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七十二枚翼(アインベート)の失楽園

作者: 夏野陽炎
掲載日:2015/04/18

『本日未明、月面のテロ組織、レコンズが地球からの輸送船を襲撃し、食糧や物資を強奪。乗員の安否は現在不明となっており……』

 早朝の食堂にはアナウンサーの声と、談笑しながら食事をしている軍人たちの声が行き交っていた。

 朝食を食べながら観ていたテレビで流れているのは、昨日起こった事件のニュースだ。軍に連絡が入ってすぐ、アームド(A)・ドール(D)と言う人型兵器のパイロットである自分たちにも、上層部から通達が回ってきた。必要があれば自分たちも出撃しなければならない。場合によっては殲滅作戦も実行するとのことだった。それだけ今回の被害は甚大だったし、これ以上レコンズの思惑通りにさせるわけにはいかないという、意思表示も込められているのだろう。

「おはよう、ジフ」

 朝食のトレイを抱えて前の席に座ったのは、同僚であり任務での相方であるマリーだった。軍での作戦を与えられる時は、大体の任務はこいつと一緒に組んで当たっている。また軍の中でも数少ない女性軍人の一人でもあった。

 トレイに置かれている皿には、イチゴジャムがべっとりと塗られたパンが乗っていた。こっちは見ているだけで胸焼けがする。

「最近、月の治安悪いわよね。こないだも月面宙域で訓練していたADが襲撃されたんでしょ?」

「向こうの武装が大したことなかったみたいだから、被害はあまりなかったらしいけどな。あと月面全体の治安が悪いってよりも、テロ組織が問題なだけだろ」

「変わらないわよ」

 自分の知ったことではないと、そっぽを向いてジャムがたっぷり塗られたパンに噛り付く。案の定口の周りには、べっとりとジャムが付着した。

「マリー。お前、もうちょっと自分に気を遣ったらどうなんだよ」

「ジャム、口の周りについてるぞ」

 こちらの注意に気を留める様子も無く、また一口パンに噛り付く。

「あのね。そんなこと一々気にしてるお嬢様だったら、今頃軍なんかにいないわよ」

「それもそうか……」

「ちょっと、そこで納得しないでよ」

 ここにきて突然不服を申し立てる。

「じゃあどうすればいいんだよ」

 そんな俺の困惑を無視して、マリーはいつの間にか朝食を食べるのに専念していた。

 今回の事件に問わず、月面の治安が悪くなってきたのはここ数日からというわけではない。昨年、例の月面テロ組織であるレコンズの一員が、地球と月を結ぶシャトルで爆破テロを起こしたのをきっかけに、地球各地や月面宙域などでいくつもレコンズによる事件が発生している。レコンズからの声明があったのは、最初の爆破テロから三ヶ月が経ってからだった。

 レコンズからの声明を要約すると、地球へのクーデター宣言だった。月面にも政権は存在しているが、実質それを握っているのは地球政府。それに月面の人々には参政権も無いし、月面の指導者は地球からの政治介入を拒否しているにも関わらず、それを受け入れようとはしていない。実質的に月面の自治権は地球側によって一方的に掌握されているのだ。

ただ違和感があったのは、レコンズの何らかの代表者による直々の映像や文書が一切メディアで公開されておらず、政府が間接的に会見で発表したということである。

 単純に向こうが秘匿するように指示したのか、政府がそれらを公開していないだけなのか。実際のところはただの一軍人には知らされているわけもなく、メディアからの報道や政府発表を信じる他無かった。そんな政府を疑って、地球に住む月面派の民間人がデモを起こしたこともあったが、警察が速やかに鎮圧したらしい。

 きな臭さを感じないわけではない。釈然としないものはある。だがそれは、ただの軍人には関係の無い話だ。国政なんかの厄介事に関わるは、政治家の仕事であり、軍人に与えられるのは誰かの代わりに、誰かへ引き金を引く義務なのだから。

 自分たちの所属する国際連邦軍(IFF)が発足したのは、地球から月に人類が移住した時からだ。国家から星という概念まで超えた時、それまで世界中に存在していたあらゆる国家から、IFFというものが組織化された。

 だが月面からのクーデターがあるまで、IFFが実質的に戦闘に投入されることは無く、兵器開発と訓練だけをしていた。それが昨年になって情勢が急変し、いよいよ本格的に始動するに伴い兵力が増強されていくこととなった。

 そこでIFFで新型の兵器であるADが開発され、これには選りすぐりの一部のパイロットだけが搭乗を許された。その一部こそが自分とマリーであった。

「ねえ、ジフ。新型の話は聞いた?」

 いつの間にか朝食を食べ終わったマリーが、聞き覚えのない話を持ち掛けてくる。

「新型? 何のことだよ」

「新型のAD。軍が民間軍事会社(PMC)に開発の依頼をしてたらしいわよ。噂によれば従来のADの性能の比にならないくらい、高性能な機体に仕上がってるんだってさ」

「どこからそんな話を仕入れてきてたんだよ」

「風の噂みたいなものよ。ま、今まで胡坐かいていただけの軍の技術力じゃ、新型の機体を短期間で開発する余裕なんて無かったんでしょうね」

 新型の話なんて機密事項だろうに、どこでそんな話を仕入れたのか不思議だが、そんな話が回ってきたということは、遅かれ早かれ納入されるのは遠くない話だろう。

 それにここにきて新型を依頼したということは、早めにレコンズに決着をつけるつもりかもしれない。被害額も随分と大きくなってきているし、これ以上損失を出してはIFFの沽券に関わるというものだ。自分たちにもいずれ、出動の命令が出ることだろう。

