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百年桜町奇譚  作者: 桜月黎
Class1『ドッペルゲンガー』
3/22

Sub 1( 双子 ) ~2~

~2~までSub1をまとめたかったけれど、うまくいきませんでした。

   ***



「巳祷ちゃんの双子の姉、架折です。よろしく」

 他の面子もすぐ来るとのことなので、わざわざ先に箸を進めることはせず、適当な席に腰を下ろしてしばしおしゃべりタイムの相成ったわけだが、さらりと発した架折さんの自己紹介は、見た目が第一印象ならば納得もいっただろうが、事前情報的には甚だ予想外だった。

 一学年上の姉だと聞いていたのだ。それがまさか双子の姉だと誰が予想できようか。

 それとも私の記憶違いだろうか。

「ううん、あってるよ」

 己の記憶にかけた嫌疑は速やかに巳祷さんが解除してくれた。

 しかし、じゃぁどういう事に。

 ……ここで巳祷さんが病気か何かで留年した、なんて話が出てきたら気まずいが。

「誕生日」

 事実はそう複雑でもなかった。

「架折ちゃん四月一日、あたし四月二日」

 架折さんと自分を交互に指差して言う巳祷さん。

 だからなんだと一瞬眉をひそめそうになったが、少し考えてみて一つの可能性に思い至った。

 双子と言っても、全く同時に母親の胎内から産まれ落ちるわけではない。

 だからこそ双子でも兄弟姉妹の概念が発生するのだ。要するに彼女たちは産まれるタイミングが丁度日を跨ぐ前後だったのだろう。さらにそれが学年分けのボーダーラインも跨いでしまったという珍しい例なわけだ。


 学年の境目というと安直に三月三十一日と四月一日なイメージがあるが、実際には彼女たちを見てもわかるとおり、四月一日生まれの子供までが『早生まれ』という扱いになるらしい。

 一日の内どのタイミングで年齢が上がるのかということに関する解釈云々の問題でこういうことになっているらしい……というのはどこかで聞いたことがある。が、まさかその実例のファーストケースが双子というのは、いったいどれだけのレアケースだろう。


「数時間や数日差産まれならまだしも、日を跨ぐ前後くらいなら大抵医者が配慮してどっちかに誕生日をあわせちゃうもんなんだけどねぇ」

 とイオは一人ごちていたが、まぁ色んな家庭があるという事だろう。

 それに、例えば彼女らのご両親がイオのような性格だったならば、或いはキッチリと産まれた日付を誤魔化すことを拒否したとしてもなんら不思議ではない。

 小さな疑問を解消し、改めて二人を眺める。


 よくよく眺めてみたり、多少話してみればその立ち居振る舞いや醸し出す雰囲気から、違いは大よそ判別できるようになったが、先ほどは勝手な動揺で冷静さを欠いていたという点を除いても、その容姿の相似っぷりは完全に初見殺しと言える。

 双子なんていうと多くの場合、意図的に何らかの違いをもって他人に互いの区別をしやすくする傾向がある……というイメージがある。

 服装の色が補色関係であったりとか、髪型など目に付く部分を対照的にしていたり、とかだ。

 特に巳祷さんは、髪を左側に束ねるというアシンメトリーの髪形をしている。ならばその双子の姉妹は右側で束ねるという対象性を持っていてもよさそうではないか。

 ところが、だ。

 巳祷さん、架折さん、ともに全く同じ位置で髪を束ねている。肌にもホクロなどの特徴的な部分は見えないし、我が校の制服は学年で区別された色などは上履きくらいにしか用意されていない。つまり、足元を見ないと殆ど違いが無いのである。

 こうして並ばれると、失礼ながら少しばかり不気味なくらい、全く同じ姿かたちだった。


「で、二人はどういう関係なの?」


 ………………。

 なんだその『気になる男の子が見知らぬ女友達を連れてきた』みたいな状況で使われそうな質問文は。一周まわって逆に答えにくいよ。

 クラスメイトという関係性は最初に提示してしまったのでそれ以上の補足を入れろということになるわけだが、特に何もないので特に言うことがない。だって初めて会話らしい会話下の今朝だよ?

