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堕天のナイフ  作者: ゴマちゃんなしでは生きられない (ゴマなし)
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★しあわせと出会う乙女6

柱間は、犯人の要求通り、食料と飲料水を届けて裏口から出た。扉を閉めた後ゆっくりと、タイミングを計る。


「……予定通り1分後、突撃を開始する。カウント、開始…」


柱間は全体に告げる。恐らく反対側で待機する部下達も緊張しているだろう。けど、焦っては負けだ。犯人の緊張感が解けて、不意をついてこそこの作戦の成功率はグンと上がる。


柱間は、逸る気持ちで時計へと目を落とす。後、15秒。


「…………。」


やる事はやったのだ。

その時を待つ。残り10秒。



「………7、6、5…」



カウントゼロと共に、突撃命令を出す、その数秒前の事だった……。



「…………ッ!? ガスですッ、何かのガスが大量に流れてきていますッ!!」

「……?!」


柱間は建物の上層を見た。まるで銀行が大量の空気を排出するように、勢いよくガスが漏れ出ていた。銀行を取り囲む白い煙は中にも充満しているようだ。


「警部ッ、視界が悪くて突撃するのは一苦労ですッ!!」

「計画に気付かれたのでしょうか!?」


焦る気持ちで部下達が思い思いの事を口にする。


……本当に、気づかれたのだろうか?


犯人がここまでする理由が分からない。もしかしたらイレギュラーな事態かもしれない。で、あるなら、この混乱に乗じて…


「……10秒後、突撃っッ!! イレギュラーな事態だと判断し、人質の安全確保を第一に犯人を無力化しろッ!!」


俺はゴーサインを出した。大丈夫だ。この判断は間違っていないはず。もし仮にこれがイレギュラーなら、一番焦っているのは犯人なのだから。だが、しかし……



「……一体……どうなって……」



唖然として、外から眺めることしか出来なかった……。





「逃げるぞ、掴まってろ桐谷」


俺は桐谷を抱えて、先ほど警察官が出入りしていた裏口ではなく、今気絶しているこの男が出入りしていた扉を蹴飛ばして開けた。

中は、すでに白い煙で充満していた。それは事務室だけでなく、人質が固まっていた中央部にまで行き届いていた。桐谷を抱えたまま全力で走る。中央部にいる人質達は、時期に警察が保護するだろう。


(だが、『俺たちが保護』される訳にはいかない……。)


そのまま二階へと駆け上がる。後ろから慌ただしい足音が聞こえてくる。どうやら警察が突入してきたようだ。だが、この視界の悪さだ。俺たちが見られる心配は万が一にもない。

二階に上がってとある一室に入る。そこで『準備してあった』ワイヤーを右手に持ち、窓をまたいで下に降りる。白い煙で覆われた銀行で、遠目から見て、俺たちがこうして裏手にある二階の窓から降りる姿を視認することは出来ないのは、既に確認済みだ。


無事に降りた後は『足を残さない』ためにワイヤーを回収。胸ポケットにねじ込んだ。


そうしてようやく、腕の中にスッポリとハマる猫探偵ホームズが、自分を凝視している事に気がついた。


「…………。」


ホームズ、桐谷は何も言わずにただ俺を見つめていた。目が少し赤く腫れている。雫の後も見える。……もしかしたら、怖くて泣いていたのかもしれない。

その瞳から、「どうして?」という疑問が伝わってきた。恐らく、「どうしてここに?」って意味だろう。

本当なら、ここは逃げる事に徹する事が先で、無駄口を開く余裕はない場面だ。しかし、


「……聞きたいことがあれば、逃げながら手短に話そう」


そこで俺は、「今は我慢しろ」とは言えなかった。疑問をぶつける権利が、恐怖を体験した被害者の桐谷にはある。


「言われた疑問には答える。だが、その前に一つだけ、」

「…………。」


それよりも、彼女には安心してもらう必要がある。状況整理をするのに、気持ちの整理が必要だ。その後で、充分事足りるだろう……。



「……俺は、『逃げるのに夢中で』桐谷の顔を見れない。だから、『もう大丈夫』だ。」


「…………あ……ッ……」



それだけ言うと、俺は被っていた警察が身につける帽子を桐谷に被せた。普通に被せたのではなく、『顔が見えないように』だ。そして、彼女が身につけていた帽子も、手に握らせてあげる。