 テレビのニュースが丁度終わったのを目途に、二人揃って食堂の席を立った。



 自分とマリーが指令を受けて呼び出されたのは、それから一週間後のことだった。二人で同時に呼び出されるのは珍しくない。むしろ、指令で呼び出される時は、ほとんど二人揃って呼び出されている。

 招かれたのは小さな会議室のような部屋だった。部屋の中には上官である大尉と司令官が椅子に座って待っていた。

よもや司令官までいるとは思っていなかったので、扉を開けた瞬間に冷汗が滲み出た。

「来たか。ジフラン・クローツォ少尉。それにマリアベル・アヴァナコン少尉」

 大尉と司令官に敬礼をして入室する。

「二人に来てもらったのは他でもない。次回行われる強襲作戦に君たちに頼みたくてな」

 初老の司令官は茂みのように生えた髭を親指と人差し指で挟みながら、研ぎ澄まされた目で見据えた。司令官と直接対面することが稀であり、更に直接命令を受けるなど滅多にないため、自然に背筋が伸びる。

「知っての通り、現在地球政府及びIFFは、昨年から突如出現した月面テロ組織、レコンズによって甚大な被害を受けている。お前たちも昨日のニュースは上層部から通達されているはずだ」

「はい、聞いています」

 返事をしたのはマリーの方だった。普段の態度を見ていれば、目の前で真摯に話を聞いている姿には、(いささ)か違和感を覚えざるを得ない。ただ、命令の内容については来る前から薄々考えていた予想通りだった。以前マリーが話していた新型機の話もあったし、そろそろ軍も動き出すだろうと踏んではいたが、まさかそれが自分たちだけが任命されるとは思ってもいなかった。

「このままではレコンズを付け上がらせることになる上、世論からの支持も雲行きが怪しくなるのを上層部は懸念している。そこで、お前たちに新型ADの運用テストも兼ねて、レコンズに攻撃を仕掛けてもらう」

「新型AD……」

 マリーの言っていた噂は本当だった。視線をマリーへと配ると、どこか得意げな顔を向けてきた。

「どうかしたのか?」

「い、いえ……」

「それならいいが。今回の新型は軍が開発したものではなく、PMCに開発の依頼をしたものでな。起動テストはPMC(あっち)でやってもらっているんだが、実戦的なテストはまだでな」

「君たちの活躍は大尉からよく聞いている。新型のテストパイロットにも適任であり、今回の作戦にも向いているだろう。それと新型機についてだが、クローツォ少尉には『メタトロン』、アヴァナコン少尉には『サンダルフォン』に乗ってもらう」

 メタトロンとサンダルフォン。それは自分たちの乗る新型機の名前だ。双子の天使の名を冠した機体の性能はいかほどのものか、それを計るための実戦投入を兼ねた作戦だ。自分とマリーの技量に関しては多少に自負があるが、新型機の威力を存分に発揮できるかまでの確信は持てない。自分たちの他にも、ADの操縦で上に立つ者を知っているからこそだ。

「詳しい兵装については格納庫で説明してくれるだろう。作戦開始は明日の2200だ。それと、これは作戦に関する資料だ、よく読んでおけよ」

 大尉が手元に抱えていた書類の一部を手渡す。三、四ページほどあるのか、端っこをクリップで留めていた。

「了解しました」

 資料を受け取り揃って敬礼すると、椅子に座っていた司令官と大尉は、先に部屋を後にした。さっきまで萎縮していた空気を漂わせていた狭い会議室には、自分とマリーだけが残された。

「私の言った噂、本当だったでしょ」

「メタトロンとサンダルフォンだったよな、新型機の名前。どっちも似たような性能なのかな」

「その資料に書いてるんじゃないの?」

 クリップで留められた資料を見てみると、作戦エリアと今回から実戦投入される二機についての概要だけが書かれていた。作戦エリアは月面というのはともかく、気になったのはメタトロンとサンダルフォンの仕様についてだった。

 手渡された資料を見ていると、自分も持っているはずなのにマリーが横から覗いてきた。

「へえ、メタトロンが中距離戦闘型でサンダルフォンが近距離戦闘型ね……。って、私が乗るのってサンダルフォンよね……近接型の方がリスキーじゃない」

「性格に反映されたんじゃないのか?」

「余計なお世話よ」

 腹部に肘打ちを入れられる。地味に痛い。

 資料全体を軽く読んでみたが、全体図のようなものは載っておらず、武装についての詳細や装甲の材質などは簡単に書かれている程度だった。自分が乗るメタトロンについては従来の汎用型ADの上位互換と言ったところだが、サンダルフォンには特徴的な武装が備わっているようだった。