 さてどうしたものかな。

 ──と、間の持たせ方に悩みかけたところで背後で扉の開く音がする。


「──あら? そちらはどっちかのお友達かな?」

「……女」

「やぁ、ごめんね、待たせちゃったかな」


 女女男の順で声が三つ。

 さすがにここで無反応を決め込むのは礼を失するだろう、という義務感から私は振り向いた。


 ──そして絶句した。


 ……言い訳をさせて欲しい。

 例えばの話をしよう。

 自分は何の地位も名声もコネもない一般人、ある日いつものように予算五百円以内のコンビニプレゼンツな昼食を取っていると、突然部屋に国のトップたる総理大臣が入室してきたら、どんな反応をする? 何事もなくにこやかにあいさつを交わして事なきを得ることができる人間が果たしてどれだけいるだろうか。


 今の私の状況は、だいたいそんなかんじである。

 何を大げさなと言わないでいただきたい。

 なにせ、今私の視界にはそんな喩えを出しても差し支えない人物が写っているのだから。

 私からこんな評価を受ける人間は、はっきり言うが相当なもんである。

 こういうとまるで自分が大物なんだぞ、と恥ずかしい自称をしているように聞こえかねないから弁明しておくけれど、全くそういう意味でなく単に私があまり他人に興味のない性格をしているという意味だ。 平日ならばほぼ毎日同じ部屋に居合わせるクラスメイトというカテゴリの人たちでさえ、丸一年かけて半分でも名を覚えられれば上出来だというレベルの私が、一目見て絶句する面子なのである。

「さほど待ってないよ。そちらは巳祷のクラスメイトだってさ」

「へぇ、そっか。巳祷ちゃんが友達連れて来るのはめずらしいね。僕は行方なめかたすすむ、よろしく」

 そう言ってくるのは最後に入って来た唯一の男子生徒だ。私は適当に会釈して応える。

 そうだなぁ。

 必要もないがあえて勿体をつけて、知名度の低い順にご紹介しようか。

 丁度最初に声をかけてきたし。


 彼の名は、今自己紹介された通り──されなくても知っていたが。

 簡単な字で構成されているのにやたら読み方が捻っていることで有名…………というわけではもちろんない。

 今現れた三人の中では、彼は唯一スペック的にはおおよそ平凡な人間である。特筆するほどの秀でた能力があるわけでもなく、大きな功績を遺したわけでもなく、良家の子息というわけでもない。

 容姿的には……主観でしか語れないが、目を見張るほど整ってもいないし、かといって別に醜くもない。多少大人びた顔だちをしているようなので少年というよりは清潔感のある地味目の青年と言ったところか。

 なら何が彼の名声を担っているのかというと、大きくは二つ。

 一つは残り二人の内の一方の恋人であるという、虎の威を借るような知名度。

 そしてもう一つが、これはもう少なくとも私から言わせれば悪評にしか聞こえないのだが『常に三人以上の女性に囲まれている』という、根も葉もある噂にある。

 大げさな揶揄のこもった噂にしか聞こえないが、この話がおおよそ事実であるから恐ろしい。故意に引き離すなどしない限り、本当に目撃されるときは同じ空間に女性が最低三人以上いるのだそうだ。

 話を聞いた時こそは何の都市伝説だと、私は失笑したものだ。……が、私がこの学園へ来てから今日今この時を含めなければ彼を目撃したことがあるのは二度ほど。そのどちらも時も確かに彼は複数女性を連れていた。

 現に今も、周囲には女性が四人──しまった、私を入れたら五人だ。いやいや、私はノーカンだから。

 噂からくるイメージとは裏腹に、見た目は平凡だが誠実そうな好青年風であり、しゃべり方も丁寧でさほど不快感は感じられない。──と、言いたいところだったが、こうして真っ先に見知らぬ女たる私に声をかけてくるあたり、天然か自覚的にか、それなりのスケコマシ能力は有しているようだ。