「………ぅ…ッ……うァッ…ッ……!!」


『もう大丈夫』。その言葉を理解した桐谷は、自分は助かったのだとようやく安心した。安心した後どうなったかは、もう、俺には『見えていない』し、『理解しない』。。



「うッ……うぁぁッ……グズッッッ……うわあアァァァんんん…………ウゥゥ……!!」



白い煙に紛れて、俺達は銀行を静かに後にした……。









5分程走って離れたところで、俺は一台の車に乗り込んだ。それは俗に言うパトカーだった。一先ず落ち着きを取り戻した桐谷は戸惑った表情で俺を見たが、


「これは『今は』俺のものだ、問題ない」


と言うと、


「……黒崎、ジャイアニズムが通用するのはアニメだけで、現代だと犯罪だよ?」


と、いつもの調子で言われた。全く信じてもらえていなかった。


とにかく乗れと促し、渋々な桐谷を乗せた車は、軽快に走り出す。運転するのは、もちろん俺だ。

走り出した車は程なくして交差点に合流。信号の影響で止まらざるを得なくなったところで、桐谷は口を開いた。



「……ねぇ、黒崎」


そろそろ来る頃合いだと思っていた俺は、特に慌てた様子もなく、信号を見つめながら桐谷に返事した。


「約束だからな。聞きたい事があるなら聞こう。」



そもそも桐谷にとっては疑問だらけな事だろう。


何故、俺が警察官の格好をしているのか。

何故、俺が警察よりも先に助けに来れたのか。

何故、俺達は人目を避けて逃げたのか。


考え得る限りでも色々ある。その疑問を、桐谷は知る権利がある。だから、『多少』なら答える覚悟も、ある。



「それで、何を、」


「ありがとう、黒崎」



桐谷の言葉は、俺の聞き間違いで無ければ、感謝と呼ばれるものだった。


「色々、聞きたい事はあるよ。でもね、助けてもらったから、僕」

「礼には及ばない。友人を助けただけだ」

「それでも、だよ。感謝させてよ、ワトソン」

「俺はホームズの相棒なんだろう? それなら、当然のことだ」

「……ふふっ」


桐谷は俺を見て笑った。その笑顔は、俺には眩しかった。


「……礼はいい。それよりも、」

「聞きたい事、答えてくれるんだよね」

「そうだ」

「あるよ。……でも…聞かない」

「……何故だ?」


自分で言うのも何だが不審に思う点が多すぎる。それを答える機会を与えたというのに、彼女は首を横に振った。



「……昔、黒崎を『疑った』こと、覚えてる?」



『疑った』。そのキーワードだけで、俺はすぐに何のことを指しているのかが分かった。本当に、昔の事だ。


「覚えている。初めて、桐谷と話した時だったな」

「うん、懐かしいよね」


昔、桐谷に俺が白雪愛花のストーカーをしていると『勘違い』された事がある。白雪と仲が良かった桐谷は、その持ち前の推理力で俺を疑ったのだが、色々あって違うと納得してもらった。


桐谷との、最初の出会い。



「敵視されてたな、俺」

「あっ、あれはっ! その……愛花の一大事だと思って……その……」

「分かっている。きにするな。ところで、妙に昔の事を持ち出すな。どうした」

「……あの時の汚名、まだ返せてないから。」


桐谷、下を向いて呟いた。どうやらこの少女は、勘違いしてしまった過去の事を、ずっと申し訳なく思って引きずっていたらしい。


「……今回の件、黒崎から何も聞かない。だから、あの時のこと、白紙にして欲しいんだ」

「別に、俺に言いづらい事なんてないぞ?」

「それは嘘。」


桐谷はハッキリと口にする。帽子は被っていないけれど、いつものホームズの様に確信に満ちた台詞だった。


「黒崎はさっきから、観念した様な物言いだった。それに、なんだかんだで何があったかを『自分からは一切話さない』。それは、必要以上の事は聞かれたくないっていう表れだよ」

