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CODE:FIRST/戦うもの

 予想外のグロさになっています。ご注意ください。これが苦手な人は即スルーでお願いします

 すべての基本となる世界。つまり、オリジナルの世界には数多くの訪問者がやってくる。ただ普通に存在するだけなら別に私たちは気にしない。問題は世界の容量を狭めようとしている奴らだ。

 奴らの行動は世界ごとに変わってくる。オリジナルの世界で言えば怪現象、霊体験がそうだ。

 大抵が夜中に起こっているとされるが平気で昼間にも起こる。おかげさまで私が昼寝の時間に叩き起こされる始末だ。あくびがでた。

 「ふぁあ~……あ、ねむ~」

 《おい、夜伽。気を抜くな》

 「あ、はーい」

 今、私の右耳につけられているインカムから威厳のある低めの女の人の声が聞こえてきた。私の上司である柳田さんだ。私は軽く返事をして着ている黒の強い青の革コートのポケットに口元を抑えた右手を戻した。

 夜伽というのが私の名字で正しくは夜伽桜月(よとぎさつき)という。

 あれだね。DQNネームだ。だが私としてはそれなりに気に入っている名前でもある。なんというか、そう、響きがいい。まあ、いまはそんなことを考えている時じゃないか。

 現在、私の住んでいる町のとある一画に【遊び人(プレイヤー)】が出現したという知らせが出ている。【遊び人(プレイヤー)】っていうのはその名の通り、遊び気分で世界を壊す訪問者のことを指す。ちなみに私もこのオリジナルの世界の住人ではない。訪問者の一人であり、【遊び人(プレイヤー)】を殲滅するための組織に属する【狩人(ハンター)】の一員でもある。

 【狩人(ハンター)】とは渡った先の世界で先住民に危害を加えたり、世界の容量を狭めたりするような訪問者を抹殺する存在を言う。

 なぜ存在という語を使うのかは【狩人(ハンター)】が必ずしも人間とは限らないからだ。

 世界は無限に存在する。そこで主導権を握る存在が絶対に人間とはだれも決めてはいない。たまにそのままの姿ではまともに生活できないような奴らもいるがそういうのは人間に化けている。

 一応私も人間だ。普段は町に住むごく一般の善良な市民。そして裏の顔ではこうして世界の崩壊を防いでいる。

 やがて私は歩き続けるのをやめた。到着したからだ。

 【遊び人(プレイヤー)】が起こす事件は一つだけ決まり事がある。

 それはいずれも【遊び人(プレイヤー)】の性格、趣味を反映しているのだ。そしてそれは先住民に認識されることなく異常を湛えたままそこに存在し続ける。それが世界の容量の縮小につながってしまうのだ。具体的にはその異常空間を発見した先住民が中に侵入することで異常を知覚し、死亡する。するとその人間と関係者と異常空間がごっそりと消える。なかったことになるのだ。だがそれは世界の容量も同時に減らしてしまうことになる。異常空間の占める世界の容量は非常に大きいのだ。

