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CODE:SECOND/クロスオーバー0

男の能力が尋常じゃなくえぐくなっています。ご注意ください

 私は全力で走った。攻撃など余計なことを考えずにまっしぐらに先住民に突進した。体がぶつかる瞬間に転移を使用し、先住民ごと移動した。

 二人での移動は慣れていなかったため建物の陰に二人でもんどりうって倒れた。自分はこの程度じゃ傷はつかない。問題は先住民だ。勢い余って頭でも打っていないか心配になった。

 だが先住民は私が口を開くより前に話し出した。

 「あんた、大丈夫か?派手に倒れたけど…」

 いきなり話した内容が自分の心配ではなく、ここはどこかと挙動不審になるでもなく他人の心配。

 それも私の。

 一瞬驚いて固まった私にその先住民はさらに近づいてきた。男だった。

 「怪我とかしてない?」

 私は無用に緊張してしまった。別にオリジナルの世界の言語を話せないわけではない。私は…人が苦手なのだ。人間の姿をしたものに対して不思議な緊張感をもってしまう。故に、コミュニケーション力はほぼ皆無。女の人ならまだしも、男の人は…とにかく喋った経験がないのだ。

 緊張する私に男はなおも質問を続ける。

 「やっぱり怪我してるんだね。立てる?」

 目の前に差し出された手を私は何を思ったかそれをはたいて男を押した。

 軽くのつもりだったがそれでも男は目の前の建物のガラスを突き破って吹っ飛んでいった。

 だがそれは結果的に功を為した。

 巨人が男のいた場所にこぶしを突き込んだのだ。それもあと数ミリで私にも直撃する距離。

 私は片手をついて立ち上がると男から巨人を引き離すべく牽制気味にナイフを投げながら走った。次は絶対にとどめを刺す。

 時々後ろを振り返る。私は全力で走っているが巨人との身長差もあってあまり距離は離れていない。それでも男からは十分な距離が取れた。

 もう一度”詠唱”するには隠れる暇はない。

 だから止まってもらうことにした。

 「…十六解体」

 人間の形を模している時点で負けは確定だ。人間の二足歩行はバランスが安定していない。常に不安定な状態で歩いているのだ。足の立地面積が非常に少ないというのも一つの原因でもある。

 要は足のパーツを壊せばしばらくはまともな歩行ができないということだ。

 十六解体はその名の通り解体する。

 私は走るのを止め、後ろに重心を傾けて地面との摩擦でスピードを落としながらブレーキをかけた。

 はいている革のブーツが地面をえぐり、すさまじい勢いで土煙が発生する。

 ある程度スピードが落ちたところで跳躍し、正面にあった建物の壁に垂直に足から着地した。着地の衝撃をひざを深く曲げて緩和。

 そしてばねの要領で折り曲げたひざを伸ばし、爆発的に加速する。

 その途中で転移を使用し、音速にまで近くなった速度でナイフを構える。

 ナイフは大ぶりのものを両手に一本ずつ手に持ち、その刃は黒く揺らめく煙のようなものに覆われている。

 黒い煙の正体は私の保有するエーテル。エーテルを武器にまとわせることで総合的な強化を図ることができるのだ。

 デメリットとしては常にエーテルを流し込まなければならないと言う事と消費が激しいと言う事の二つか。

 コンマ数秒で流し込むエーテルの量を増やし、密度を濃くする。たちまち真黒な二本の剣が出来上がった。

 そして巨人の足とすれ違う瞬間、解体した。

 エーテルで強化された刃はほぼ無抵抗で動いた。

 一瞬のうちに足を解体された巨人は大きくバランスを崩し、前のめりに転倒した。

 十六個に解体されたばらばらの足のパーツと噴出した血が雨のように降り注ぐ。

 フードを被っておいた私にはコートが汚れただけで済んだ。だが数秒後にはシミ一つなくなった。

 「不味いな。なんだこれは」

 私のものではない声がその場に響いた。地の底から響いてくるような威圧感のある声。それは私のコートの裾のところから聞こえていた。長い鎌首をもたげて頭を私の顔のあたりまで持ってくるとフン、と熱い鼻息を吹き出した。