「ねえ、このマルクトって武器なんだけど」

「ああ、こいつの説明文が気になるな」

 武装についての説明も詳細までとはいかないが、形状や性能などが書かれている。自分とマリーが注目したのは、サンダルフォンの中でも注目すべき点だった。

「大型の剣って書いてあるけど、これ一緒に書かれてる武器のサイズ間違えてないのか……?」

 マルクトと書かれているサンダルフォンの大型剣の刀身の大きさは、機体サイズの半分はある。それ以上の説明が書いていないため、誤植かと疑ったが、一緒に表記されている重量のことも考えると、あながち間違いではないだろう。

「なあマリー、こんなもの使いこなせるのかよ……」

「知らないわよ。でも武装を見る限り、これがサンダルフォンの主兵装ってことでしょ?」

 他の武装一覧を見る限り、マリーの言う通りのようだった。他に書かれているのは内蔵型の荷電粒子ソードに、同じく内蔵型の25mmバルカン砲で、これらは明らかに副兵装だろう。

「任務開始前に格納庫で確認すればはっきりするだろ。それまで待っていようぜ」

「なーんか、釈然としないのよね。近接でしか攻撃できないって不利じゃないの?」

「その分スピードが出るんだろ」

「反面、装甲が減らされてるってことでしょう?」

「それだけ技量の問われる機体ってことだ。だから俺たちが選ばれたんじゃないのか」

 諭してみたものの、ぷいと横を向かれた。今の言葉のどこに不満があるのかが判らないが、そんな機体を司令官直々に任せられたのだから、もう少し誇ってもいいのではないだろうか。

 ともかく作戦時間までにはまだ余裕があるし、それまで資料に目を通しながら待機するとしよう。機嫌の悪い猛獣を宥めながら。



 コックピットの中でヘルメットを被るたびに、ほんの少し暑苦しさを感じる。今回もやはり同じく、ヘルメットを装着した瞬間に蒸し暑さを覚えた。コックピックの中では空調が効いているのだが、パイロットの装備一式を全て装着すると外部からは密閉された状態になるため、実際パイロットが空調の恩恵はほとんど受けない。ただ最低限活動できる温度に調節されているだけなのだ。それにこの空調も緊急時に備えて、念のために機能しているだけだから仕方がない。それも全て緊急時に宇宙空間へ排出された時のためだが。

 システムを起動するとフラットデザインのGUIが表示され、エネルギーや燃料の残量、ジェネレーターの稼働状態といった、ありとあらゆるメタトロンのステータスが画面に表示された。軍での起動はこれが初だったこともあり、本来はオートで行う設定や管制などを全てマニュアルで行う。

 機体に乗り込んでからはマリーも同じく付属のキーボードで設定作業していたが、システムの処理速度も従来のADと比べ物にならないくらいスムーズに行われ、時間がかかると思われたマニュアルでの設定はすぐに終わった。

「こちらメタトロン機、マニュアルでのシステム起動及び設定は全て完了。異常なし」

『了解、こちらからの指示があるまで待機してください』

 シートの背もたれに寄りかかって、しばしの間休息を取る。ただし出撃の予定時刻は迫っているため、あまり悠々とはしていられない。

『ジフ、そっちの機体はどう?』

「OSも今までより使いやすいし、PMC製も悪くないな」

『そうよね。今まで軍がどれだけ御座なりなものを作っていたのかのかがよく判るわね。あとは性能をレコンズの前でどれだけ発揮できるかだけど』

 本題はこれからだ。実戦でどれだけ性能を発揮出来るかは、自分たちの手腕を試されるもので、今回の実験データを基に新たな開発も行われたり、改良点を加えられたりする。

「ヘマするなよ」

『そっちこそ』

 二人でそんな軽口を叩きあいながら、モニターに表示されている時刻を確認する。2200、作戦開始予定時刻だ。自分とマリーは無線を繋いだままで自然に黙る。すぐにオペレーターからの指示が飛んできた。

『作戦開始予定時刻の2200になりました。メタトロン、サンダルフォンの両機に発進許可が下りました』

 オペレーターの声と共に、操縦レバーを強く握る。

『カタパルトからの発進と共に高速移動形態へ移行し、大気圏に突入した後に月面へ向かってください。これより発進タイミングをそちらに譲渡します』

「了解。メタトロン、発進する」

『サンダルフォン、続いて発進します』

 目一杯レバーを引き上げ、カタパルト上からフルパワーの状態で加速し、一気に大気を駆け上がる。サンダルフォンもこちらに続いて、少し後を追いながら空へ舞い上がった。ただしメタトロンとは飛翔する際の形状が異なっており、背中には八つの擬似翼が展開されている。これはサンダルフォンが高速移動をする際に展開されるもので、代わりにメタトロンのように巨大な燃料タンクは詰まれていない。

 かつて人類は月に到達するまでに、巨大なエンジン、燃料タンクを積んだロケットに乗ったらしいが、現代ではAD単機だけでも大気圏に突入し、そして月まで行くことが出来る。かつての科学者が見たらどう思うだろうか。羨むだろうか、それとも妬むだろうか。

 しばらく機体が激しく揺れると、モニターに映し出される外の景色は既に薄暗く、大気圏を突破したのが判った。眼下には雲の覆っている地球が青白く光っている。その後ろには先程と変わらず翼を広げたサンダルフォンが続いている。

