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堕天のナイフ  作者: ゴマちゃんなしでは生きられない (ゴマなし)
22/30

★★しあわせと出会う乙女

何かを得ようとするならば、何かを犠牲にしなくてはならない。これは忠告である。もしあなたが日常的で綺麗でコメディな物語を望むのなら、この先、★は読んでも、★★は二度と踏み込んではならない。それでも、この物語の★以上の真相を知りたいなら、長い旅路を共に歩いて行きましょう。ただし、


ここから先を知ってしまえば、

引き返す事も、逃す事も、


で き な い




「じゃあ黒崎、お金下ろしてくるから待っててね」


近くにあった銀行まではさほど時間はかからなかった。俺は桐谷が通帳とカードを持って歩いていく姿を見送り、猫と一緒に外で待機することにした。ちなみに猫は今俺が抱えている。元々桐谷に抱えられていた猫は俺では少し不安なのかそわそわした素振りを見せていた。


「……静かにしていろよ」


俺は猫の扱いに慣れているわけではないため、どうするのが正解はわからないが、とりあえず頭を撫でる事にする。ニャー、と返事をするようにへにゃっと身体の力が抜けていく。

気のせいかほんの少しだけ安らいでいる気がする。そんな姿を見て、今の俺と比較すると羨ましいなとさえ思う。


「……。」


ふと、昔のことを思い出す。この学園に来て、今までの自分のことを…。


今の俺が通う場所、『緋色学園ひいろがくえん』。俺はここに二回生として飛び級で転入してきてもう一年と半年になる。緋色学園は4年制の学校だ。日本の学校としては珍しい高校と大学の中間にある様な教育機関である。

簡潔に言うならば、高校の様な週で分けられた時間割による制度があって、大学のような専門的学問を詳しくは学ぶ事は出来ないが、プラス一年でその触り程度なら学ぶ事が出来る、といったところか。

それだけ聞けば存在理由があまり露呈されてこない学園という印象だが、ただ、就職活動という点においては、高校卒よりも強く、大学卒には負けるけれど三年早くチャンスをモノに出来るという点で中々評価に値するところがある。


ちなみに、俺は今三回生だ。とは言っても、今年はもう11月。風も肌寒いと感じる程冷たくなってきた。もうすぐ来年を迎え、来年には4回生になる。


…もうじき、俺は色々と決断をしなくてはならない。この色々あった学園生活そのものに。


「…………俺は、もうすぐ、」


……その先の言葉は、一発の、破裂したかのような銃音によってかき消されていった。。






「うみゅ…今月はピンチにゃー……」


自分でも情けなく思うほど弱々しく、僕は通帳を見て呟いた。一応お世話になっている田舎に住むおじさんおばさんからの仕送りはあると言っても正直生活費支払いでギリギリである。

探偵稼業でもたまに小遣い程度に報酬は貰えるが、それもたかが知れている。まぁあれは気持ちを貰うっていう感覚で貰っているため特に不満があるわけではない。


「メロンパン生活にゃー……」


あの歯ごたえとボリュームのある金欠の救世主、メロンパンにまたお世話にならないといけない。ゴメンよメロンパン。いつもありがとう。


「ま……まぁ…今日くらいは甘い物を食べてもいいよねっ、うんっ」


僕は両手で握り拳を作ってガッツポーズする。ふとそれが周りに見られたのでは、と思って恥ずかしくなってすぐに止めた。赤面した顔がすぐに冷めない。そしてふと、とある人の顔が浮かぶ。


「……黒崎も…いるし…」


黒崎晴翔。思えば彼との出会いは衝撃的であったとはいえ、決して良い出会いとはいえなかっただろう。今でこそ彼とはこうして話すようになったが、それも彼が僕の探偵稼業に付き合ってくれたおかげとも言える。

男子とまともに話したこともない、僕が。


「……。」


きっと彼は、僕が自分でも訳のわからない感情に戸惑っている事を知らない。そりゃあ僕だってポーカーフェイスぐらい出来る。今だってそうしてる。でも、それは何故なのだろうか。

僕はこれを、男女間に生まれる特別な感情なのだと認めていない。否、そうであるはずがない。確かに黒崎の事は一目置いているし、頼りにもしている。


けれど、僕が認めてしまえば、僕はきっと黒崎を前にしてダメになってしまう。探偵じゃなくて、一人の女になってしまう。それは、まだ……ダメ。けれど…


「……いっぱい食べる女の子って……嫌われちゃうのかな…??」


感情は絶対に認めてやらない。けれどほんの少し乙女を気にするのは、女の子として許される事だよね…?


