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堕天のナイフ  作者: ゴマちゃんなしでは生きられない (ゴマなし)
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覆水盆に返らないプロローグ

 『覆水盆に返らず』。一度してしまった事はどれだけ嘆こうと取り返しがつかない事を意味することわざで、黒崎晴翔の気に入っていることわざの一つだ。「ことわざというのは昔で言う中二病みたいなもんだ。派手に神聖化された、謎の名言集だ。」というのは自分の師であった人の言葉だが、そのことわざというモノもあながち馬鹿には出来ないなと実感した。



「俺、フクスイボンにかえらずってるんですけどぉッ!!」



俺のクラスメイトで、それなりに一緒にいる事が多い奴の一人(野郎版)、『青木誠二』は目立つ青い短髪を掻きむしりながら涙ながらに言った。「男がピーピー泣くのは生まれた時と上から雛鳥のモノマネをやれって命令された時だ。」と教わった俺にとっては、目の前で泣く誠二は雛鳥と瓜二つに見えた。……だが、それ以上に俺は何よりもその一部のキーワードに驚愕していた。


「腹水……だと……!?」


 腹水とは体液が腹腔内に蓄積されることを言うが、これにより腹部が圧迫され息切れを起こしたり、肝硬変などの肝臓の病気に繋がってしまう恐ろしい状態なのだ。以前から話を聞いたことがなかった点を見れば、恐らくは急性の方なのだろう。


「俺……ッ……、取り返しのない事しちまった…ッ、もうダメだぁッ!!」

「落ち着け誠二、気持ちは分かるが懺悔は後だ。先に現状を知るのが先だ。とりあえず、今気分はどうだ?」

「……そうだな…グズッ…。なんというか、生きた心地がしない、って奴かな。」

「どうやら深刻みたいだな。身体に不快感があるのか?」

「ああ……不快感と罪悪感しかない。。」

「病状は悪化している、か。検査はしてもらったのか? 何か言われたか?」

「ん……そうだな、今のままではもうどうしようもなくて、『後日詳しく言い渡す。』とは言われたかな。」

「なるほど、軽い検査である程度は予測できたが、確証はまだという事か。急ぐ必要が……――」

「…………ねぇ、黒崎君。」


 後ろから一部始終を聞いていた、これまた俺の学園生活でよく関わる奴(女性版)である、『白雪愛花』は遠慮がちに声をかけてくる。茶髪の長髪からアロエシャンプーの良い匂いがする。


「どうした白雪、すまないが結構深刻な話のようだ。用件なら後に……」

「いや、あのね。なんというか……その話は色々違う方向に進んでいるというか……。すれ違いが起こっているというか……」

「問題ないだろう。誠二は今錯乱している。多少のコミュニケーションが取れなくても話は出来ている。ここは任せておけ」

「う……うん……。」


苦笑いする白雪が気になったが、今は誠二の事だろう。


「なぁ、俺どうしたらいいんだよ晴翔!? このままじゃ……」

「分かっている。だが焦るな。次は原因を知ろう。お前、ここ数日間酒を異常に摂取したか?」

「酒? いや、全くだが……」

「本当か? ここで嘘をついても良い事はないぞ」

「バカッ、嘘なんてつくか!! マジだよマジッ!! こちとら生命の危機がかかってんだ。嘘なんてつけるかッ」

「ふむ、では次だ。正直に話せ。お前、拾い食いはしたな?」

「した、二日前に。」

「……決めつけをしようとした事は一応謝るが、まさかドヤ顔で言った挙句本当にしていたとはな……。」

「な……なんだよ。それが何が関係するんだよ……??」

「八割以上それが原因だバカモノ。犬とか猫か貴様」

「マジかよぉ!? 確かにちょっと次の日変に調子悪かったような気もしなくはないがまさかそれがあんなことになるとはなぁ……」

「原因は掴めたな。なら十中八九間違いない。今からでも先生に適切な処置をしてもらうべきだ。」

「おいぃ!! 俺を売る気かぁ!? それって俺死亡ルートじゃね!? 何とかしろよ相棒ッ!!」

「何を騒いでる。売るも何もお前の為を思っての事だぞ。いいか、よく聞け。まずは今話した現状の事と原因の事を話せ。そうすれば察しの良い人ならそれで分かってくれる。問題ない。」


 仮に腹水と仮定して検査したとするなら、この事からウイルス性の腹水である事を理解してもらえるだろう。そうすれば、清二は食事の塩分の制限、及びベットで安静するよう指示されるだろう。よほど酷い時は手術をせねばならないが、それは仕方のない必要な処置だろう。


