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ロストメモリー「6」


桜木学園の屋上、幸哉は天使と抗戦していた。

縦横に交差する斬撃を片手剣で上手く流し、ダメージを最小限おさえる。


幸哉は愛用の武器である片手剣《白竜》を自在に操り、反撃に移る。

しかし、相手の二本の剣に防がれ、すべてが相殺される。

予想以上の強さに幸哉は焦り始めた。

幸哉は勢いよく後方に下がり天使と距離をとった。


「なぁ!いい加減、許してほしいんだけど!」


天使は鋭く狂気に染まった顔を向け、汗が幸哉の頬から流れた。


「一回、胴体を真っ二つに斬るまで、許す気なんてない!!!!!」


言葉と同時に天使が持つ二本の剣が青く輝いた。

何かを溜め込むように、徐々に輝きの強さが増していく。


「死ね!!!!!この変態!!!!!」


二本の剣から放たれた一撃は一直線に前方にいる幸哉に向かう。


「これは、不味いな」


幸哉は苦笑いしながら、左手首についた黒いリングに触った。

天使が放った斬撃が徐々に距離を縮め、幸哉との距離がゼロになった刹那。

放たれた斬撃は跡かともなく消えた。


「えっ?」


天使は何が起きたのかわからず、呆然と立ち尽くした。

砂ぼこりが治まり、姿を見せた幸哉を見ながら天使は表情を固くする。


「あなた、何したの?」


幸哉は頭を掻きながら笑って誤魔化した。


「……」


天使は、手に握った二本の剣を地面に突き刺さし腕組みをした。

幸哉はその行動の意味を理解し、天使と同じように片手剣を地面に突き刺した。


「君、名前は?」


「幸哉。朝霧幸哉」


唐突な質問に幸哉は何も考えずに対応した。


「何で、手加減してたの?」


「俺は、あまり女の子と戦うのは好きじゃないんだよ」


「私が天使だってわかってるでしょ?それなのに何で?」


「天使とか関係ないさ。天使だって、感情をもってる。人間とほとんど変わらないだろ」


「……」


天使は黙り込んだ。

この天使は何を考えているのだろうか。

幸哉は考えていた。

玲奈から聞いた話ではこの天使は俺を探していた。

なら、何かしろ俺に用がある。名前を聞いたんだ。俺が探している相手だと天使も理解してるはずだ。

沈黙の続くなか、天使は二本の剣を地面から抜き取り幸哉に向けた。


「私は、あなたを探してた」


幸哉は黙ったままだった。


「その様子だと、知ってたみたいね?だったら話が早いわ」


天使は二本の剣を消し去ると、右手をつき出して口を開く。


「協力してほしいの。私に」


その一言で幸哉は言葉を失った。




◇ 幸哉は目を丸くしてその場に呆然と立ち尽くした。

天使が自分に協力を求めたことがあまりにも信じられなかった。

今まで、天使と戦わずに済むか考えたことはあった。

しかし、互いに反する存在だったため、心のどこかで諦めかけていた。

幸哉は唾をゴクリと飲み込んだ。


「協力しろって?どういうことだ?」


「そのままの意味よ。目的を果たすために、協力してほしいの」


「お前の目的ってなんだ?殺したい人間とかなら断るぞ」


「何で私が人間なんか殺されないといけないの?」


天使はあきれた様子で幸哉にそう言った。


「……いや、お前天使だろ。完全な存在になるために人間と戦ってるんじゃないのか?」


「やっぱり……君が幸哉って本当なの?」


「信じてなかったの!?」


「だって…君、かなり前に私に瞬殺されたことあるでしょ?それに私的には、もう少しカッコイイ人だと思ってたから」


「イメージ通りの人じゃなくて悪かったな……それより、よく俺のこと覚えてたな」


天使は幸哉の特徴のあるはねた癖っ毛を指差した。


「……反応に困るな」


「それで、協力してくれるの?してくれないの?」


「だから、協力内容を聞かないと、答えられない」


天使は幸哉に近づくため歩きだす。

幸哉の目の前に立つと再び天使は右手を差しのべる。


「あなた達が《タイラント》と言っている天使を倒したいの」


天使が天使を倒したい?

戸惑いを隠せない表情に天使は声をかけてくる。


「デメリットはないと思うけど?」


確かにそうだ。

天使が味方につけばかなりの戦力になる。

天使と天使の力は同等なはずだ。ならば、《タイラント》を倒すのには随分と楽になるかもしれない。

しかし、問題なのは―


「何が狙いだ?天使が人間に協力するなんて聞いたことがないぞ?」


「私はただ、協力してくれるかしてくれないかを聞いてるの」


「質問には答えてくれないわけか」


「これで、最後にするわ。協力してくれるかしないか。答えて」


わからない。なぜ協力してほしい?

このまま、天使の誘いを断ると《タイラント》を倒すのに苦戦するのは間違いない。

確実にまた犠牲者がでる。

でも、理由のわからないまま協力するのにも危険だ。

普通なら裏があると考えて断るのが妥当かもしれない。


「俺は……」


しかし、だ。俺は俺なわけで、今も昔も考えは変わってない。

戸惑いも、あった。それでも、今はこの手を握る。


幸哉は天使の手を握った。

とても温かい手。人間と変わらない。この《死後の世界》に来た、ロストプレーヤーとなにも変わらない。


「とりあえず、よろしく頼むよ」


「……」


天使が何も反応を見せないことで幸哉は首を傾げた。

そこで幸哉は天使の表情に気がついた。


「えっ?」


自分で協力を誘っといたわりには信じられないと言った表情が天使から伝わる。


「きょ、協力してくれるの?ほ、本当に?」


幸哉は、何故だかあきれていた。

ここまできて、まだ信じていなかった。


「お、お前……」


「ご、ごめん」


幸哉は苦笑いするしかなかった。


「リアの言う通り、変わってるんだ。幸哉って」


「リアを知ってるのか?」


「うん。あいつに聞いたんだ。もし困ってるなら幸哉って人間に頼ってみるといいって」


「あいつ……」


「正直、期待はしてなかった。人間が天使に協力してくれるわけはないから」


「まぁロストプレーヤーの天敵だしな。それより、なんでお前は自分と同じ天使を倒そうとしてるんだ?」


「それは―」


刹那。

学校のグランド中心に光が放たれたと同時に爆発が起きる。



吹き荒れる砂ぼこりの中心に一人の少年がいた。

紅い剣。


「《タイラント》」


天使はそう言った。

歯を悔い縛り、両手を大きく広げた。

瞬時に姿を現した双剣を握り、背中からは綺麗な白い羽が生える。



「話はまた今度ね」


「ちょっと待てよ!どうする気だ!?」


「止めるの……あいつを」


地面から離れ、天使は空を舞う。


「そうだ…名前」


「な、名前?」


「私はシホ。ちゃんと、覚えといてね」


幸哉はコクリと頷いた。

そして、シホは一直線に《タイラント》に進行した。







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