第六話 初夏の出来事
5月のゴールデンウィークまでは、本当に時間があっという間に過ぎていった。
別に、大きな出来事があったわけではないけれど、あえて言うならば、初めてのコトが多すぎた。一つ一つの出来事を追うだけで精一杯だったんだ。
気が付いた頃には、僕らの目の前には高校生になって初めての難関、中間テストが手を振って待っていた。もちろん、高校のテストには赤点というボーダーラインが用意されている。それを超えれば、地獄がニコニコしながら僕のコトを待っていてくれるだろう。
そんな歓迎を受けたくない一身で、今僕は学校の図書館で勉強をしている。
家に帰ると、漫画を読んだりテレビを見たりしなければならなくなるからだ。
しなきゃいいのに、なんて言われても、体が自然とそうしてしまうから。
自然の摂理だ。
だから、こうして家に帰らずに学校の図書館で勉強をすることにした。
真も、それに便乗して隣でやっている。
「春、これはどう解く?」
数学の問題を真が質問する。
「あ〜っと・・・・」
問題を見ると、僕は固まった。
「わかんないのかよ」
さすがは幼馴染。
すぐに察してくれる。
「ここの証明の意味がわかんないんだよな」
「そうそう、何でここを証明しなきゃいけないのかがわかんないんだよ」
「ってか、こんなの絶対俺の人生の中で使われないし」
「だよ。だれが、こんな円の中の多角形の辺の長さなんて証明しろなんていう?」
「いわない、いわない。こんなの作ったやつ、相当な暇人だ」
「暇人は困るよな。こんなこと発見して。将来の人間のこと考えてこんなこと考えたのか、目の前にいたらといただしてやりたいよ」
証明ひとつで、こんな憤りを感じれる僕らは若い。
この後、この証明ひとつのコトを30分討論した。
答えではなく、自分の人生でこんな証明を一体いつ使うのかという討論をした。
結局、答えは出なかった。
結論は、今日の晩、僕があゆの家に行ってあゆに教えてもらうということ。
あゆは、計算は苦手だけど、証明はなぜか得意だった。
実は、高校生活が始まって、僕らは以前より顔をあわせる機会がぐんと減った。
僕は、このごろ、急に、なんとなくあゆに会いたい気持ちになる。
学校の先生に聞くのが一番だろうけれど、あゆに会って教えてもらうほうが、
僕の中で一石二鳥(あゆに会える、問題が解ける)が成立する。
恥ずかしいけれど、要するに思春期になって要もないのにあゆの家に行くのがかっこ悪く思えてきた。
これを口実に、あゆに会える。
僕は、心の中でガッツポーズをした。
学校を出たのは時計の針が七時を指そうとしていた時だった。
ふと、空を見上げる。
空は、黒と濃い青のちょうど境目色に染まり、その色の効果で真っ白の雲がより一層立体感を増して見える。
日に日に、夜になるのが遅くなっている。
七時近くになっても、空が真っ黒に染まらない。
夏が近づいている証拠だ。
「帰ろ、春」
真は、ぼんやり空を眺めていた僕にそういうと、僕よりちょっと前を歩き始めた。
「真はさぁ、もうすぐインターハイの予選があるだろ?」
駅に着くと、ちょうど電車が止まっていたから駆け足で僕らは乗り込んだ。
車内は、がらんとしていてほぼ貸しきり状態だった。
僕らは座席に座り、話を始めた。
「一年は、荷物もちだから、あんまり関係ないかも」
「でも、真はレギュラーなんだろ?」
「一応。でも、うちの部活上下関係厳しいから、まず出られないだろなぁ」
「夏まで、予選会続くもんなぁ〜。ビーチバレーは、夏の大会でるだろ?」
「あぁ。あっちは出る、出る。春も、今年も出るんだろ?ダンスの大会」
「もちろん」
そうなのだ。
毎年、夏になるとダンスの全日本選手権がある。
去年は、全国大会の一歩前で負けた。
完全に、周りのパフォーマンスのレベルが上だった。
かなり悔しくて、会場のトイレで一時間泣いた。
帰りの電車で、目が腫れて恥ずかしい思いもした。
最悪だった。
だから、今年の大会には、思い入れが強かった。
今年の目標は、全国大会出場の切符を手にすること。
