従姉妹が病弱なので婚約者に疎遠にされる令嬢が酔拳を習った話
「デイジー!大丈夫か!デイジー!デイジー!返事をしろ!」
まただわ。婚約者の従姉妹デイジー様が倒れたわ。
ここは伯爵家のパーティー、デイジー様が突然具合を悪くして失神をしたわ。
それも、私の婚約者ダンディール様に向かって背中から倒れたわ。
私はエミリー、ノワール伯爵家よ。
「今日のパーティーはエミリーが挨拶回りをしてくれ」
「でも、デイジー様はメイド達に任せては如何ですか?大事なパーティーですわ。一人では心細いですわ」
「冷たいな。君はスキル踊り子だろ?体が丈夫だから心も鈍感はずだ。デイジーの気持は分からない」
そう、私のスキルは踊り子だわ。それも、バフをかけるとかそんなことは出来ない。
ただの踊り子だわ。踊りが人よりも上手いだけ・・・
一人寂しく挨拶回りをしたわ。
「侯爵夫妻にご挨拶しますわ。ノワール伯爵家のエミリーと申します。婚約者は具合の悪くなった親族の看病で欠席しておりますわ」
「そうか、いい加減エミリー嬢の婚約者を見たいものだ」
「そうね。一言いって差し上げますわ」
「奥様、大丈夫ですわ」
「いいえ。上手く言うわ」
翌日、やっぱりダンディール様から怒られたわ。
「君、侯爵夫人から嫌みを言われたぞ!」
「そんな、私はただ・・・」
「やはり踊り子のスキルの君に病弱なデイジーの気持分からないのだな!あまりにヒドいと婚約を破棄するぞ!」
怒られて、メイドと共に帰る。
途中、馬車を降り公園を散歩したわ。
幼い頃、良くお父様とお母様に連れて来られたわね。
「グスン」
「お嬢様、もう、いい加減に旦那様に言いましょう」
「もう少し、頑張ってみるわ」
並木道を通っていたら・・・
「ウシシシ、姉ちゃん。何泣いているの?俺らが慰めてあげようか?」
「ヒヒヒヒイ、グヘへへへへ!俺らも二人、丁度良い。ヒーコーしない?」
「お嬢様」
「ケリー!」
ゴロツキ二人が木の裏から出てきたわ。
「へへへへへへ、俺ら、ここら辺を仕切っているドミー一家だぜ」
「そうだ。俺らと仲良くすると良い目を見られるぜ」
「ヒィ」
髪を触ろうとしてきたわ・・・・
その時。
【やめるの~】
幼女が1人とメイドが1人出てきたわ。貴族の娘のようだわ。
「な、何だ。幼女か?」
「お嬢ちゃん。合意だぜ。合意で大人のデートをするんだ」
「はっ!奥義、地功拳!」
と何か叫んで、地面をコロコロ転がってきたわ。連続で前転をしているのね。
・・・速い。
「なっ!何だ!ウオ!」
1人が幼女の前転に足を絡まれ転倒したわ。額を地面にぶつけたわ。
更に飛び上がって、肘をゴロツキの胸にブチあてたわ。
「グハ!」
「あ、兄貴!幼女でも許さないぞ!」
すると、幼女は・・・泣き出したわ。
【ウワーーーン!おじちゃん達がイジメルの~!】
「お、覚えていろ!」
「ウグ、ひでぇ幼女だ」
ゴロツキは去ったわ・・・
・・・・・・・・・・・
「ゆっくり~体幹を意識するの~!」
「はい」「はい」「はい」
「個人練習するの~、メアリー、お姉さんとお話するの~」
「はい」「はい」「はい」
メアリー様は公園の一角で変な体操を指導しているわ。
「初めまして、メアリーなの~」
「エミリー・ノワールですわ」
何故か、メアリー様に人生相談をした。
「フムフムなの~」
「ええ、私はスキル踊り子ですわ。だから、皆から見くびられているようです。
殿方は病弱な令嬢を好むようですわ。私、どうしたら良いか分からなくて・・」
最近の貴公子達は病弱な令嬢を好む傾向があるわ。庇護欲をそそるらしい・・
令嬢の中には何かあるとすぐに気絶する方もいる。
【喝なの~!】
「ヒィ」
メアリー様は怒り出したわ。
「スキル踊り子なんてすごいの~、メアリー欲しくてたまらないの~。踊り子は異世界の拳聖が絶賛していたの~・・・」
☆☆☆1990年代東京某空手道場
『君、ダンサーとケンカしたらいけないヨ』