 無愛想な返事を返した私にも嫌な顔一つせずテクテクと近づいてきた行方一は、まるでさも当然のように私の隣の席に………………おい、寄るな。


「……ふんっ!」

「おぶぁ!?」


 と、私が内心多大なる不快感を抱いているところに、まるでその心を聞き届けてくれたような助けが入る。座る寸前だった行方一は背中を強打されて床に倒れ伏した。

「……霊界堂れいかいどう神無かんなです」

 見事な肘鉄によって一人の人間の意識を刈り取った直後とは思えぬ優雅さで綺麗に腰を折って、やたら丁寧に自己紹介してきた彼女こそ、今床にのびている行方一の恋人さんである。

 今の力加減はとてもじゃないが彼氏に対して放つ類のモノではなく、むしろ仇に対するようなソレだった気もしたが、私としては助かったので是非もない。


 前述通り、私は彼女の事も流布されている情報レベルで聞き知っている。

 読み間違いは起きにくいがやたらと大仰で珍しい名を持つことで有名…………というわけではもちろんない。

 大げさな苗字とみるとイメージとしてはなんだが由緒正しき家柄なのかと思われそうだが、彼女は事実、良家のご令嬢である。

 ここ百年桜学園を擁する百年桜市には、所謂大富豪と表現するのに不足のない大家がなぜだか──これには結構重要な意味があるらしいが、この時の私はもちろん知らない──結構多いのだが、その中でも霊界堂家と言えば総合的に見れば上位三本指、財力で見ればなんとまぁ頭一つ抜きんでた第一位である。

 市内に存在する建物や道路、交通機関などあらゆる設備の内、実にその半分は霊界堂家のお金で造られたものだというんだから、全く想像を絶する。

 そんな超大金持ちの家の一人娘だというのだから注目されるなという方が無理な話だが、さらに彼女は学年次席というこれまた目立つ成績を入学以来キープしている才女でもある。

 これで墨を流したような艶めく黒髪を持つ美しい和人形的容姿を持つのだから、いっそうギャグめいてすらいる。天は二物を与えないなんて格言は、彼女を前にしては性質の悪いジョークにしかならない。

 その上、そういった自分の持つでっかいカードをチラつかせて嵩にかけるでもなく、良好な人間関係を構築している人格者らしい……という話だったが、それは私を見たときの第一声と目の前で繰り広げられた暴虐を前にして今まさにジョークと化した。


 意識の無い人間の身体は重いなんて話を聞いたことがあるが、表面上特に苦も無く床との浮気に忙しい己が恋人を片手で引っ張り起こし、そのまま引きずって私からちょっと離れた席に座らせ、自分はその間に腰を落ち着けた霊界堂神無の所業を一部始終、唖然としたまま眺めていた私は、隣の席に──先ほど行方一が座ろうとした場所だ──に人が座る気配を感じて我に返り、視線を向けた。

 消去法的に、そこに誰が居るかはわかっていたので動揺を見せないよう気を張るくらいの余裕はあった。……つもりだったのだけれど、私はどうやらあまり平常心的な顔を作れていなかったらしい。

「ふふっ、ごめんね驚かせて。あの二人はいつもあんな感じだから気にしないで良いからね」

 迷わず是とするには少々難しい要求だったが、とりあえず肯定と解釈できるだろう程度の生返事を返すことはできた。

「知ってるかもしれないけど、さかき識視しきみよ。よろしくね」

 言って右手をそっと差し出してくる。

 人見知りの国日本で、自己紹介に握手を求めてくる人なんて早々お目にかからないのでさすがに戸惑ったが、無視するのは失礼だろうと思うくらいの礼儀は持ち合わせていた私はおずおずと手を出し返しつつ一応こちらも名乗る。