 私のパートナーであり、名前はヴァイスという。見た目はごつい鱗に包まれた蛇のようだがその正体は【ミミックドラゴン】という種族だ。知能が高く、名前の通りに姿かたちを自在に変えることができるがどの個体も決められた元の姿を有している。こうして部分的に元の姿を取ることで私と会話を取ることができるのだ。

 「やっと起きた。ヴァイスが起きてなかったから結構苦労したんですよ?」

 「やれやれ。からといってここまで不味いものを喰わせなくてもよかろう」

 「文句はいいですから。詠唱を手伝ってください」

 ヴァイスが承知、とつぶやくと同時に私のコートから大量に黒い腕が伸びた。それのいずれもが巨人の四肢に絡みつき、地面に突き立って動きを固定する。

 今のうちに私は再び深呼吸し、意識を集中させる。そしてゆっくり目を閉じた。

 「我、ここにあり。世界の意思を汲み取りし者。そして己を【殺人姫】と定める者。世界よ、汝が内に有する力の片鱗、我に与えたまえ。

 ……今こそ開け、世界を糧に我に眠る奥なる真の力、顕現せよ―――――」

 私は目を開いた。

 私の見る世界は全てが朱に染まっている。そして私の目も。

 「辿りついたが故に―――――私は、世界を壊す!!」

 瞬間、視界に異常が発生した。赤い世界が急速に色を失い、その代りにテレビの砂嵐のような現象が散発的に起こる。そしてキーンというようなノイズがすさまじい音量で響き渡る。

 砂嵐が回数を増やし、ぐちゃぐちゃに視界を破壊していく。加えてノイズがこの世の音という音をまとめて乱雑にブレンドしたようなものに変貌する。

 「―――ッあああああぁああぁぁあああッッ!!!」

 痛みという痛みが私の目に集中した。たまらずに私は両目を手で覆った。たちまち手から血があふれ出していく。

 「でも…慣れてる…慣れてるんだ…壊す痛みに私はもう慣れている!」

 私はいまだ痛みを放ち続ける目を見開いた。痛みで頭がおかしくなりそうだ。

 ならおかしくなってしまえ。

 「はは…ははは…あっはっはhっはあははあっはははは!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 



                   混沌の迷路に私は落ちていく


 


 「―――――桜月!起きろ!まだ終わっていない!」

 ヴァイスの声でほぼ反射的に私は体を起こした。

 目を開けるとまず激痛に遭遇した。血が視界を赤くにじませている。だがぼやけた視界のなかに確かにわかる真実が一つだけあった。

 巨人がばらばらにされ、原型を失い、ただの赤い物体になっている光景が四本の足を持つ獣に形を変えていく。

 私は限界を迎える体を無理やりに立たせた。だが、すぐにバランスを崩して倒れこんだ。

 血だまりの中に思いっきり顔をぶつけた。力が入らない…。

 それでも。それでも、コイツを倒しておかないと…

 再び立ち上がる。そしてよろけて倒れた……

 …と思ったが違った。なにかに支えられている。先住民の男だ。

 「……あ」

 「君はゆっくり休んでて。この化け物は僕がやる」

 私を近くの建物の壁に寄り掛かるように座らせるとさっきの男は変形を終えた巨人に向かって歩き出した。

 止めさせるべく私は三度目の正直を試みるがもはや全く力は入らなかった。

 男は巨人、いや、巨獣に向かって左手を突き出した。

 「これでも、人は守れるんだ」

 瞬間、男の腕が肩まで裂けた。断面のすべてが鋭い痛そうなとがった歯に覆われている。そのうでは次々に膨れ上がり巨獣を飲み込まんばかりの大きさにまで成長した。…次の行動予測ができる

