ロストメモリー「1」
朝霧幸哉(アサギリ幸哉)
・年齢:17歳
・誕生日:11月31日
・武器:片手剣
・好きな物:コーヒー牛乳
・記憶収集率:10%
「なぁ、幸哉。スクミズって、どう思う?」
戦いの中、禍々しいオーラを放つ巨大な黒いトカゲと抗戦しつつ、最斗はそんな質問をしてきた。
「お前、この状況で何言ってるんだ?」
何メートルあるかわからないトカゲの尻尾を、片手剣で切断し、苦笑いで幸哉は質問を返す。
「いや、ビキニとか色々なエロい水着はかなりあるけどさ、スクミズは何か秘めてる感じがするんだよ」
トカゲから距離を取り、最斗は背中に背負っていたライフルを瞬時に構え、狙いを定める。
トカゲの目を狙い、引き金を引く。
弾丸は吸い込まれる様に命中し、トカゲは酷い叫び声を上げ手で目を抑えた。
「まぁ、あのピッチと張り付いた布、隠せてるようで隠せていない身体、ある意味水着界でトップに属するかもな」
動きが鈍くなったトカゲの身体を連続で切り裂く幸哉は、余裕の表情で戦いを進めていく。
トカゲは、轟音を放つと同時に真上にはね上がった。
その行動に、一瞬驚いた幸哉だったが一秒も経たない内に冷静差を取り戻し、片手剣を方に乗せる。
真上にはね上がったトカゲを見ると切断した、尻尾が再生しているのがわかった。
別に状況は何も変わるわけではない。
ただ、トカゲは再生能力があっただろうか、という疑問だけが幸哉の頭の中でちらついた。
『幸哉、目標落下地点まで三秒だ』
「カウントはいらない」
もうスピードで落下してくるトカゲを睨み付け、頭の中で秒数を数え、三秒後幸哉はトカゲに向かえ撃つように飛び上がった。
トカゲの手が幸哉目掛けて襲ってくる。
幸哉は身体をねじり回転させ、トカゲの手を切り裂き、攻撃を相殺。
そのままトカゲの身体の中心目掛けて剣を振るう。
真二つに切り裂かれ、トカゲの体内に存在した光輝く宝石も真二つに別れていた。
落下したトカゲの身体は粒子の光となって消え去り、光輝く宝石だけが残った。
宝石を拾い上げた最斗は指でタッチするように触れると、宝石は光を纏って一枚の紙切れに変化した。
焼きそば
紙切れにはそう書いていた。
「……」最斗は何も言わず無言のまま固まった。
近寄ってきた幸哉もその紙を見ると苦笑いする。
「一週間連続で焼きそばかよ」
二人は同時に溜め息をつき、ガクリと肩を落とした。
◇
目が覚めると幸哉は白い空間の中にいた。
辺りには何もない。
人も、建物も、草も、道も、空さえ無かった。
「ここは……」
ボソッと呟きながら、状況が把握できない幸哉はただ呆然と辺りを見回した。
なぜ俺はここにいるのか、そう思った瞬間、頭に酷い頭痛が生じた。
「……ッ!」
何も思い出せない。
ここに来るまでの記憶がない。
まず記憶なんてあったのか?すっぽりと何かが空いた感じ、そこにはもとから何も無かったのかもしれない。否、あったはずだ。ここには確かに何かがあった。そう感じた。
わからないことだらけ、ここはどこなのか?
なぜ、ここにいるのか?
