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ロストメモリー「8」

《死後の世界》にも、祭りと呼ばれるもようしがある。

ある時期になると桜木学園の近くで祭が開かれる。

祭り内容は現実世界とほとんど変わらない。

違うと言えば、《死後の世界》に元々存在する人間(ロストプレーヤーではない存在)が店をだしていることくらいだ。

ゲームの決められた言葉しか言わないため、ロストプレーヤーかどうかを見極めるのは簡単だ。

祭り期間中のみこの辺りに姿を現すクリーチャーも姿を消すため、ロストプレーヤーは楽しく祭を楽しめる。


賑やかな祭りが開かれ、ロストプレーヤーは男女揃ったカップルや仲のいいメンバーで祭りを楽しんでいた。

普通に見ると何ら現実と変わらない。

幸哉はいつも服を着て、祭りの入口で最斗と二人ベンチに座っていた。


「今さらだけどさ。本当に現実世界なんてあるのかな?って思うときがあるんだよな」


最斗は近くで買ってきたイカ焼きをくわえながらそう言った。

幸哉はその事について、同じことを考えたことがあった。

本当は現実世界なんてものはなく、《死後の世界》と呼ばれるものが本当の世界なのでは。

記憶を取り戻すためと言われ、クリーチャーや天使と戦うことが日常的になり、一日一日が積み重なるごとに幸哉たち人間はそんな疑問をもつようになっていた。

取り戻す記憶はそれぞれ確かに違う。

しかし、この記憶も偽りのもので、この世界にある仕様なのではないか。そんなことを考えることは多々ある。


「でも、現実世界があるなら、やっぱり戻らないといけないだろ?何かをやり直すために俺たちはここにいるわけだし」


「最近聞いたんだけど、この世界から消える方法が消されるか記憶を取り戻す以外にあるんだってよ」


「そんな方法なんてあるのか?」


「諦める。いや満足するかな?」


幸哉は首を傾げた。

理解できないのは当たり前だ。

最斗は軽く声を出して笑った。


「この世界で、生き返る必要がないって思った人間は消滅するんだってよ」


幸哉は黙って聞いていた。

驚くこともなく。


「そんなこともあり得るんだな」


「《死後の世界》にきて生き返る必要がないって思うのもわかる気がするな~」


「最斗はあるのか?」


「ないよ」


最斗の即答に幸哉は苦笑いした。


「幸哉はどうだよ?」


最斗は不意にそう聞いた。

考えたこともなかった。

幸哉は少し考え込んだあと、顔を横に降った。


「ないな……」


「そうか……」


辺りが暗くなり、夕日が沈んでいくのがわかった。

《死後の世界》になれ、自分自身が満足する。

死ぬ前に達成することができなかった目的を忘れた人間ならばあり得ることだ。

生き返るには生き返るなりの意思と理由が必要なのだ。

幸哉は自分自身の記憶を思い出しながら軽く笑った。

わずかな記憶。

学校での自分。家族のこと。そして、ハッキリとはわからないが大切な人のこと。

満足するわけにはいかなかった。

まだ知りたいことが合った。

だから、生き返らなきゃいけない。死ぬわけにもいかない。

幸哉はそう思った。


「じゃあ、幸哉。待ち人は来たので俺は去るよ!」


「えっ?」


最斗が指差す方に幸哉は目線を移すと、そこには浴衣姿の玲奈が見えた。


「ちょ、最斗―」


最斗に声をかけようとした瞬間、幸哉は最斗の姿がないことに気がついた。


「聞いてないよ……」


そんなこと言っているうちに玲奈が幸哉の前までたどり着いた。


「ごめん。まった?」


「いや、そんなことない。俺も今着たとこだから」


苦笑いしながら、ニコリと嬉しそうに笑う玲奈を見ながら幸哉は、初めての数時間前に最斗が言っていた意味を理解した。






幸哉と玲奈は二人で歩きながら祭りを見て回っていた。

なぜこうなったのか理解できず幸哉はちらりと祭りを満喫している玲奈を見ながら苦笑いするしかなかった。


