意味を込めて使いました。
乙女は、桐谷ちゃんの事ですね。今回のメインは彼女でしたから。
実はもう直ぐ序章が終わります。残り2話なんです。よければもう少し、お付き合い願います。