「管制へ。メタトロン、サンダルフォン、両機とも大気圏を突破した」

『了解、周囲に警戒しつつ、そのまま月面まで向かってください』

 そこでメタトロンの背部に積まれていた燃料タンクをパージし、サンダルフォンは翼を折りたたんだ。。

 まだ月面までは距離があるとはいえ、レコンズがデブリに隠れている可能性は否めない。今のところレーダーもきちんと作動しているし、敵機の反応は無いが、万が一ということもある。

 相手が月面の限られた物資しか無いとはいえ、実戦においてIFFは遅れを取っているのは間違いない。それにこちらの動きに気付いた月面側からゲリラ戦を仕掛けられることは前提にしておいて間違いない。

「戦闘態勢には入っておけよ、マリー」

『判ってるわよ。でもあっちから遠距離攻撃を仕掛けられたら、サンダルフォンは手も足も出せないわ』

「その時は俺の役目さ」

 安全装置を解除したライフルを構えながら前進していく。念のためトリガーには指をかけたままでいた。目標ポイントまでも加速さえすれば残り三十分程度で到着する。

『……っ! ジフ! こっちに向かって熱源反応!』

「このタイミングで敵から砲撃なのか……!? まだ月面までの距離はあるんだぞ……!」

 マリーからの無線の直後、コックピットのモニターにアラートが表示され、警告音が鳴る。レーダーにも熱源が高速で向かって来ているのが表示される。この周囲には機体が隠れられるようなデブリもない。一撃くらい受けても致命的なダメージなるとは思わないが、月面まではまだ距離もあるし、向こうでの作戦は万全の状態で臨みたい。

「作戦本部へ。こちらメタトロン、敵からの砲撃を確認。これより交戦状態に入る」

『了解しました』

『どうしてこんなところにまでレコンズが……! まるで待ち伏せじゃない……!』

「さあな……。敵機が確認出来るまでは俺が先行する。マリーは索敵に回ってくれ」

『了解』

 予測上正面から飛んでくる砲撃を避けながら、モニターで周囲を確認する。数秒後には自分たちのいた射線上にビーム攻撃が通過していった。

「レコンズはビーム兵器まで持っているのか……」

 一テロ組織にしてはやけに豪華な兵器を使っている。ビーム兵器は開発されたのもここ数年前で、しかも開発費をかなり要するはずだ。その中でも今の攻撃は砲撃型で、これは汎用型のライフルよりも更に高額であり、尚且つ威力も高い。

「ただのテロリストと高をくくってた。これは少し手古摺りそうだ」

『敵機発見したわよ! データをそっちに送るわ!』

「了解! 作戦本部! こちらメタトロン!」

 無線を本部へ繋げて状況報告を試みるが、返事が返って来ない。それどころか広域型のチャンネルにジャミングがかけられているのか、ノイズの音だけがスピーカーから流れてきた。

「こちらメタトロン! 本部、応答してくれ! こちらメタトロン! 本部、聞こえているのか!?」

 何度も無線で呼びかけるのものの、本部とのチャンネルから聞こえてくるのはノイズだけで、一向に応答は聞こえない。

「マリー。そっちは本部との通信、出来るか?」

『ダメ……繋がらない。どうなってるのよ!』

「そっちとの無線は繋がるのに……! くそっ、俺たちだけでやるしかないのかよ!」

 レーダーを頼りに敵機の方向へと、ライフルで牽制しつつ駆ける。

「見つけた!」

 肉眼で視認出来る距離になり、敵の存在が明らかになる。驚いたことにそこにいたのは量産型のADだった。

『どうしてADが……! しかもあれって……!』

「テロリストにしては随分金持ちだな」

 レコンズが乗っていると思われるADは、自分たちの機体の開発元とは別の民間企業が造っている、量産型のADのバラッカだった。量産型とはいえ一機だけでもバカにならない金額で、資源や資金の限られるテロ組織がとても持てるような代物ではない。

 敵は三機、通常型が二機と砲撃型が一機。数ではこっちが不利だが、自分たちの機体の性能面や技量で補えばどうということはない。

「ジャミングにAD、随分手が込んでるわけだ。そりゃ地球政府も手を拱くってね」

『先行するわ』

 それまで後続していたサンダルフォンが前に出る。手に持っている巨大で鋭い牙のような剣、マルクトがよく目立った。

『後ろから援護をお願い』

 メタトロンよりも装甲が薄い分、サンダルフォンは軽量でスピードも段違いであり、加速すると白い機体が闇の中に線を描きながらバラッカの懐へと近付く。それに応じてバラッカも向かってくるサンダルフォンにビーム攻撃を発射するが、加速と同時に素早く攻撃を回避し、餌食となった通常型バラッカの胴体が上下に分断される。その寸前に真っ白な塗装をされていたはずのマルクトが、バラッカに触れた一瞬だけ、オレンジ色の発光したのを見逃さなかった。

 真っ二つになったバラッカは間もなくして爆破し、残骸を残した。

『一機やったわ』

「ナイスだ」

 こちらも傍観しているわけにはいかない。他のバラッカの武装をライフルのビームで破壊し、次の武装を使用させる前にマリーが敵を切り裂く。二機、三機。最後に残った砲撃型も善戦したが、一度も攻撃が命中することは無かった。

『その程度の腕で私に当たるわけないでしょ』

 冷徹に裁きを下すような冷たい声、直後には四肢を叩き斬られ、空いた腕に内蔵された荷電粒子ソードでエンジンを貫かれていた。マリーはソードを抜いてボロボロになったバラッカから離れると、間もなく爆散した。