 私たち【狩人(ハンター)】はその異常空間を別世界として隔離し、異常を取り除くことで元の世界に返還する。

 だがこの作業に移る際、多くのパターンでは【遊び人(プレイヤー)】がこの返還作業の妨害をしてくる。自分の遊びを邪魔されたくないわけだ。

 私は十字路に立ったままあたりを見回す。何の音も聞こえない。誰もいない。閑散としすぎている。聞こえるのは私自身の呼吸音だけ。

 どう見たって商店街のはずなのに人はいない。錆びてほぼ朽ち果てている看板はとても読めたものではなく、それ以前に商店街全体から異臭がする。

 ここはすでに異界だ。隔離はもう他のメンバーがやってくれたのだろう。

 私はゆっくりと異界の商店街を歩き始めた。道路は雨が降りでもしたのか濡れている。しかも錆びは道路にまでこびりついていた。

 やがて限りなく続くと思われた道に何かが転がっているのを私は見つけた。

 私だった。

 「…………」

 実にそっくりにできているそれは不自然なカクカクした動きで立ち上がった。

 刃物のような銀髪に青い瞳。多少目つきこそ悪いものの美少女と言っていいほど整った容姿。

 それがたちまち目の前で腐っていく。黒く変色した肉が落下し、異臭を放つ。顔など目玉が取れて骨に見える面積が増えていく。

 くだらない嫌がらせを私は思いっきり蹴った。

 十二分にためた威力の高い前蹴り。

 一瞬で彼方に吹っ飛び地面に激突し、二転、三転と転がって停止した。

 それが合図になったかのようにあちこちから腐乱死体の群れがぞろぞろと湧いて出てきた。今度は音声付きだ。みんなけらけら笑っている。笑いながら腐りつつ私に接近する。

 もう一つ【狩人(ハンター)】について説明することがあった。私たちはみんな必ず一つは特技や特殊能力をもっている。

 私の奴なんかはかなり特殊な部類に入るのではないだろうか。

 私はコートに沈み込むようにして私に殺到する腐乱死体の突撃から消えた。そしてその上空からコートから浮かび出るように出現し、手元から大量のナイフを繰り出した。ナイフは一様に回転し、その切っ先を次々に腐乱死体に埋めていく。そして埋まったそばから再び回転し、中身を破壊する。

 私の能力とは空間をいじる。それだけ。ただいろいろと使い勝手がいいのだ。今みたいに短距離だがワープできたり、私の空間内にあるものは外に出しても自在に操ることができたり。ナイフに変幻自在、複雑怪奇な軌道を取らせることだって可能だ。

 私が着地するころには腐乱死体はほとんどが腐った肉塊に姿を変えていた。まるで何日も放置した処刑場のようなありさまだ。

 私は右耳に装着されているインカムに片手をあてて連絡をする。

 「もしもし。夜伽ですけど」

 『聞こえている。そっちはどうだ?』

 「雑魚をあらかた片づけたところです。【遊び人(プレイヤー)】の姿が見えないのが気がかりだけど」

 『そうか。これは、注意なんだが……後ろでなんか起きてるぞ』

 私は後ろを振り返った。世にもおぞましい光景が私の少し先で展開していた。さっきの腐乱死体の肉塊がぞろぞろと溶けて集まり、一つのスライム上の何かに急速に形成しつつあった。そしてそのスライムは腐乱死体をそのまま巨大化させたような巨人に姿を変えた。

 相変わらず腐敗は止まっておらず、スイカ大の大きさの黒ずんだ血や肉塊が落下している。巨人は落ちくぼんだ眼窩で私を見下ろした。

 「でかくなったから……なに?」

 私のやることは変わらない。何度よみがえろうとも殺す。私は握りこぶしの親指を除く指と指の間にナイフを三本はさんだ。左手も同じ。私の独特のナイフの持ち方だ。そのままゆっくりと歩を進める。