「……そう、女の子だもん。異性の評価を気にするのは当然。好きとか嫌いとか関係なし、普通だよねっ」


そうだ、黒崎にもクレープをあげよう。本当、好意とか関係なしで。今日は振り回してしまったから報酬として。でもちょっと意地悪をして、虐めてあげよう。黒崎、どんな顔をするか楽しみだな。にひひ。


「……ふふふ。楽しみにゃー」


そう呟いて、一歩踏み出した時だった、、





重く鈍い衝撃音が、この空間を響かせた……。





「……え」





桐谷の左隣、それもかなりの至近距離から聞こえた衝撃音は見事に桐谷の左耳を麻痺させた。キーンという金属音が耳の中で暴れ回る。音はかすかにしか聞こえない。

そしてそれを聞いたと同時に、『何か』が自分に降りかかってきたのだ。それは雨のように、大量に。



「……………………」



今の桐谷には、音が十分に拾えない。だから桐谷は、無意識に今この現状を正確に判断するために、視覚に頼ることにした。だが、すぐに自分の視覚が異常に陥っている事に気づく。

…それは色彩を判断する機能の麻痺。桐谷には、この一瞬だけは世界が真っ白にしか映らなかったのだ。シルエットは見える。けれど色が見えないのだ。


そんな色彩のない世界で、桐谷は見覚えない非現実的なシルエットを見た。

それは自分より少し小さいぐらいの細長い棒状のもの。所々が曲線になっており、そのシルエットを持つ人間は胸のあたりで両手でガッシリとそれを持っていた。持ち手の一番遠いところには、小さいけれど2つほど口が開いていた。


そんな世界は一瞬で、白の世界はすぐに色とりどりの世界に戻ってくる。そして、知ってしまう。


桐谷はそれをはっきりと目にして、表情が凍った。『見覚えない非現実的なシルエット』? ……違う。知らないはずがない。認めたくないだけだ。今この場で、許されていいはずがない。

死を連想させる恐怖の色彩である黒。その二つの口から、ため息を吐くように煙を吐き出している。それは武器。それは凶器。世間で広まる名はショットガン、つまり、『猟銃』だったのだ……。


そして、自分にかかった水滴の雨の正体は……




人の身に流れる赤い液体、つまり、『血』だ。



「ヒッ……!!」



そしてその血の持ち主は、今自分の目の前でヒクヒクと痙攣しながら倒れている。血だまりが桐谷の足元にまで広がっていく。

腹を撃たれたのか、そこら中には血とは違うモノも混じっていた。匂いは異臭。トクントクンと脈打つばら撒かれた生々しいモノ。例えるならば、大量の蛞蝓なめくじ。直視するにはあまりにも見るに堪えないそれは、保健の教科書で見た事があった。

……すなわち、腸の欠片だ。

両目がこちらを凝視するように見ていたが、そこに生は感じない。時間と共に眼球はダランと垂れて痙攣を繰り返していく。


ただ、もう生き絶えたその眼球は自分にこう言っているような気がしてならない。




『タスケテ……』と。


『タスケテ…………』と。


『タスケテ………………』と。












『タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ』




「……ウゥウァッッッッ……!!!!」




思わず嗚咽が出そうになる声を両手で抑える。今叫んではいけない。今嘔吐してはいけない。汚らしい手になろうが、顔面が汚物でグチョグチョになろうが、決して。なぜなら、死を運ぶ悪魔が、目の前で猟銃を持っているからだ。いつ死が自分に訪れても、目の前の惨劇の二の舞になってもおかしくはない。

その悪魔はそんな自分に気づく事なく一つの大きなカバンを男性銀行員のいるカウンター席に投げつけた。そして冷たい銃口を頭に突き付けて、



「それに、カネ詰めぇや」



訛りの効いた関西弁。がっしりとした体育系の身体つき、顔には刺青と黒のサングラス。頭はスキンヘッド。そして、ドスの効いた声。そして、猟銃を、持っている。



「早く詰めんと……皆殺しやで。。」



さらなる衝撃音と血の雨が、銀行内と桐谷を赤に染める……。。





さぁ、付いてきてくださいね。。


後ろを振り返っては…ダメですよ??

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