「やり方がえげつないな」

『向かってくる方が悪いのよ』

 足止めを食らってしまったが、急げば時間的に問題無い。ただし今の交戦でレコンズ本拠地へ、こちらの情報が回ったに違いない。IFF本部との無線は一向に繋がる気配も無く、ずっとジャミングがかかっている。

『ヤな感じがするわね』

「本当に、な」

 怪しげな空気を感じざるを得ないが、ともかく作戦すら遂行してしまえばいい。再びレバーを手前に引き、加速して進んで行く。

『さっきのバラッカだけど、おかしいと思わない』

「思うに決まってるだろ。あんなものを三機も、しかもこんなところで出して来るってことは、本拠地にはまだ機体が残ってるだろうし」

『でもレコンズってただのテロ組織よ? 月面全体が資金を回したって、そんなものを買う余裕は無いはずよ。地球(こっち)(あっち)じゃ経済格差だってかなりあるんだし』

 月面は開発が進んだとはいえ、あくまで巨大な施設の中でしか産業が成り立たない。人工栽培による農業はあるにはあるのだが、地球のように大量に生産できる環境ではなく、限られたスペースでしか栽培出来ない。

 誰かがレコンズに莫大な資金源を流出させた、そんな考えが脳裏によぎった。だとすれば、誰が何のためにテロ組織の支援をするのか。地球政府、もしくはIFFに損害を与えることで得をする有力な人物や組織だろうか。

『……ちょっと! ジフ! レーダーに熱源反応!』

 考え事をしていたせいで、マリーの声が耳に入っていなかった。戦場においてはこのような油断が命取りになる。

「ッ! まだ残っていたか!」

 マリーの声と同時にアラートがコックピットに鳴り響く。敵機は目視出来ないが、熱源は左右から接近している。恐らく砲撃型によるビーム攻撃だ。しかも狙いは自分だけに絞られている。回避能力の高いサンダルフォンよりも先に、こっちを潰すつもりか。

「どこに隠れている……。いや、待て……この角度!」

 熱源反応の先にはそれぞれデブリが漂っているのが、妙に引っかかった。大きさもADが一機だけなら隠れられる大きさであり、それが左右に都合よく漂っている。もしやデブリの裏からADが砲撃を撃って来たのではないだろうか。

「だったら!」

 レーダーを頼りにビームが到着する瞬間を待つ。いくら砲撃型(ブラスト)とは言っても、バラッカなら連続で精密射撃が出来るような武装は持っていないはずだ。デブリとの距離はそう遠くなく、こちらから反撃出来ない位置ではない。それにあの程度のデブリなら、アンチグラビティ(AG)ライフルの威力で撃ち抜ける。

 AGライフルはただの威力向上や軽量化された武装ではない。セレクターを切り替えることでビームを縮小して、熱と重力エネルギーによって被弾対象を圧縮させられる。つまりデブリそのものを圧縮して、更に熱で溶かしてデブリの裏で隠れている敵へとビームを貫通させられる。エネルギー消費と排熱量の多さが弱点だが、二回連続くらいならいけるだろう。

 セレクターを切り替えて、接近するビームの交差する隙間へと入る。交差するその瞬間に、この機体はほんの少しの間姿を隠し、敵からは死角となる。こちらもまた敵の位置は視認出来ない。普通のパイロットならここで一度攻撃を凌いでから、反撃に向かうだろう。

「データだけでも十分だ!」

 位置の誤差は無い。たとえ見えなくても、感覚を頼りにするだけでも十分だ。

 敵の砲撃が通り過ぎたゼロコンマの瞬間にトリガーを引き、ビームが一直線を描いて走る。そして間髪を入れずに腕の角度を九十度変えて反対側にも発射した。発射後にモニターを拡大して二つのデブリの方へとカメラを拡大させると、それぞれ真ん中が勢いよく溶かされて穴を貫通し、丁度デブリの裏側で機体の爆発が起こった。予想は当たっていた。

『へえ、デブリの後ろに隠れていたのを狙撃したんだ』

「狙撃って言うほどの距離でもないだろ。それにこれくらい出来なくて、専用機のテストパイロットなんてやらせてもらえない」

『それ、他の人が聞いたら随分な嫌味よ』

 正直なところ、レーダーが完璧に敵の位置を把握していなければ、この攻撃は難しかった。かといってこれ以上敵に構っているような時間も無い。半分は運みたいなものだった。

「それにしても、待ち伏せを喰らってたってことは、やっぱり情報がリークしてたのかしら」

『月面の内通者が……? でもこの任務は司令部でも私たちや司令官、大尉しか知らなかったはずよ』

「俺たち以外の誰かが月面と繋がっていた……。いや、そんなはずはない。司令官や大尉が月面のスパイなんてな……」

『――――。行きましょう、答えは月面にあるわ』

「……そうだな」



 月面に到着するなり待っていたのは、対空砲による弾丸の嵐だった。機体に大きな損害を与えるまででもないが、継続して受け続けていれば故障が起こりかねない。

「クソッ! 対空砲まで用意してるってどういうことなんだよ……!」

『左右から敵のADが出現! なんなのよ……! 完全に囲まれてるじゃない!』

「俺は対空砲を片付ける! マリーはADを片付けてくれ!」

 ライフルでの射撃に加え、脚部に装填してあるミサイルも合わせて対空砲を破壊していくが、月面にまんべんなく対空砲が敷かれているようで、その数はいくらこちらが最新鋭の機体であっても圧倒する物量だった。更にビーム攻撃はともかく、ミサイルに至っては半分が対空砲の弾丸に被弾して、破壊されていっている。 