「……。」

「僕も想像だにしない、いろんな事があると思う。でもだからと言ってそれを聞くのは、助けてもらった身としては恩着せがましいような気がするから。だから、」

「…………。……それで気がすむなら、それでいいが」


俺は、否定も肯定もしない。桐谷の決心に水を差すような気がするから。だから、受け入れる事にして、青信号になったのを確認して、車を走らせた……。





夕日で空がオレンジ色になった頃、車を止めたのは、桐谷の自宅の近くであった。元々桐谷を送るつもりで、その進行方向に車を走らせていたのだ。


「……着いたぞ、桐谷」


俺は車から降りて、桐谷の座る出口のドアを開けて、出してやる。


「ありがと、黒崎」


桐谷はピョンと車から飛び降りると、空気を感じるように深呼吸した。


「……ふにゃー……」


変な鳴き声と共に、深呼吸をする桐谷を横目に、俺は車の荷物置き場からキャリーバッグを取り出した。


「桐谷、これを忘れるな」


俺はチャリンチャリンと鈴が鳴るキャリーバッグをコロコロと転がして桐谷に渡す。


「あ、そういや山田さん家の猫を返す最中だったね」

「ついでに言えば、銀行から金は下ろせたのか?」

「うん、それは大丈夫だよ、クレープは、また後日だね」

「今日はゆっくり休め。以来の報告は明日にでもすればいい」

「そうする。それにしても……」


桐谷は夕焼けの空を見上げた。先ほどの慌ただしい時間はどこへ行ったと思うほど、音は静かだった。


「……長い、1日だったね」

「…………。」


学校、猫探しから始まり、銀行強盗に巻き込まれ、逃走。聞くだけで濃厚な1日だと分かる程だ。


「……黒崎」

「なんだ?」

「僕、嬉しかったよ」


桐谷の顔が夕日のせいか、少しだけ頰が赤く見える。


「もう少しで大事なものを失うところだった。本当に、ありがとね黒崎」

「礼はさっきも聞いた。それに、俺は何もしていない」

「ううん、そんなことない。助けてきてくれたのが黒崎で、黒崎が僕のワトソンで本当に良かった」

「…………買いかぶりすぎだ」


俺は恥ずかしくなって背中を向けた。もう行け、そういうジェスチャーでもある。



「だから、そのお礼、したいの……」



トクン、と胸が鳴った。

何故なのかは分からない。が、桐谷の鬱っぽく朱に染まる頬を見て、恐らく反射的に、男としての『何か』が反応したのだろう。


「……お礼ならさっき車の中でもらった。あれでチャラになったのだろう」

「そうだよ。僕の汚名は、チャラに、なったよ。けど……」


何か身体が熱くなる感覚がする。何故俺は、桐谷の姿を見て、こんなに身体が高ぶっているのだろうか…?


何故俺は、この『何か』を恐れている……?



「……けど……『助けてもらった』件は……また別、なんだよね……」




『何か』が、急激に迫ってくる予感がした……。


……ふと、俺は、その『何か』を振り切るように一歩歩き出した。


車に乗れば、この『何か』から逃げ切れるような気がして、でも、


……桐谷が、それを止めた。



「……ッ」



背中に、温かくも心地よい感触。

腹の辺りを見ると、そこには両腕が逃すまいと絡まれていた。

俺がそれを認識した時、俺は桐谷に抱きつかれているのだと理解した……。



「…………くろさき。こっち……向いてよ……?」



脳がとろけるようなその甘い囁きに、反射的に俺の身体は桐谷に向き合うように動いていた。



……やめろ、

その判断は、『俺の間違いだ』。



『心の奥』から聞こえる忠告が届く事は願わず、俺は完全に桐谷と向かい合い、見惚れていた……。



「……動いちゃ……やだよ?」



命令が行き届いたかのようだ。身体が麻痺するように動かない。動かない俺の顔を両手で包み、導くように数センチで触れ合う距離まで近づける。目の前には、これ以上無く、『女性』である綺麗な顔立ちをした桐谷がいて、俺は、



「きり……んッ!!」


「…………んっ……んん」




動く事は叶わず、そのまま、唇を奪われていた……。




恋って、なんですか?

青春って、なんですか?

愛って、なんですか?


分からない、僕には分からない……。

だからなんかこう、綺麗に表現出来た気がしない。


キスの味も分からない

女性の体の作りも分からない

s◯xの仕方も分からない


プギャー、童貞僕プギャー(O_O)

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