『先生、それは何故ですか?』
『ダンサーは強いヨ』
『ですから・・何故、強いのですか?』
『ダンサーは黒帯に匹敵するネ』
『え~と、理由は・・・』
・・・・・・・・・
「てな有名な話があったの~!」
「何故、片言なのかしら・・」
「貴女のスキルはすごいの~!周りを気にせずに長所を伸すの~」
「伸す・・」
ダンディール様とのダンスの時も抑えていたわ・・・
「失神が流行ならこちらは健康優良令嬢を見せるの~」
ガーンと頭を打たれたようだわ。
踊り子を長所と言ってくれるわ。
「異世界中国拳法教室に入るの~」
「はい!」
私はメアリー様に入門したわ。
「基本なの~!馬歩、お馬さん立ちなの~!」
「はい!」
「内股を半月型にするの~、アーチのように強固になるの~」
「はい!」
「そこからスワイ掌なの~、体を左右に振り腕は脱力して振るの~手を体に巻き付ける感覚なの~」
「はい!」
「次は馬歩達から体を横にしながら中段を突くの~」
「はい!」
「型は虚脱を交ぜるの~。脱力の時はとことん力を抜くの~」
「はい!」
・・・・・・・・・・・
半年も通ったら・・・
ユラリ~と体が独特に動く感覚が分かったわ。
「酔拳は地功拳と姉妹なの~!演武始めなの~!」
「はい」
いきなり飛び上がって、空中で横に回転しながら地面に伏す。
それからいきなり下から突き出すように蹴り。
それからバク転!
相手を転がし。地面を転がりまくる・・・・蟹ばさみで転がし。
地面にたたきつけるイメージ。体勢を崩すのではない。重力に身をまかせ地面に落ちるのだわ。
最後、飛び上がって気をつけの姿勢をとる。
「メアリー師、如何ですか?」
「完璧なの~、メアリーよりも上手くなって嬉しいの~、さすが踊り子なの~」
「そんなことございませんわ」
「グスン、師を跳び越えてこそ弟子なの~、師匠冥利に尽きるの~」
「グスン、メアリー師」
「スキルのある者が更に努力すれば見える世界があるの~、羽ばたくの~!」
「わ、分かりましたわ」
それから、葡萄ジュースをひょうたんに入れ、飲み口に縄を巻き付けて片手で肩に背負い持ち。
飲みながらゴロツキに試したわ。パトロールをしていたら、また、奴らはナンパをしていたわ。
「へへへへへ、姉ちゃん。俺たちドミー一家なんだわ」
「ヒーコーしない?」
「け、結構ですわ」
「お、俺たちと大人の関係になっても結構ですって!グシシシシ、ゲヒヒヒヒ!」
また、悪質なナンパをしているわね。
【お止めなさい!】
「何だ。チャンネー!」
「何だ。酔っ払っているのか?」
ユラリー~。
体勢を崩すのではない。地面に落ちるのだ。
バタンと地面にふして、下斜めから蹴りを繰り出し。
「ウワ!何だ。このチャンネーは?」
蟹挟みで相手を転がし。地面にたたきつけて。
また、ジュースを飲む。
「ヒック、貴方たち、私の目の車輪がクルクル~って回っているか?確かめて下さる?」
意味不明な事を言う。これもメアリー師から教わった異世界の戦いの達人の言葉だそうだわ。
「ヒィ、こえーよ」
「た、退散だ!」
「あ、あの、有難うございました」
「ヒック、ご令嬢、可愛いのだから気をつけなきゃダメですわ」
「そ、そんな、可愛いだなんて・・」(ポッ)
そして、遂にドミー一家のドミーさんと対決しましたの。
「旋風脚ですわ!」
一発で倒れましたわ。
「殿方のリビドーを抑えろとは申しておりませんわ。
礼節を持ってお付き合いの申し込みをして下さいませ」
「姉御・・だ」
「「「姉御」」」
「わ、分かりました。文通しない?から始めます!」
「・・・まず定職について下さいませ」
「「「「はい!」」」
「これから堅気になるぜ」
いつの間にかに・・・
令嬢たちから人気だわ。女なのに・・・
「「「「キャー!キャー!キャー!」」」
「エミリー様よ」
「格好いいですわ!裏組織を改心させたのですって!」
「皆様、ごきげんようですわ」
殿方からも興味を持たれている。熱い視線を感じるわ。