「このままじゃエネルギー切れを起こすぞ……!」

『こっちも相手がバラッカとは言っても結構な被弾を……ジフ! そっちに一機だけ変なADが行ったわ!』

「なんだって!?」

 レーダーを見ると、他の汎用型ADとは一線を画すほどのスピードでこちらに接近する機体があった。カメラをズームしてみると、その機体はバラッカとは全く形状が異なっている。

「データに無い機体……新型なのか!?」

 両手の指先からはレーザー状のブレードが出ている。接近してあのレーザーでこちらを切り裂くつもりだろうか。

 ライフルで何発か撃つものの、さっきまで相手をしていたバラッカとは違いすぎるスピードによってかわされる。月からの対空砲の攻撃を避けながらのため、精密射撃もろくに出来ない。徐々に機体との距離を詰められる。

『IFFの差し金!』

「その声は……! でもこっちだって近距離は戦える!」

 脚部のミサイルを発射しながら後退して、近接戦闘用の剣であるケテルを抜刀し、爆風の中を潜り抜けてレーザーブレードを受け止める。ただし相手のブレードは両手で合わせて十本あり、こちらがどれだけ持ち堪えられるか、あまり安心は出来ない。

『これ以上、地球人の勝手にはさせるか!』

 敵の乗っているADから聞こえてきたのは、若い男の声だった。

「お前の理屈がテロリズムを正当化する道理にはならないんだよ!」

『こうもなってしまった原因が判ってないんだな。地球政府が月面の住人を痛めつけて搾取をして、その反逆をして何が悪い!』

 敵との接近戦に持ち込んだところでミサイルのスイッチを押したが、さっきの牽制で使ったものが最後だったようで、残弾数はゼロになっていた。思った以上に道中での弾薬の消耗が激しい。

「それは過激派の言い分だ!」

 ブレードを弾き、そのまま敵機の右腕を切断すると、相手もそれに応じて頭部から拡散型のビーム砲を発射してくる。威力はあまりないようだが、モニター用のカメラの一つがやられたらしく、コックピット周りのモニターの一部がエラーを起こして砂嵐になった。

『月の民は移民として追いやられて、挙句施設の中に閉じ込められた。統治権も奪われ、生産による物資や資金は搾取されて、貧困層だけが増えた! お前たち地球人が生温い生き方をしている半面で、俺たちは一方的に虐げられてきた!』

 敵の動きを封じている間に受けていた月面からの攻撃に耐えきれず、左足の間接が破壊される。

『ジフ、そっちは大丈夫なの!?』

「なんとか……。そっちはどうなんだ」

『左腕と右脚をやられたわ。でもまだなんとか戦えると思う』

 サンダルフォンはこちらよりも被害が甚大だった。このまま攻撃を受け続ければ、両機ともコントロール不能になってしまう。特にサンダルフォンは腕が無ければ主武装のマルクトが使えなくなり、緊急用のバルカン砲以外使えなくなる。だがそれはこちらも変わらない。脚部のミサイルポッドの弾薬は既に尽きている。こんなところで時間を浪費するわけにはいかない。

 ケテルを持つ腕とは反対の腕でAGライフルを構えて、コックピットへと銃口を向ける。

『そうか……それが地球人の選ぶことか! お前たちには一生判らない! 月の民の叫びなど』

「どんな事情であれ、やっているのは人殺しなんだよ」

 片足で敵のADを蹴り飛ばし、その反動で距離を取り、即座にセレクターを切り替えてトリガーを引く。発射したビームがコックピットを撃ち抜くと、溶解したコックピットの隔壁の真っ黒な空洞が出来上がった。それからさっきまで聞こえていた声は、二度と通信から届くことは無かった。

 自分たちは軍人なのだ。だからこそ、政治に関与するまでの権利など与えられていない。戦うための駒なのだから。

『――――ちら……い…………――――ます……』

 途切れがちに聞こえてきたのは、本部のオペレーターの声だった。ジャミングが解除されたのだろうか。もしかするとさっき撃墜した機体が通信妨害装置を装備していたのかもしれない。

『ジフ、本部からの通信が!』

「ああ! こちらメタトロン! 本部、聞こえますか! 聞こえたなら応答願います!」

 出来ることなら本部からの増援を要請したいところだ。ここまで被害を受けるとは本部も予想していなかっただろう。しばらく音声が乱れていたが、やがて回線が完全に復旧した。

『聞こえるか、クローツォ少尉、アヴァナコン少尉。私だ』

 オペレーターから突然切り替わった声の主は、間違いなく司令官だった。通常任務中に司令官が通信を直に行うことは無い。あるとすれば、それは余程の緊急事態にのみ行われる。しかし、司令官が出た今まさにその状況なのだ。

