ロストメモリー「7」
桜木学園、グランド中心の上空に《タイラント》が姿を現し、その場にいたロストプレーヤーは戦いを始めた。
それぞれの愛用する武器を使い戦い、天使と対抗するが、結果はかすり傷をつけるこさえできずに戦いはもう一人の天使の出現により終結した。
それから数日が経過し、桜木学園の周辺では、夏祭りの準備が始まっていた。
壮大に広げられる祭りはロストプレーヤーからの人気も多い。
「しかし、今回は問題が山積みだから困ったもんだぜ」
桜木学園の食堂に幸哉と最斗は食事をしていた。
しかし、今日は少しいつもと違っていた。
玲奈とルナ、そして、シュウが同じテーブルで食事をしていたことだった。
「天使がいつ現れるかわからないからね。気をつけないと」
「ククク、わらわに勝てる存在などいない。だから、幸哉!祭りは一緒に回ろう!!!!!」
「あなたは危機感がないわけ?幸哉くん?いつ何が起きるかわからない。私と、まつ、じゃなくて一緒に行動すべき」
「貴様!然り気無く、幸哉を誘うな!」
「私はただ、緊急事態に対応するために私と行動するほうがいいって言ってるの!!」
「ならば心配はいらん!わらわがいれば天使など瞬殺じゃ!玲奈は一人で祭りを楽しめ!一人でな!!!!!」
「あなたじゃ頼りないわ!私が幸哉くんと行動する!あなたは危ないからシュウくんと家で大人しくしてなさい!お土産は買っといてあげるわ」
「貴様~!!!!!」
「何よ~!!!!!」
二人の美少女が争うなか、幸哉は一人大人しく2週間以上お世話になっている焼きそば食べながら考え事をしていた。
あれから、シホに合うことはなかった。
今、何をしているのか?
黙々と焼きそばを食べる幸哉を見て、最斗とシュウは首を傾げた。
「で!?幸哉はどっちなのだ!?」
不意にルナに質問された幸哉は我に帰った。
「えっと……悪い聞いてなかった」
「どっちと祭りに行くか聞いてるの!!」
「あっいや~……」
幸哉は視線を最斗とシュウに送り助けを求めた。
しかし、反応は酷いものだった。
「幸哉…死んでくれ」
(もう、死んでるよ!)
「幸哉くん。死んで」
(お前らなんなんだよ!!!!!)
なぜかしら幸哉は暴言を言われ、玲奈とルナは幸哉の答えを待つ。
幸哉は朝から深いため息つき、不幸だと感じたのだった。
◇―過去
目を覚ますと幸哉はベッドの上で寝ていた。
(ここは……どこだ?)
ボヤける視界で辺りがよく見えないが、嗅いだことのあるような臭い。
病院とは少し違うがそれに近い臭いから何となく保健室だと推測できた。
幸哉はベッドから体を起こすと激しい頭痛が生じた。
天使にやられた。
そこまでは覚えている。
それから俺はどうした?