不安がドンドン押し寄せてくる。
幸哉が混乱し始めた。
何もわからないことで、こんなにも心が不安定になるものなのか。
刹那、背後に誰かがいるのを感じた。
瞬時に振り替えると、そこには学生服を着た一人の少年が幸哉を見つめていた。
身長は男子高校生の身長平均より小さく、紅い瞳、黒い髪、どこにでもいそうな少年。
「……」
「……」
互いに黙り、沈黙が続く。
幸哉は頬に汗が浮かび、状況を理解するため思考を巡らせる。
「いや、なにか反応ないの!?」少年は沈黙に耐えられず、口を開いた。
「普通は、君は……だれ?みたいな反応してよ!!絡みずらいよ!!」
なぜか半泣きになる少年を見ながら幸哉は苦笑いする。
「ご、ごめん。色々と混乱してて」
溜め息をついた少年は、咳払いをすると姿勢を直す。
「まぁ混乱するのは、当然だよ。記憶ないんだもの」
その言葉で幸哉は顔が強張った。
「お前なんで俺の記憶ないことを知ってるんだ?」
幸哉は無意識に警戒していた。
こいつは何かを知っている。
記憶が思い出せないことを、今起きていることも。
「当然だよ。記憶を奪ったのは……僕たちなんだから」
不適な笑み。
少年は何の迷いもなく、自分が記憶を喪失させた犯人と名乗ったのだ。
なぜ、そんなことをしたのか。わかるはずもないが幸哉は疑問に思った。
「君は、自分が死んでるんだって言ったら信じる?」
少年は幸哉の目を見つめ、そんなことを言った。
意味もわからず、戸惑う幸哉に構わず少年は口を開いた。
「話をする前に、君には一つ真実を伝えとこう」
「……」
真実。
少年が何を知っているのか。幸哉には選択肢が限られていた。
否、元々決められていた。この少年から真実を聞くしか先には進めない。
幸哉は息を飲んだ。
これから、聞く内容が、話が嘘であるのか真実なのかはわからない。
ただ、嫌な予感はしたのは確かだった。
「君は……」
時間がゆっくり、流れている気がした。
「死んだんだ」
唐突に告げられたのは、その一言だった。
◇
時刻は昼を過ぎた頃だった。
幸哉と最斗は、トカゲを撃退して手にいれた食件―焼きそば―を使い、桜木学園の食堂で美味しいはずの焼きそばを暗い顔で啄んでいた。
「それで、やはり水着はスクミズがすごいと思うわけよ」
トカゲの戦闘からスクール水着について熱く語る最斗をあしらいながら、幸哉は焼きそばにマヨネーズやら辛子などをトッピングして、味に変化を求めていた。
それを迎えの席に座って同じものを食べていた最斗は幸哉を見て、溜め息をつく。
「ところでお前は何してんの?」
「見ればわかるだろ?味に変化を求めてトッピングしてるんだよ」
「やめとけ、本来美味しい焼きそばが不味くなるだけだぞ?」
やれやれといった表情で最斗は首を横に振る。
「あのな?誰のせいで、焼きそば食ってると思ってるんだ?」
「はぁ!?俺のせいだとでも言う気か!?」
それが引き金だった。
「あぁそうだよ!お前のせいで焼きそばを一週間も食うはめになってるんだからな!?一日一回ならまだしも、なんで、朝昼晩、焼きそばなんだよ!!ふざけんな!何の伝説を残そうとしてるん俺達は!?」
席から立ち上がり幸哉は叫んだ。
それに対抗するように最斗も立ち上がり叫ぶ。
「仕方ないだろ!?運なんだから!そもそも、トカゲのコアを真っ二つ斬るてめぇだって悪いんだからな!?この世界来てから何回コアを傷つけるなって言ったと思ってる!?俺だって何の伝説残そうとしてるかわかんねぇよ!!」
「じゃあ、お前がコア取り出しみろよ!無傷のまま取り出すなんて神業だ!俺にできるわけないだろ!自慢じゃないが、俺は昔から不器用なんだ!」
「本当に自慢にならないな!!だったら今度お前が後衛やってアシストに回ってみろよ!お前の片手剣でな!!!!」
「おぉ、やってやるよ!最近は、遠距離技だって考えてるんだからな!」
「よく言うぜ、ノーコン野郎が!」
「ノーコン関係ないだろ!」
「あるさ、遠距離技で味方に当てられるかも知れないしな~」
「試して―」
「そこ、うるさいんだけど」
二人の言い争いに終止符を打ったのは、一人の少女だった。
肩より少し長め金色の髪、綺麗な瞳、風格のある学生服、スカートから見える足は綺麗で細い。
この辺りでは有名な人物、桜木 玲奈。
女性の中でも五本指に入るほどの美少女だ。
「焼きそばぐらいで喧嘩するなんて馬鹿じゃないの?あぁ、バカだったわね?ごめんなさい」
