第8話 春の独り言
「俺が手伝ってやる」
やさしい男。
強い男。
頼り甲斐がある男。
かっこいい男。
男の中の男。
涙ちょちょ切れる男・・・。
この台詞だけ聞くと、僕は木村拓哉よりも、
ブラットピッとよりも、妻夫木聡よりもカッコよく見える。
世の中の女性の理想の男なのではないだろうか?
僕が、女ならば秒殺だろう。
こんなこといわれたら、胸きゅんだろう。
秋葉原系の言語で言えば、萌。
とにかく、こんな言葉を僕は口走ってしまった。
しかも、あゆの前で。
思春期のブレーキはいつのまにかアクセルに変わり、べた踏み状態だ。
勢いとは脅威だ。
勢いで口走るのは簡単なこと。
それからが問題。
何が問題かって?
すみません、考えなしで口走りました。
あったのは、勢いだけ。
先のことなんて、考えてませんでした。
でも、ま、予定は未定っていうし。
結果オーライってこともよくあるでしょ。
ほら、今まで上手に生きてきたように、これからだって何とかなるっしょ。
人生ケセラセラって、映画とかで言ってたじゃん。
大丈夫、大丈夫。
何とかなるって。
と、僕の中の悪魔はニヤニヤと笑いながら僕に言い聞かせた。
あゆと、件の男の関係改善のために勢いで協力協定を自ら申し込んでしまった僕は、
すでに、中間テストを3日後に控えていた。
あの日以来、僕はどう対処すればいいのかを暇があれば考えているような気がする。
そのくせ、何も思いつかない。
良い考えが思いつかない。
同じところで、話はくるくると回っている。
考えすぎて、少し混乱してきているのも確かだ。
話を冷静になって、整理してみよう。
あゆは、女友達の友達である男(武雄先輩というらしい)を紹介された。
先輩は、あゆに人目ぼれした(推測)
先輩は、あゆに猛プッシュをかけた。(事実)
あゆは、意味もわからずそれにそれなりに対応した。(これがそもそもの原因)
先輩は、恋のどぶに落ちる。(合掌)
二人で遊びに行って、先輩は確信を(勝手)に得て、問題発言をしてしまう。(仕方ないと思う)
ようやくあゆが事の重大さに気がつく。(鈍いんだな、これが)
あゆの拒否に、先輩納得いかず。(再・仕方ないと思う)
あゆ、パニック。(再・合掌)
それで、これからどうするのか・・・・?
正直、どうにかしろって言われても道は二つしかない。
ひとつは、あゆが正直に先輩に話をして理解をしてもらうこと。
もうひとつは、あゆがとりあえず先輩と付き合ってみること。
シカトと言う手もあるけれど、あゆはこんなことはできないだろう。
あゆの両親がすごい勢いで痛んで、あゆはずっと自分を責めつづけるだろう。
僕が、問題発言をした日に、僕は、とりあえずあゆにその二つの選択肢を僕は提案してみた。
僕は、すぐに、答えを出しては先輩にも失礼だと思ったから、次に会ったときにあゆの選んだ答えを
聞くことにして、僕はあゆの家を後にした。
正直に言うと、あゆが即答で前者を選んでくれたらいいなぁと思っていたけれど、もしも後者の答えが返ってきたらと思ってしまって、恐くて聞けなかったんだ。
情けない。
どうせ、甲斐性なしですから。
残念。
このフレーズ、簡単だけど良く考えたものですね。
英単語張をぼんやりと眺めながら僕は、またため息をついてしまった。
「どう対処するか?」
これは、あゆの件に関してどう動くべきかではなくて、あゆがどんな答えを出すかに対しての
僕の悩み所だった。
手伝うっていったくせに、大方自分のことばかり考えてしまっている。
こんなことになるなら、慰めて終わりにしとくか、泣いているあゆをほっといて部屋を出れば良かったんだ。
変な形の後悔。
こんなことばかり考えていたものだから、僕の頭には集中力という単語は消滅してしまっていた。
この夜が明けたら、後二日でテストは始まってしまうのに。
やばい。
緊急事態なのです。
こればっかしは、アンパンマンも助けてくれないだろうし。
もう一度ため息をついて、気分転換に台所に行って冷蔵庫をあけた。
何か冷たいものをぐいっと飲んで、頭をスカッとしたい気分だったから。
そうでもしないと、僕の頭の中はあゆだらけだ。
父親がいつも飲んでいる、栄養ドリンクを一気飲みしてもう一度机に向かおう。
学生なんですから。
学業が本文なんですから。
そう思いながら、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出した。
それと同時に、電話のベルが鳴る。
まるで、電車の出発時刻を伝えるベルのように。
そうだ、これは勉強を再出発するためのベルだ!!
なにごとも、ポジティブティンキングだ!!
そう思い、勢い良くビンの蓋を開け、
「ファイト、一発!!」
と心の中で叫び一気飲みをする。
そんな僕を電話を取った母は呼んだ。
「春、あゆちゃんからよ!!」
ファイト一発!!
頑張れ、若造!!
遅れました!!
もうすぐ四月。いかがお過ごしですか?
相変わらず、花粉症は私に容赦なんかしてくれません。
今回は、春の独り言です。
ばかだなぁと思いながら読んであげてください!!