 巨人は緩慢な動作で足を上げると私をつぶそうとそのまま地面にたたきつける。

 その前に私は再び転移を使った。巨人から離れた場所に移動し、助走をつけて転移を使う。

 「……斬り裂きジャック」

 自身を転移の黒い空間に沈める。

 次の場所に移動するまでのわずかな時間の間に思考する。

 かつてオリジナルの世界で数々の人間を惨殺してきた殺人鬼。

 人々は彼に恐怖と畏怖を覚え、こう名前をつけた。

 切り裂きジャック、と。

 殺人鬼は殺す獲物を選ばない。その道理にしたがってこの技は単純に切り刻むだけ。

 だが、だれも私を捕まえることはできない。

 かつてのジャックが行方不明になったのと同じように。

 高速で転移を連続使用し、神出鬼没のごとく短時間だけ姿をさらし、切り刻んではまた消える。

 それが私の技、斬り裂きジャック。

 手始めに巨人のアキレス腱を切り裂いた。そしてコンマ何秒にも満たないわずかな時間で巨人の小指を切断する。

 はたから見れば黒い円形の物体が現れると同時に巨人の体のどこかの部位が傷つけられているように見えるだろう。

 頃合いを図って私は斬り裂きジャックを止め、近くの建物の屋根に着地した。

 巨人には無数の傷跡こそ残っているものの、いずれもが致命傷に至っていない。

 大型の敵にはやはり効果が薄かったようだ。

 巨人はその傷など無視するかのように建物に向かって薙ぎ払うように腕を振った。

 屋根瓦がはね飛んでいくその波に私は突っ込んでいった。

 私の使う転移といえども使い放題ではない。転移を使用するのに私のなかのエーテルというものを消費するのだ。簡単に言えば自動車でいう燃料のようなものである。しばらく能力の使用を止めればまた戻ってくる。なくなっても別に動けなくなるわけではない。こうした特殊能力が使えなくなるのだ。オリジナルの世界の先住民にはこのエーテルというのは存在していない。

 だが、私にはもう一つ恵まれたことがある。人間ではあるがオリジナルの世界の人間ではない。私はその数ある世界のうちで身体能力が異常に高い世界の人間である。

 大量のほこりやチリの舞う視界の中、カンでジャンプして巨人の腕に降り立つ。ほぼ同時にナイフを巨人の腕に突き立て、加速による風圧とGを耐える。

 動きが止まった瞬間を全力で駆け上がる。踏んだ場所は嫌な音を上げて腐っていく。巨人が再び動き出す前にその顔面に到達した。私は両手に握っていたナイフを目くらまし代わりに投げる。それらは目に命中し、視界を奪うことに成功した。だがそれは一時的なものだ。

 常に腐っているといことは代謝が高いということの証明である。つまり、傷の治るスピードが速いということ。

 大きく暴れだした巨人の腕を跳んで離れる。

 私は空中に黒くぽっかりあいた私の空間から一本の幅広の剣を取り出した。全長は優に私の身長を超えている。私はその大剣を振りかざし、落下の速度も加えた渾身の一撃を巨人に叩き込んだ。

 腕に重い衝撃が走り、全身にまで広がる。

 だが大剣は巨人の首の半ばまで到達していた。どす黒い血がたちまち傷口から吹き出す。その頃にはもうすでに私のエーテルはある程度戻ってきていた。

 大剣に片手でぶら下がる私に巨人の手が迫ってくる。捕まったら握りつぶされて即死だ。

 私は大剣を放棄して片腕の力だけで体を高く中に舞い上がらせる。宙返りを打ちながら体の前面に展開した黒い空間からナイフの奔流を放った。

 音速にも達したナイフは根元まで巨人に埋まるか、深くまで貫通する。

 普通の生物ならこれだけで絶命してもおかしくはないのだが相手は動く腐った巨大な死体だ。効果はさして高くはない。

 三回ほど宙返りを終えて再び手ごろな建物の屋根に降り立った。

 私の貧弱な攻撃力ではこの敵には大した脅威になっていない。だがそれはナイフと身体能力のみに頼ったものだ。まだ切り札はある。

 数回転移を使い、巨人から距離をとる。これは時間がかかるのだ。

 深く深呼吸し意識を整える。私は目を閉じた。冷静に、静かにその言葉をつぶやく。

 「我、ここにあり。世界の意思をくみ取りし者」

 自分とこの世界に一つのつながりが生まれた。

 「そして己を【殺人姫】と定めし者」

 私に与えられた【狩人(ハンター)】としての二つ名。

 「汝が内に有する力の片鱗、我に与えたまえ」

 つながりを通して確かに感じることのできる力の息吹が全身駆け巡る。

 「今こそ、開け。世界を糧に我に眠る奥なる真の力、顕現せよ――――」

 目を見開いたとき、私は一瞬にして集中力を霧散させてしまった。巨人の動きが明らかに私を狙ったものではなかったからだ。巨人は地面にいるもう一人の人物を見ていた。

 とたんに体に満ちていた力が消えた。まだ詠唱は終わってはいない。つながりもすべてが崩れてしまった。

 私は走り出した。

 今は敵を倒す時間ではなく迷い込んだ先住民を助けなくては。

 

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