「お前は喧嘩売ってんのか!?」
幸哉は玲奈を睨みつけ怒鳴る。
「そもそも、そんなに嫌なら食べなきゃいいでしょ?食券を使えば、また、クリーチャーから食券はドロップするんだし」「食べ物を粗末にするもんじゃないだろ」
「幸哉がやってた、焼きそばのトッピングの方が食べ物を粗末してるわ。何が味の変化を求めてる、よ」
二人の言い争いを見ていた最斗はあわれに思い焼きそば食べ始めた。
「くっ!最斗も何か言ってやれ!」
口喧嘩に勝てないと判断したのか幸哉は最斗に加勢を求めた。
やれやれと言った表情で最斗は焼きそばを食べ、一息ついて口を開く。
「何か用が合って来たんじゃないか?玲奈ちゃん」
加勢すらせず無視した最斗を、幸哉は口を尖らせて睨んだ。
その表情を呆れてみていた玲奈は最斗の質問にコクりと頷いた。
「まぁ、用と言うよりは忠告ね。天使の目撃情報があったわ」
幸哉も最斗も共に顔が一気に険しくなる。
天使。
それは神に仕える存在とされ現在、否、現実では空想上の存在に思われている。
しかし、この世界は違う。
天使は優しく、いたわってくれる存在ではない。
その逆、この世界の天使は幸哉や最斗、玲奈、この《死後の世界》にきた人間を消すために現れた存在。
ネット上に現れたバグを消す存在のようなものだ。
「天使か……」
幸哉は焼きそばを一口食べ自分が死に、この《死後の世界》に来た時のことを思い出していた。
何もわからず、初めて遭遇したのが天使だった。
同い年の少年。まるで天使には見えなかったことを覚えていた。
そして、少年は幸哉に確かにこう言った。
『君は天使を倒せるかな?』
その言葉を、忘れたことはない。
この世界で生きる人間にとって、鍵となる記憶を取り戻すには天使を倒すしかない。
誰もが知っている情報。
そして記憶を取り戻し、もとの世界に戻ることが《死後の世界》に来た人間の目標なのだ。
「お~い。幸哉?」
不意に最斗が肩に手を置き、幸哉は我に返った。
「あぁ、ごめん。考え事してた」
「なんだよ?まさか、前に天使に殺られたこと思い出してたのか?」
「……」
幸哉は目を丸くし最斗の顔を見る。
「そう言えば、お前と初めて会ったときにも天使に遭遇したっけ」
「ん?なんだ、考え事ってそのときのことじゃないのか?」
首を傾げ最斗はそう言った。
「いや、まぁ色々あるんだよ。俺にも」
「そうかい」
二人の会話を黙って聞いていた玲奈は「ゴホン!」と咳払いで注意を向かせた。
「おっと、ごめんごめん。……で?玲奈ちゃんが忠告で終わる人ではないと思ってるのは俺だけか?」
最斗は玲奈の意図をわかってるようにそう質問した。
「……私たちは今回、天使討伐に打って出ようと思ってるの」
その言葉に反応を見せたのは幸哉だけだった。
最斗は解っていたのだろう。玲奈の言葉に微動だもしなかった。
「その為、できるだけ戦力が欲しいの。だから、二人にも協力して欲しい」
玲奈の表情から、冗談ではないことは確かだった。
天使討伐。
現在まで討伐回数は百回以上。しかし、成功数はたったの五回。
理由は簡単だ。
天使が異常なまでに強いからだ。
だからこそ、誰もが天使には挑まない。
しかし、玲奈は天使に挑もうとしていた。
誰もが無謀と考える行動を彼女はやろうとしている。
幸哉は黙り込んだ。
その様子を見た最斗は軽く微笑んだ。
「少しだけ、時間をくれないか?討伐もすぐに行動を動かすわけじゃないだろ?」
最斗は玲奈そう話を切り出した。
玲奈もそれを承認しコクりと頷いた。
「返事は明日聞かせてもらうわ。今日と同じ時刻でいい?」
「あぁ…」
最斗がそう言うと、玲奈は桜木学園の食堂を出ていった。
幸哉は溜め息をつくと同時に全身の力を抜いた。
「いつものお前なら協力すると思ったんだけどな」
視線だけを最斗に向け幸哉は再び溜め息をついた。
「クリーチャー討伐なら協力するけど……天使が相手だとな」
「まぁ、いくら俺達が不死身だとは言っても、天使討伐はリスクがあるからな」
「いや、違う。そうじゃなくて……」
幸哉が言いたいことがわからず最斗は首を傾げた。
「お前、何が言いたいんだ?」
幸哉は食堂の天井のガラス張りから見える空を見て、こう言った。
「天使って……美少女なんだよ」
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