 「食らい尽くす」

 腕は巨人を丸ごと喰った。中で猛烈に暴れる巨獣だったがだんだんと形を崩していき、捕食された。

 凄絶な光景に私は驚愕に支配されて言葉を失う。だが脳内ではある結論に達していた。

                 ZEROの能力者。

 数十年前に消滅したはずの存在がいま、目の前にいる。

 自身の中に虚無を持ち、すべての存在はその虚無の前では一切の無力。

 ほぼ無双に近い能力だが定期的に何か巨大なものを捕食しないと生存することができないという欠点を持ち、この男以前の能力者はその点を【遊び人】につかれ、破壊兵器として暴走させられた。

 しばらく禍々しい右腕を男は苦悩するように苦い表情で見つめていたがすぐに元に戻した。

 それから壁に背を預け、体を休めている私に近づいてきた。

 体中が痛くて身動きが取れない私に男は触れ合える距離まで近づいてきていた。

 緊張で心臓が張り裂けそうだ。

 男は人の好さそうな笑みを浮かべて私の顔を覗き込むようにしてしゃがんだ。

 私は思わず目線をそらしてしまう。

 「やっぱり怖いかい、僕が」

 「……(横に首を振る)」

 「えっと…喋れるよね?」

 「…(頷く)」

 「僕は海堂真仁(かいどうしんじ)っていうんだ。君は?」

 いきなり名前を尋ねられて私はドキッとした。というかよく目から血を流してる私に話しかけられると思う。

 そんなことよりも私に向けられる屈託のない笑顔が眩しすぎて直視できず、しかも一体どう名前を答えた方がいいのか全く見当がつかない。

 【狩人】の規則では実名は名乗ってはいけなかったはずだ。なので、私は二つ名を答えることにした。

 「………【殺人姫】」

 非常に小さい声でボソッと言った。男の人の前では声を出すことすら憚られる。

 「さつじんき?…好きにいじっちゃっていい?」

 「…(頷く)」

 「じゃあ、さつきでいいかな?」

 「!?」

 いきなり本名をよばれたせいでひどく動揺してしまった。海堂さんは少々不思議な顔で再び私を覗き込む。

 緊張と動揺で顔は真っ赤になっているんだろう…私。

 「えっと…気に入らなかった?」

 「そんなことないですっ」

 いきなり叫んだのは自分でも理由が不明だった。なんでこんなことをしたんだろうか。

 呆気にとられる海堂さんとしばらく見つめあっていたことに気付いて私はさらに真っ赤になって俯いた。

 ふと、顔に柔らかなくすぐったい感覚を覚え、その正体を見ようと目を動かした。

 海堂さんが私の顔についた血をハンカチで拭ってくれていた。

 たぶん、海堂さんは緊張を和らげようとしてくれたんだろうけどむしろそれは私に対しては逆効果であってもう、なにがなんだかわからなくなった私は何故か泣いてしまった。

 びっくりしたように海堂さんは私から離れた。

 嫌な、沈黙の中、私の泣き声だけがする。

 その時だった。はっきりと意思の強さが伝わる高い、澄んだ声が聞こえた。まるでメイドのような衣装を着た金髪の少女。

 「桜月ちゃんから離れろ【遊び人】!」

 その声と同時に空中に石のようなものが投げられ、それが青い稲妻のような光を放った直後、海堂の周囲を一発食らえば即死しそうな槍が囲んだ。そしてその槍すべてが海堂めがけて突き進む!

 「えっうわあっ!?」

 「違う!」

 寸前で軋んで痛みを上げる体を無理やり動かし、その槍をヴァイスの力も借りて、弾き、破壊し、受け止めた。

 「莉愛さん…この人は…ちゃ、んとした…人間…です」

 「放つ魔輝は人間のものじゃないよ。それは【遊び人】だよ!」

 「…違う!この人は…私を…助け……てくれ…た…」

 それだけ言うのが限界だった。

 私は意識を吹っ飛ばしながら地面に倒れこんだ。

 

 

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