梅雨の夜想曲
凄い前に書いたものですね。前に投稿したような……。
ま、まぁ、なんにせよ久々の投稿です! 下手をすれば一年以上ぶり……?
それと一応言っておく……オチなど無い……!
しとしとしと――そんな湿った音を立てながら今日も雨が降ります。
細かい雨粒が街灯に照らされ真珠のように輝きます。光の粒はどれも不揃いで歪んでいます。
そんな中を歩く人々は花のように鮮やかな傘を開きながら早足で家路を急ぎます。
みんな自分の家族が待っている温かい家を脇目も振らずに目指しているのです。
だからでしょうか、降りしきる雨の中を一匹の猫が歩いている事には誰も気付きません。
猫は雫の滴る尻尾を振り子のように揺らします。機嫌がいいのです。だから揺らします。
黒と灰色の縞模様の毛には雨の衣がよく似合っています。まるで猫がそうして雨の日に歩いている事が当たり前の事であるかのように錯覚してしまうほどです。
猫の名前は『アメ』と言います。雨の日が好きだから『アメ』なのです。
その名前はある女の子が勝手に付けてくれました。
本当は違う名前なのだけれど、アメは女の子が付けてくれた名前を仕方が無く使っています。
せっかくだから――とアメは思ったのです。
アメは風変わりな猫です。他の猫のように残飯を漁る事も無いのです。餌も自分で捕りに行きません。顔馴染みの人間が餌を与えてくれるのを行儀よく、じっと待っています。自分から催促するような卑しい真似なんてしません。アメはこれでも誇り高い猫なのです。
アメは変わっています。他の猫のように喧嘩をしませんし、縄張りなどもお構いなしです。挑まれても軽くあしらってしまいます。アメは世渡りの上手い猫なのです。
アメは律儀です。受けた恩は例え人でもちゃんと返します。どんなに昔の事でもいちいち憶えているのです。信号は赤になったら止まります。アメは礼儀正しい猫なのです。
蒼い夜の闇がアメの行く先には広がっています。その深い海の底のような道を、目の眩むような幾つもの光がけたたましく通り過ぎます。その度にアメにの身体には黒い飛沫が降りかかります。
ですが、アメはそんな事は気にしていません。汚れても直ぐに降り続く雨が洗い流してくれるからです。冷たい雨に身体を洗われると、一日の嫌な事もさっぱり全て流れていくようです。
だからでしょうか。アメには何で人が傘を差しているのかが解りません。自分のように雨に打たれてしまえば、あんなに暗い顔などしなくて済むのに――と。
びしょ濡れになったってアメは堂々と歩きます。水浸しの世界をすいすいと進みます。
歩いているというより、泳いでいるという方が近いのかも知れません。
雨の日は様々な人を見かけます。お揃いの傘を差す人。一つの傘に納まる人。傘を投げ出して泣いている人もいます。泣いている人はアメと同じように、その日にあった出来事を雨で綺麗に流してしまいたいのでしょう。ですから、アメはそういう人を見かけると、一声『みゃあ』と鳴いてあげます。
一人じゃないから――と猫の言葉で言ってあげるのです。その気遣いは人には理解出来ません。
それでもアメは寂しい人を見かけると声をかけたくなってしまうのです。
様々なのは人だけではありません。傘の種類も星の数ほどあります。でも、最近は透明な面白くない傘が多いので、アメは少し不満です。傘はもっと鮮やかな方がいいとアメはいつも思うのです。
赤色、青色、緑色。黄色に紫、黒に白。水色、オレンジ、黄土色。ピンクに焦げ茶、色だけでも数えたらきりがありません。縦縞、横縞、チェック柄。迷彩柄に千花模様、柄も沢山あります。骨が多いもの、少ないもの、アメのお気に入りは昔見かけた朱色の和傘です。
でも今のお気に入りは――。
雨粒の踊る中で、アメは黄色と白の夜中には不釣合いな傘を見つけました。
傘を差しているのは、前髪の長い一人の女の子です。
女の子は物憂げな顔で、人通りの少ない交差点の信号前で佇んでいます。信号が青に変わって、まばらな人の群れが歩み出しても彼女は動こうとしませんでした。彼女は待っているのです。
アメが女の子に近づいていきます。音も無くひっそりと雨足が強くなるように、一人と一匹の距離はみるみる近くなります。そしてアメが女の子の足元に辿り着きました。雨が降っていてもよく通る声で、アメが鳴き声の挨拶を女の子にします。女の子が足元のアメに気付きました。
「やぁ、アメ。こんばんは」
女の子もアメに挨拶を返しました。言葉が解らなくとも、一人と一匹は通じ合っています。
「それじゃ……行こっか」
アメは雨を弾く針金のように鋭い髭をしゃんと伸ばして女の子の隣に並びます。
女の子はそんな風に隣に立つアメを頼もしそうに見て、微笑みました。
雨音のオーケストラがいつまでも続きそうな旋律を奏で始めて――。
これから女の子とアメの雨の日のデートが始まります。
例のアレの続きもぼちぼち始めたいですねぇ……。
あ、この話の続きも書きました。続編……だと思います……?
気が向いたら続編も書きたいと思います。