頭の痛みに耐えながら幸哉は再度《死後の世界》に来てからのことを振り返った。
「気がついたんだ?」
保健室のドアの前、赤色の髪の少女が救急箱を持ってその場にたっていた。
「君は…だれだ?」
「私は彩那。音橋彩那。昔は高校生で、17歳、《死後の世界》に来て約2年くらい。武器は片手剣だよ。よろしくね」
目を点にしながら、幸哉は彩那を見つめた。
髪型はモブと言うものだ。
大きな瞳。
綺麗な肌、発育途中であろう胸の膨らみ。
少し、露出度の高い服を見ながら幸哉は頬を赤く染めた。
「どうかしたの?」
「えっ!?あ、いや何でもない」
軽く幸哉は首を振り誤魔化した。
彩那は幸哉の様子を見て首を傾げる。
すると、ドアの方からノックの音が聞こえ、二人は同時に振り返った。
「彩那ちゃん。そいつ起きたのか?」
「あっ、最斗。あれ、持ってきてくれた?」
最斗という少年に幸哉は見覚えがあった。
天使と遭遇した時に出会った少年。そして、この世界にきて初めて出会った少年だ。
「お前をあのときの……」
「おぉ、元気そうでなによりだ。そう言えば、自己紹介まだだったな。俺は早見最斗。気軽に最斗って呼んでいいぜ」
「あぁ……」
幸哉は小さく返事をすると視線を最斗の手に向けた。
黒く光る一本の剣。
幸哉は鳥肌をたてながら息を飲んだ。
《死後の世界》には、クリーチャーと天使と戦うための武器。最斗がライフルを使っていたのは見ていた。
この世界に存在する武器は偽物ではない。本当に何かを傷つけることのできる凶器。
記憶のない幸哉でも、これほどまでに何かを傷つけるための道具は触ったことはないと確信した。
「君、武器持ってないでしょ?知り合いに作ってもらたの。よかったら使って」
彩那はそう言うと、一本の剣を幸哉の前に持ってきた。
自分の顔が映し出されるほど綺麗に作られ、剣の重さは予想以上に重かった。
「これ……本当にいいのか?」
彩那はコクリ頷いた。
美しく黒く光った剣を握り、幸哉は目をつぶった。
ここから始まる。
俺の記憶を取り戻すための物語が。
スッと目を開き、幸哉はベッドから立ち上がると、二人の方に顔を向けた。
「俺は朝霧幸哉。その、色々とありがとう」
2人は呆然と立ち尽くし、直ぐに顔を見合わせて笑った。
これが、最斗と彩那との出会だった。
この二人との出会いが、自分を大きく変えて行くことにその時の幸哉はまだ知る予知もしなかった。
◇―現在―
桜木学園の屋上。
シホは、一人空を眺めていた。
天使として生まれ、ロストプレーヤーと呼ばれる人間と戦うようになってから、約一年近く時が経過した。
完全な存在。
未だに実感のわかない目的。それが、今の自分になった気がした。
戦いたくない。
何のために戦うのかわからない。
心の整理がつかない内に攻撃を仕掛ける人間たちを返り討ちにしながらシホは悩んでいた。
心がすり減る感じ、何もかもが嫌になった。
そんなときにあいつは現れた。
黒髪の紅い目、桜木学園の制服を着た少年。
名前はリア。
初めてあった、同じ種の存在。
少し違うのは、彼が完全な存在と言うこと。
突然姿を現したリアに戸惑いながらシホは口を開いた。
「ねぇ……リアは何のために私たちは戦うのかな?」
「それは、君が完全な存在になるためでしょ?」
「完全な存在ってなに?私とリアは違いなんてほとんど変わらない」
「シホがぼくの立場になればわかるよ。ほんの些細なことだけどね」
「どう言う意味?」
「シホが戦う理由がわからないってことは、人間と戦いたくないって意味?」
リアは質問には答えなかった。逆に質問するリアにシホは答える。
「…わからない、私にも良くわからない。心の中で何かが突き刺さった感じがする」
「シホはシホなりの悩みがあるんだ」
リアは面白そうに笑った。
そして、ポン!と手を鳴らし、リアはニコリと優しく微笑んだ。
「だったら、彼にあってみるといいよ」
「彼?」
シホは首を傾げて聞き返した。
「朝霧幸哉。彼は彼で悩んでるから」
意味の理解できないシホは黙って聞いていた。
リアは笑顔のまま言葉を続ける。
「シホが戦う理由がわからなくて、人間と戦いたくないと言うなら、幸哉くんにあってみるといい」
「その人に会えば何かわかるの?」
「それはわからない。でも、彼なら君の答えを見つけてくれると思うよ……たぶん」
「た、たぶん?」
苦笑いしながらシホはため息を吐く。
朝霧幸哉。聞いたことがない人間。
リアはなぜその少年に会えと言うのかは理解できない。
ただ、可能性があるなら、その少年にあってみてもいい。
そうシホは思った。
そして、リアの言っていた、幸哉と出会い。
彼は何かを変えてくれる気がした。
自分の知りたい答えを教えてくれそうな気がした。
空を眺めながら、シホは軽く微笑んだ。