『任務は変更だ。当任務はこれより月面の全面的な攻撃に移行する』

「……え? ちょっと、ちょっと待ってください……! 攻撃するのはレコンズ及び彼らの本拠地だけのはずです!」

 司令官の言葉に動揺を隠せなかったのは、マリーも同じだった。

『それに月面の全面攻撃ってことは、つまり民間人への虐殺も含まれます! そんなことを地球政府が認めるわけが……!』

『そうだ、地球政府……いや、世論はこのような作戦を認可しないだろう。したがって、これより行われる作戦は完全なる機密事項とする。君たちを含め、今ここで作戦に関与した人物には機密保持を義務する』

「そんなことが許されるわけ……! それにメタトロンとサンダルフォンの両機とも既に負傷が激しく弾薬も足りません。一度帰投させてください!」

『ダメだ』

 身体と思考が凍り付くような感覚が襲う。司令官は何を言っているのだと、そしてこのような無茶な命令になど抗ってやろうと、任務を遂行するだけの一介の軍人に許されない感情が高ぶる。

「今の状態で月面を襲撃なんて出来ませんよ! マリーだってそうだろ!?」

『そうです……! 腕と脚を一つずつやられてるんです!』

『ならば構わん、両機ともこちらで制御する』

「えっ……?」

 突然モニター全体に様々なコマンドが展開されてプログラムがスタートし、その中心には赤い文字で『M-0 System』と表示されている。

直感的にこれが管制塔から送られてきた、危険なコマンドだと気付いた。良くないことが起きるのだと。またコマンドが発動したのは自分だけではなく、マリーも同じであった。

『何これ……S-0 Systemって何よ……! コントロールが出来ない!』

「そっちもか……!」

 マニュアル制御用のキーボードを取り出して、コントロールをパイロット側にバックさせようとするものの、全てのコマンドが入力中に遮断され、キャンセルさせられる。

「そっちのマニュアル制御はどうなってる!?」

『だめ……! 全然受け付けてくれないわ!』

 焦りながらキーを叩いている間にも、着々と謎の『M-0 System』はプロセスを進めている。

『抵抗するだけ無駄と言うものだ。それは管制からの指示を最優先にして処理される』

「そんなことをしてまで、どうして月面を攻撃したがるんです! レコンズはともかく、民間人を殺す必要までないじゃないですか!」

『レコンズは月の民間人たちによって結成されたテロ組織だ。ならば原因は月の治安の欠如であり、粛清により是正するのが我々の役割と言うものだ。それにレコンズに一方的にやられるだけでは、地球政府の面子が丸潰れだと苦情がきているのだよ』

「いくら治安や面子を保つためだからって、それが虐殺を赦す理由にはなりませんよ!」

『赦すのは君ではない』

 会話をしながらもあらゆるコマンドを入力していくが、一向に受け付ける様子は無い。対して、『M-0 System』の処理はプロセスの完了状態に至った。途端に周囲全面のモニターには『M-0 System online』と表示されて、コックピットには緊急用のランプだけが点灯された。

『なに……? 機体が勝手に動き出して……! うそっ……!? こっちからのコントロールを一切受け付けない……!』

 慌てて操縦レバーを前後に動かしたり、トリガーを引いたりして見ても、こちらの操縦は全て遮断されているのか、機体は思うように動かない。それどころか、本来の操縦を無視して、機体は勝手にサンダルフォンと共に急速度で月面へと降下していく。

「どうして……機体が言うことを聞かない!?」

『君たちに任務を遂行する器量が無いなら、こちらで勝手にさせてもらおう。M-0 System、そしてS-0 Systemは、機体に搭載されたCPUによる自律制御へとコントロールを切り替えて、忠実に作戦を務めてくれる』

「ですが、もう自分たちの機体は……!」

『ああ、判っているとも。だから君たちは既に殉職したことになっている』

『そんな……!』

「そこまで潔く味方を裏切られるものなんですか……!」

『喜びたまえ。君たちは二階級特進、家族には賞恤(しょうじゅつ)(きん)をくれよう。そして君たちがここで戦死し、尊い犠牲となることで、地球による月面の統治は更に躍進するだろう』

 機体は対空砲を受けながらも、月面に向かって武器を構える。ライフルのセレクターも自動で切り替わっているのか、エネルギーが充填されて、連続発射状態のまま自動でターゲットを指定し、次々とビームで月面の施設や対空砲を焼き払っていく。順々に爆発を連鎖していく中で、その中には地図上で民間人の住宅施設と表示されていたものも含まれていた。ただ爆発を見守るだけしか出来ないが、そこには紛れもなく民間人が、ただ月面で暮らしてきただけの人が住んでいて、そして一方的に殺害されたのだ。

 近距離装備しか持っていないサンダルフォンは本体自ら地表へと飛び込んでいくが、近付けば近付くたびに対空砲による被弾は激しかった。だがそれをモニター越しに見ることしか出来ず、助けることは出来ない。どれだけ操縦レバーを握りしめて動かしても、機体はピクリとも動こうとせずに、ひたすら残るエネルギーを消耗するように、ライフルのビームを最大出力で掃射し続けていた