これは絶対。
そのために、この一年間頑張ってきたのも事実だ。
体作りも基本的なところから頑張った。
去年の大会ではもうひとつ苦い思いをした。
泣いて腫れた顔を、あゆに見られて、それだけでも恥ずかしいのに、その上あゆが僕の顔を見てもらいなきしたのだ。
せっかく見に来てくれたのに、そんな思いをさせて切なかったし申し訳なかった。
自分のためにも、あゆのためにも、今年負けるわけにはいかない。
男、藤井春、一世一代の戦なのだ!!(ちょっと言いすぎ)
「今年の夏は、熱いぜ」
「おう、熱いぜ!! 」
がらんとした車内で、僕らは夏を思い心が熱く燃え上がった。
「熱いぜぇぇ!!!」
それこそ、僕らは元気な若馬に乗り高原を走っているような気分になった。
真が調子に乗って、急に立ち上がった瞬間に、真のかばんが座席から落ち、中身があふれた。
かばんの中からは、例の数学の教科書が顔を出した。
僕らはそれを見て現実に戻った。
それこそ、僕らは若馬に乗っている途中でバランスを崩し落馬した気分になった。
夏の戦に行く前に、僕らは初夏の戦・中間テストに挑まなければならないようだった。
真は、散らばったかばんの中身をかばんの中にしょんぼりとしながら入れ、僕はため息をついた。
そうこうしているうちに、駅に着く。
日は、いつの間にか暮れていた。
駅の改札を出て、僕らは別れた。
家に帰る途中、僕はあゆの家に寄った。
よくよく考えると、ゴールデンウィークに町内でバーベキュー大会をしてから、ずっとあゆに会っていない。
ダンス教室の練習の時間もずれたし、日曜日の朝の練習は、高校に入って隣町の知り合いのスタジオで練習をするようになったからなくなってしまった。
電車の時間も違うし、下校の時間も違う。
約二週間ぶりにあゆに会える。
正直、どきどきもある。
あゆの家は、僕の家の近くで、僕の家が山側とするならば、あゆの家は海側にある。
海岸沿いの二車線の道路を歩いていくと、日本家屋の立派な平屋がある。
そこが、あゆの家だ。
家の門をくぐり、インターホンを鳴らす。
はぁ〜い!と聞きなれた、あゆの母親の声が玄関まで響く。
いつも、こんな感じだ。
玄関を開けると、あばさんはパタパタと台所からひょこっと顔を出す。
「こんばんは、おばちゃん、あゆは?」
「あら、春ちゃん。あゆ、上にいるよ〜」
僕だとわかったおばさんは、どうぞ〜と大きな声で叫びまた調理にもどった。
僕は、靴を脱ぎ家の一番西側にあるあゆの部屋へ向かう。
あゆの部屋の前に来ると、部屋の中からあゆの声がしている。
どうやらあゆは電話をしているようだった。
「あゆ、入るよ」
僕は、いつもどおりあゆの部屋のドアを開けた。
そこで、僕は思わぬ言葉を聞いてしまうことになる。
「だから、先輩のコト何も知らないのにお付き合いなんて出来ないんです!! 」
あゆは、電話の相手に困った顔をしながら、確かにそういっていた。
(お付き合い・・・・って・・・・・)
僕が、あゆを見る。
あゆは、僕に気がつくと急に顔を真っ赤にして、ぼとっと携帯電話を落とした。
「春ちゃん・・・・・・」
見る見るあゆの顔は真っ赤になっていく。
初夏の戦は、中間テストを目前にフライング気味で火蓋を切った。
お久しぶりです。
最近更新が遅くてすみません!!!
許して!!!
さてさて、6話目です。
いかがでしたか??
チョコチョコと春があゆに思いを寄せてまいりましたが、ちょっとした最初の山を駆け上ることになります。
二人と一緒にどきどきしてください。
毎回毎回、アクセスありがとうございます。
とっても嬉しいです。
更新していないときにも、毎日アクセスがあって、本当にありがたいの一言です。
もうすこし、ペースアップして頑張りたいと思うのでこれからも、よろしくお願いします。
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まってます!!
では、7話でお会い出来ることを祈ってます!!