「いつもひょうたんを片手で背負っている」
「何か、健康だけど病弱も入って色気があるな」
「ワインを飲んでいるのか・・・」
「オホホホホ、葡萄ジュースですの。熱中症で倒れないためですわ」
社交会で人気者になりましたわ。ダンディール様を探す。そう言えば社交会に出席したのは久しぶりだわ。
【エミリー!何だ。最近良い噂を聞かないぞ!】
ダンディール様がデイジー様を背にして文句を言っているわ。
デイジー様がダンディール様の耳元で何かをささやいているわ。
この男、いつもデイジー様の話を鵜呑みにして・・・
「ゴロツキを従えていると聞いているぞ!」
「向こうが勝手に慕ってきているのですわ」
「踊り子のくせに、大人しくダンスでもしていろ!」
「あら、私、いつもダンディール様に合わせて大人しくダンスをしておりますの」
「屁理屈を、前へ戻れ。でないと婚約を破棄する。お前の歳で今から婚約者を探すのは大変だぞ!」
この男・・・嫌だわ。でも、家が決めた婚約だからと必死だった。
何よりも。
前へ戻りたくないですわ。
葡萄ジュースを一口飲んで。意味不明な事を言う・・
「ヒック、ダンディール様、私の目の中の車輪を回しましたわね?」
「何?」
飛び上がって、体を思いっきり弓形に反って。
ダンディール様の上から落ちましたの。
デイジー様も巻き添えよ。
「な、痛い・・・」
「ヒィ、何だ。テメーはよ!」
「デイジー・・・」
「お前がしっかり手綱握らないからじゃじゃ馬が暴れるんだ。私の人気取られただろが!使えない従兄弟だわ」
デイジー様の素が出ましたわね。
「婚約は破棄で結構ですわ」
丁寧にカーテシーをして去ろうとしたら、声をかけてくる者がいたわ。
老齢の執事だわ。
「おみごとであります。当職は王宮執事長のヨハン・ベッカーと申します」
「エミリー・ノワールですわ」
「実は、メアリー師より推薦を受けまして、第二王子ホルスト殿下の武術指南役について欲しいとの事です」
「まあ、第二王子殿下と言えば・・・」
「そうです。病弱です。でも、体を強くしたいと頑張られております」
「分かったわ。行くわ」
「エミリー待て!話し合おう!」
「ちょっと待ちなさい。第二王子は私が狙っていたのよ!病弱同士気持が分かるでしょう!私を推薦しなさい」
2人の声を背に会場を後にしたわ。
その後、正式に婚約は解消になったわ。
ダンディール様からの復縁の手紙が来るけど封も開けないで返しているわ。
デイジー様、今度は健康優良令嬢を演じているようだけども、偽者だからただのうるさいと敬遠されていると噂で聞いたわ。
流行を追いすぎるのは浅はかね・・・
私は第二王子殿下の武術指南役に正式に採用されたわ。王宮に一室を与えられたわ。
第二王子殿下は目を輝かせて私の話を聞いて下さる。
「す、すごい。踊り子は最強なのですね。ゴホ」
「いえ、これも努力をしないとたちまち落ちてしまいますわ」
「まずは基本の立ち方からですわ」
「はい、先生」
「無理をせずに妥協はしないですわ。出来る所からゆっくりとですわ」
二歳年下の16歳だわ・・・
「スワイ掌は体に腕を巻き付ける感覚ですわ。こう・・」
「え、はい・・エミリー先生、体が近いです」
「これも武術の鍛錬ですわ」
「お、やっているな。ホルスト」
「兄上」
稽古を王太子殿下と妃が見に来られたわ。
「エミリー嬢、実はホルストに婚約者はいないのだが・・」
「フフフ、考えて下さらない?」
「あ、兄上・・・」
「まだ、早いか?」
ポッと体が熱くなったわ。
王太子殿下とその妃も良い方だわ。
ホルスト殿下が可愛くて仕方ない。キャ。
これがスキルのある者が努力した結果かしら。
これから私の目の中の車輪は幸せでグルグル回る予感がする。
大空を見上げるとメアリー師の顔が大きく広がっていたわ。きっと、素敵な前世持ちの方なのでしょうね。
最後までお読み頂き有難うございました。