数時間前、祭り当日の朝早くに最斗が桜木学園の屋上に来るように言われ、時間通りに屋上に来た。

そこで言われたのは、この間デートと偽り幸哉に黙っていた秘密の用件で決まった取引に参加してほしいという内容だった。

強力な武器の取引などという嘘の話に騙され、幸哉は一人で徘徊するはずの祭りを玲奈と行動することになった。

他人から見れば玲奈と二人でいることはうらやましいことだろう。

しかし、幸哉は玲奈が共に行動してる理由が天使が現れた時に対処するためだと理解しているためあまり喜べなかった。


「幸哉くん!わたあめあるよ!」


無邪気に楽しむ玲奈を見ながら幸哉は軽く微笑む。

美少女と歩く、幸哉は幸福を感じながら少しの間、玲奈と二人で祭りを楽しんだ。

射的、くじ引きと言ったゲームで遊び、久しぶりに焼きそば以外の食べ物を食べた幸哉は半泣きになり、それを見ていた玲奈は可笑しそうに笑いながら、時間は刻々と進んでいった。


人通りが少なくなった道で二人はベンチに座って休憩した。


「賑やかなもんだな。本当に」


「本当ね。いつ天使がくるかわからないのに」


「よく言うな。さっきまで楽しんでくせに」


「そ、そんなこと!!!!!」


玲奈は顔を真っ赤にしながらそう言った。

幸哉は軽く微笑むと夜空を見上げて深呼吸をした。


「平和だな……」


「そうね」


少しの沈黙。不意に幸哉は天使であるシホのことを思い出した。


「なぁ…玲奈は天使が本当は人間と戦いたくないって思ってたらどう思う?」


玲奈は突然の質問に考え込んだ。

幸哉が天使との戦いを好まないことを玲奈は知っていた。

今まで玲奈は幸哉の考えてることを理解できなかった。

ロストプレーヤーを消す存在をどう思うか、玲奈はただの敵としか考えたことはなかった。

敵は倒すしかない。

わかり合えないなら、戦うしかない。

幸哉の悩む意味はないと思った。

しかし、玲奈は幸哉が言いたいことが最近わかったきがした。


あの日、自分を助けてくれたのは天使だ。

幸哉が言いたいのはわかり会える天使がいると言うことだ。

玲奈は返答に迷った。

天使は信じられない。

今までの例が酷すぎた。

自分の友が消されたことも合った。

仲間を消された。

玲奈は口を開き答えた。


「私は、今でも天使を信じられない。例え、あの日、私を助けた天使でも……」


幸哉に悪いと感じながらも玲奈はそう言った。

共感することはできなかった。


「まぁ……そうだよな」


幸哉は何となく返ってくる答えはわかっていた。

それでも、今の玲奈の考えを知っておきたかった。



再び沈黙し、空気が悪くなったところで玲奈が立ち上がった。


「でも、私は期待してる」


「……えっ?」


「幸哉くんがこの先、天使とわかり合うために無謀なことをしようとしてるのは知ってる。だから、証明してほしい」


幸哉は、目を点にして玲奈を見ていた。

玲奈は確かに言った。

幸哉は何となく玲奈の意味を理解した。

天使とわかり合うことができる。それができれば、何かが変わる。

玲奈の考えも、すべての人間の考えも。

幸哉は玲奈を見ながら微笑んだ。すると玲奈は頬を赤く染め視線を反らした。


「まぁ、証明できないなら戦うしかないけど」


念のために玲奈は幸哉にそういった。


「私、お手洗い行くから待っててね」


玲奈はそう言うと駆け足で姿を消した。


一人になった幸哉は辺りを見回し知り合いがいないかを確認した。

とくにかく今、会いたくないのはルナとシュウだ。

出くわすと厄介なことになる。

そう思いながら幸哉は確りと辺りを確認した。

刹那。

幸哉はある一点に目が止まった。


浴衣姿をした一人の少女。

黒銀の綺麗な髪。

それだけで、幸哉はその少女が誰だかわかった。

「何であいつ……」


幸哉は唖然として、少女を見ていた。

あれは、絶対にシホだ。

幸哉はそう思った。






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