「……!! なるほど、つまり頭悪い奴を演じつつ反省の色を見せる事によって同情を誘う、『不良だけど実は優しい所にキュンとする!』作戦って事だな!?」

「9割9分9厘何を言っているかサッパリだが、つまりそういう事だ。さっそく行って来い」

「分かったッッ!! 言ってくるッッ!!」


ドタバタと音を立てて急いで行ってしまった。アイツ、自分の体調を理解していないな。


「戻ってきたら、激しい運動を控える様にくぎを刺しておくか。」

「ねーねー黒崎、青木の奴、あんなに急いでどこに行ったんだい?」


 よく関わる奴3人目(女性版2)、『桐谷勇気』が菓子パンを子供の様にモキュモキュ食べながら聞いてくる。

 綺麗な銀髪なのに黒と茶色の混じった帽子をつばを後頭部に向けて被っているせいで隠れている。


「奴にとっては命にかかる案件だ。温かく見守ってやろう。」

「その割にめっちゃ元気じゃないかニャー?」

「まぁ……な。」

「言ってきたぞッ!!!」


 ガラガラッ、と勢いよく教室のドアを開いて大声で言った。息切れを起こしている。


「やはり腹水の影響か……。……で、どうだった? 適切な処置は施してくれたか?」

「ありのままに起こった事を話すぜ。俺が言った通りに話したと思ったら、『何を言っているのかさっぱり分からん。グラウンド十周追加だ。』って言われたぜ」

「殺す気かッ!?」


 これはとんだやぶ医者だ。海兵隊のイカレた医師じゃあるまいし。根性論で治せるとでも思っているのだろうか。そんな事をすれば一気に病気が進んで死ぬぞ。


「なぁ、これって俺、どんどんやばい方向に進んでるんじゃね晴翔?」

「……落ち着け、任せておけ。仕方がない。強硬手段に出る。」

「強行手段??」

「単刀直入に言うと、脅し、だ。」

「……マジ?」

「大マジだ。その先生に思い知らせてやらねばなるまい。だが成功すれば、お前は安全が約束される。どうする?」

「…………やる。もう俺達は後戻りなんて出来やしないんだ。やるっきゃねぇ!!!」

「よくぞ言った。なら今から言う事を一言一句、無茶だと思うが、覚えろ」

「任せろ、多少の無茶は、承知の上だ」

「『俺に適切な薬と食事、寝床を用意しろ。さもなければ、誤診、及び暴力的処置の事を暴露し、その道で生きられない身体にしてやる。』……以上だ。」

「覚えた。」

「早いな。よし、もう一度GOだ。健闘を祈る。」

「サー、イエッサー!!!!」


 軍隊に躾けられた犬の如く、ビシッと姿勢を取ると、そのまま風の様に飛んで行った。あ、過度な運動の件、忘れていたな。


「……黒崎君。」

「言うな白雪。最善は尽くした。結果はどうあれ、悔いはない。……グズッ。」

「……え? いや……あのね……?」

「思えば、奴との付き合いは長いとは言えなかった。だが、こうして思い返してみると良い奴だった、そう思う……。グズッ。」

「あの、だからね……?」

「……そうだね。……青木は良いネタキャラだったよね……グズッ。」

「勇気ちゃん、絶対話分かってないよね、面白そうだからノリに乗ってるだけだよね」

「晴翔おおおおおお!!!!!!!!」


 さっきよりも5倍ぐらいの勢いと声量で俺を呼ぶ誠二。


「誠二ッ、成果はどうした……!?」

「……………晴翔。」


 誠二は目を伏せた。もう、長くはないと悟ったような、そんな目をしていた。


「おい、よせよ。冗談だろ? 俺達はあそこまで最善を尽くした。後は成功を待つだけ、そうだろ……?」

「……晴翔」

「聴きたくない。やめろよ。お前はいつもそうだ。いつもアホでうるさくて何喋ってるか10割分からない。でもこういう時だけ、お前は全てを悟ったような優しい顔になる……。そういうのは……――」

「晴翔」


 誠二は俺の両肩を強く掴んだ。そして優しく微笑んだ。





「……………覆水、盆に返らず。」


「うわああああああああああああああああああああ!!!!!」



 俺は天を仰いだ、そして泣き叫んだ。誠二は、あのアホをやらかしてきたバカの誠二はもう帰っては来ない。誠二は腹水に負け、覆水盆に返らなかったのだ。そうして、俺と誠二は天を仰いで二人で泣いた。



「ねぇねぇ愛花、黒崎達、結局何の話をしてたんだい?」

「うーん、簡単に言うとね、青木君は学園長の大切にしてた壺を割っちゃって覆水盆に返らず、っていう状態になったんだけど、黒崎君はそれを腹水っていう病気と勘違いしてすれ違った結果、さらに覆水盆に返らず×2、っていう状態に悪化したって感じかな?」

「にゃはははは、面白いからツウィッターにあげちゃお。覆水盆に返らず、なう!!」



 こんな普通の学園生活を、こんな普通の学生生活を、

 俺達は後、どれくらいまで送れるのだろうか……?





元々脚本として自分自身がキャラのイメージをしやすいように書いていたモノでもあるので、会話にキャラの名前がついておりますがご了承ください。感想等お待ちしております。

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