 絹でも掴んだかのように心地よい手触りと人肌らしい温もりに触れて思わずドキっとしたのは別に私に変な方向性の性質があるからではない。

 ……単に人に触れる、或いは触れられる機会という事が、久しぶりだったからというだけだ。


 榊識視。

 ついにこの場における最強の大物をご紹介しよう。


 天才、という言葉はこの人には相応しくないだろう。

 今や安易な敬称として使い古され過ぎたこの言葉でくくれるほどの人物では、断じてない。

 あえて一単語を使って表現することにこだわるなら、そう『神童』なんて表現がなかなかしっくりくるかもしれない。

 何となく古式ゆかしい言い回しだが、おかげでだいぶ大仰に聞こえる……気がする。

 こう、具体例を挙げないまま語彙も少なに持ち上げてばかりだとなんだか嘘か冗談みたいになりそうだが、話だけ聞けば確かに彼女のプロフィールは嘘か冗談のようなのだから笑えない。

 まず学力──先ほど霊界堂神無を次席と紹介したのが思いがけず伏線になってしまったが、学年では主席である。

 『学年では』と言ったのも含みがあって、彼女は理系文系問わずあらゆる分野ですでに、所謂学会とかそういうパブリックというかインターナショナルな場で持論を発表できてしまうような英知を以て世界的な貢献をしてしまっているのだというオチが待っている。


 そんな高尚な学問への造詣など当たり前のように持ち合わせていない私だが、榊識視による数多の──この言葉が本当に大げさでない程度の数がある──論文の中で一つだけ、さわり……というかテーマだけだが知っているものもある。

 正式なタイトルは忘れたが確か『人が魔法を使える可能性について』というテーマだ。オカルトか超心理学か何かかと思いきや、これがかなり真っ当な量子力学の論文らしいというから、興味を惹かれて調べてみたことがあるのだ。……結論から言えば難しすぎて私にはよくわからなかった。

 何か量子の運動をビリヤードに喩えて書いてある部分などあったのは覚えてる……『一回で10個のボールを全部落とすこと』と、『魔法で望む現象の結果』を対比してどうとかこうとか。あとは、それを実現するのを邪魔する存在がこの世にはあるとかも書いてあった気がする。

 ふむ、今読んだら多少手ごたえは違うのだろうか。当時は私も小学生だったから。


 閑話休題。

 とにかくそれくらい、語るに困らないほどの功績を持っているということだ。

 しかもその武勇伝は学問だけにとどまらず、スポーツにおいてもその才覚は見劣りを知らない。

 流れる噂を鵜呑みにするならば、なんでも様々な競技で『非公式』にいくつも世界記録を持っているのだとか。

 こんな話を何処かの馬の骨が自慢げに自称していれば一笑に付してもよさそうなものだが、全て客観的な数字や文書で証明されてしまっているものだから誰も文句が言えない。

 ちなみにスポーツ競技の記録が非公式なのは、本人たっての希望で「あまり目立ちたくないから」という事らしい。

 その姿勢がより一層話題性を呼んでしまっているのは、まさか気付いていないはずも無いだろうから、もはや無視しているのだろう。

 達観している……というよりは感性が人と違うという方が正解か。そう考えれば人間的にも相当な変わり者なのだろうが、こうして数合の言葉を交わした限りではちょっと大人びた普通の女子高校生に見える。

 或いはそれこそが異常なことなのかもしれないが。



 ちなみに。

 こんな下手をすると芸能人などよりも有名……いや有力な人物たちと昼食を取る仲である巳祷さんだが、やはり彼女もタダ者ではなく、世界的大企業の社長令嬢だった──

 という事実は、同日午後、誰に聞くでもなくとある場所にて自ら気づかされることになる。

なんか下手なキャラ紹介で終わってしまった……。

序盤は大事なところだろうに、こんなんでいいのかしら。


次回『Sub 1( 双子 ) ~3~』

これでSub1は今度こそ終わり。

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