『嫌だ……! 落ちる……! このままじゃ機体が……持たない!』

「マリー! 脱出するんだ! 早く!」

『違うの……! さっきからやってるのに出来ない! 受け付けてくれない!』

 こちらも何度も緊急脱出装置のボタンを押してみたが、コックピットは排出されない。こちらのロックまでかけられているのだ。

『逃げられるとでも思ったかね。君たちには死んでもらわねば困るのだよ』

「ここで月の人を殺して、また誰かを移住させて、同じことを繰り返すんだ……! だから自分の部下でさえも簡単に切り捨てられる……! 地球政府はこんなことを続けるつもりですか!」

『巨大なクライアントとスポンサーが付いていれば、IFFは手段を択べない。国営の組織と言えど、公平性が成り立っているのは少数派だ。それに我々はレコンズによる損失が大きすぎたのだ』

 サンダルフォンの四肢が全て破壊される。手足をもがれたサンダルフォンは、破れかぶれになった擬似翼だけを開きながら、地上へと墜落していく。

『もう戦えないのに……! どうして……! 助けて、助けてよジフ!』

『まだ残っているではないか』

 司令官の声と共に、サンダルフォンは地上へと墜落する。同時に、閃光を輝かせながら月面の地表を爆散させた。機体を自爆させて、最後の武器とさせたのだ。パイロットが乗っていると判っていながらも。

「マリー! 応答してくれ、頼むから! マリー! マリアベルッ!」

『試作型の機体であるメタトロンとサンダルフォンのデータは十分に取れた。君たちの犠牲によってな』

 それきり、サンダルフォンから入ってくる通信は、ただ砂嵐のようなノイズだけが、不規則なリズムを刻んで流れてくるだけだった。

「……まさか、レコンズにADを支給したのは、IFFですか」

『スポンサーも実験データが欲しいそうでね』

「あの機体はスポンサー企業のADというわけですか……! それを裏で流通させて……!」

『そんなことを知ったところでどうする?』

 これから自分に待ち受ける運命を思うと、それ以上は何も言えなかった。やがて機体のエネルギーは尽きて、マリーと同じように最後は爆ぜて死ぬだろう。

「こんなことで終わらせるもんか…………」

 死ぬと判っていながらも、それを認めたくは無かった。

 この事実を公に伝え、IFFの実情を暴露するまでは、死んでしまうわけにはいかないと、心の奥底が(たぎ)ったのだ。

 しばらくじっとしているうちに、メタトロンの腕と脚が破壊され、ライフルの弾薬や機体のエネルギーが尽きた。それと同時に外部との通信も途切れ、全てのシステムがシャットダウンし、モニターの電源も切れてコックピットは闇に包まれた。運が良かったのか悪かったのかはともかく、管制からの指示による自爆は免れたらしい。

 また少し時間が経つと、今度は激しい衝撃が襲い掛かって機体を揺さぶると、自分はどこかに頭をぶつけてしまったのか、そこで一度意識を失ってしまっていた。思考がブラックアウトする寸前には、任務に出撃する前の、自信に満ちたマリーの顔が浮かんだ。

 自分はまだ生きている。だから、役目を果たさなければならない。

 死んだ戦友の為、そして虐殺された月面の民間人のためにも、地球政府とIFFの悪行とも言える政策を暴こう。



 やがて目が覚めた時、自分は復讐のために生きるのを決意した。それが最善の選択であり、真っ暗なコックピットの中で想った人々のためだと思ったからだ。

もはや自分は一介の軍人ではない。ならば、選択する権限はある。

「こちらメタトロン・エヘイエー。本体及びアルデバランユニットの状態は良好」

 装備のステータス状態を確認しながら、オペレーターに状態を伝えていく。追加ユニットによって装備がかなり増えたこともあって、確認事項が非常に多くなっており、急ぎながらボタンで次々と画面を切り替えていく。

『念のためもう一度言っておくが、対艦級ビームキャノンは連続使用出来ない。冷却が完了する前に使えば砲身が融ける。それにエネルギーの消耗が激しいからな』

「了解」

『万が一の場合は捨てて戦え。ジフ、始めるぞ。俺たちレコンズの月面奪還作戦のファーストステージ、ここでしくじるわけにはいかん。それにその機体は俺たちの一張羅だ、大事に扱えよ』

「判っているさ」

 機体が僅かに揺れる。カタパルトまでの移動が完了したらしい。やはり一テロ組織とは思えない、軍にも劣らぬ施設の充実さだ。

『カタパルト準備完了、発進タイミングはそっちに任せるわ』

 いつかの時のように、操縦レバーを引く。火花を上げながらメタトロンは高速で発射されて、暗黒の宇宙へと飛び出した。

 目の前には幾多もの艦隊やADの小隊たちが待ち受けている。

 それらを目の前にして月の民を率いて、新たなる力を得た片割れの天使は、地球へと加速し、一筋の巨大な光を放った。

初のロボット系小説。

短編なのに設定を考えるだけでも一月近くかかりました。

無駄に設定を練ったために、本編では出し切っていない設定もあります。

そもそもロボットモノの小説は読んだことすらないのに、何たる横暴だろうか。


作中登場するメタトロンとサンダルフォンは双子の天使です。

だから二人でタッグを組んで戦うんですよ。

武装の名前の一部は生命の樹を由来にしています。


果たしてロボット系のアニメやゲームが好きな人は、この作品をどう思うのでしょうか。

いかんせん手の付けたことのないジャンルなので、アドバイスなどがありましたら、是非書いていただけると幸いです。

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