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従姉妹が病弱なので婚約者に疎遠にされる令嬢が酔拳を習った話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/08/02

「デイジー!大丈夫か!デイジー!デイジー!返事をしろ!」



 まただわ。婚約者の従姉妹デイジー様が倒れたわ。

 ここは伯爵家のパーティー、デイジー様が突然具合を悪くして失神をしたわ。

 それも、私の婚約者ダンディール様に向かって背中から倒れたわ。



 私はエミリー、ノワール伯爵家よ。


「今日のパーティーはエミリーが挨拶回りをしてくれ」

「でも、デイジー様はメイド達に任せては如何ですか?大事なパーティーですわ。一人では心細いですわ」


「冷たいな。君はスキル踊り子だろ?体が丈夫だから心も鈍感はずだ。デイジーの気持は分からない」



 そう、私のスキルは踊り子だわ。それも、バフをかけるとかそんなことは出来ない。

 ただの踊り子だわ。踊りが人よりも上手いだけ・・・



 一人寂しく挨拶回りをしたわ。


「侯爵夫妻にご挨拶しますわ。ノワール伯爵家のエミリーと申します。婚約者は具合の悪くなった親族の看病で欠席しておりますわ」


「そうか、いい加減エミリー嬢の婚約者を見たいものだ」

「そうね。一言いって差し上げますわ」


「奥様、大丈夫ですわ」

「いいえ。上手く言うわ」



 翌日、やっぱりダンディール様から怒られたわ。


「君、侯爵夫人から嫌みを言われたぞ!」

「そんな、私はただ・・・」

「やはり踊り子のスキルの君に病弱なデイジーの気持分からないのだな!あまりにヒドいと婚約を破棄するぞ!」




 怒られて、メイドと共に帰る。

 途中、馬車を降り公園を散歩したわ。

 幼い頃、良くお父様とお母様に連れて来られたわね。



「グスン」

「お嬢様、もう、いい加減に旦那様に言いましょう」

「もう少し、頑張ってみるわ」


 並木道を通っていたら・・・



「ウシシシ、姉ちゃん。何泣いているの?俺らが慰めてあげようか?」

「ヒヒヒヒイ、グヘへへへへ!俺らも二人、丁度良い。ヒーコーしない?」


「お嬢様」

「ケリー!」


 ゴロツキ二人が木の裏から出てきたわ。


「へへへへへへ、俺ら、ここら辺を仕切っているドミー一家だぜ」

「そうだ。俺らと仲良くすると良い目を見られるぜ」


「ヒィ」


 髪を触ろうとしてきたわ・・・・

 その時。



【やめるの~】


 幼女が1人とメイドが1人出てきたわ。貴族の娘のようだわ。



「な、何だ。幼女か?」

「お嬢ちゃん。合意だぜ。合意で大人のデートをするんだ」



「はっ!奥義、地功拳!」


 と何か叫んで、地面をコロコロ転がってきたわ。連続で前転をしているのね。

 ・・・速い。



「なっ!何だ!ウオ!」


 1人が幼女の前転に足を絡まれ転倒したわ。額を地面にぶつけたわ。

 更に飛び上がって、肘をゴロツキの胸にブチあてたわ。


「グハ!」


「あ、兄貴!幼女でも許さないぞ!」


 すると、幼女は・・・泣き出したわ。


【ウワーーーン!おじちゃん達がイジメルの~!】


「お、覚えていろ!」

「ウグ、ひでぇ幼女だ」



 ゴロツキは去ったわ・・・




 ・・・・・・・・・・・



「ゆっくり~体幹を意識するの~!」


「はい」「はい」「はい」


「個人練習するの~、メアリー、お姉さんとお話するの~」


「はい」「はい」「はい」


 メアリー様は公園の一角で変な体操を指導しているわ。


「初めまして、メアリーなの~」

「エミリー・ノワールですわ」



 何故か、メアリー様に人生相談をした。



「フムフムなの~」


「ええ、私はスキル踊り子ですわ。だから、皆から見くびられているようです。

 殿方は病弱な令嬢を好むようですわ。私、どうしたら良いか分からなくて・・」


 最近の貴公子達は病弱な令嬢を好む傾向があるわ。庇護欲をそそるらしい・・

 令嬢の中には何かあるとすぐに気絶する方もいる。



【喝なの~!】

「ヒィ」


 メアリー様は怒り出したわ。


「スキル踊り子なんてすごいの~、メアリー欲しくてたまらないの~。踊り子は異世界の拳聖が絶賛していたの~・・・」



 ☆☆☆1990年代東京某空手道場



『君、ダンサーとケンカしたらいけないヨ』

『先生、それは何故ですか?』

『ダンサーは強いヨ』

『ですから・・何故、強いのですか?』

『ダンサーは黒帯に匹敵するネ』

『え~と、理由は・・・』



 ・・・・・・・・・




「てな有名な話があったの~!」

「何故、片言なのかしら・・」



「貴女のスキルはすごいの~!周りを気にせずに長所を伸すの~」

「伸す・・」


 ダンディール様とのダンスの時も抑えていたわ・・・



「失神が流行ならこちらは健康優良令嬢を見せるの~」


 ガーンと頭を打たれたようだわ。

 踊り子を長所と言ってくれるわ。


「異世界中国拳法教室に入るの~」

「はい!」



 私はメアリー様に入門したわ。


「基本なの~!馬歩、お馬さん立ちなの~!」

「はい!」


「内股を半月型にするの~、アーチのように強固になるの~」

「はい!」


「そこからスワイ掌なの~、体を左右に振り腕は脱力して振るの~手を体に巻き付ける感覚なの~」

「はい!」


「次は馬歩達から体を横にしながら中段を突くの~」

「はい!」


「型は虚脱を交ぜるの~。脱力の時はとことん力を抜くの~」

「はい!」



 ・・・・・・・・・・・



 半年も通ったら・・・



 ユラリ~と体が独特に動く感覚が分かったわ。


「酔拳は地功拳と姉妹なの~!演武始めなの~!」


「はい」


 いきなり飛び上がって、空中で横に回転しながら地面に伏す。

 それからいきなり下から突き出すように蹴り。

 それからバク転!


 相手を転がし。地面を転がりまくる・・・・蟹ばさみで転がし。

 地面にたたきつけるイメージ。体勢を崩すのではない。重力に身をまかせ地面に落ちるのだわ。



 最後、飛び上がって気をつけの姿勢をとる。



「メアリー師、如何ですか?」

「完璧なの~、メアリーよりも上手くなって嬉しいの~、さすが踊り子なの~」

「そんなことございませんわ」


「グスン、師を跳び越えてこそ弟子なの~、師匠冥利に尽きるの~」

「グスン、メアリー師」


「スキルのある者が更に努力すれば見える世界があるの~、羽ばたくの~!」

「わ、分かりましたわ」



 それから、葡萄ジュースをひょうたんに入れ、飲み口に縄を巻き付けて片手で肩に背負い持ち。

 飲みながらゴロツキに試したわ。パトロールをしていたら、また、奴らはナンパをしていたわ。



「へへへへへ、姉ちゃん。俺たちドミー一家なんだわ」

「ヒーコーしない?」


「け、結構ですわ」

「お、俺たちと大人の関係になっても結構ですって!グシシシシ、ゲヒヒヒヒ!」



 また、悪質なナンパをしているわね。


【お止めなさい!】


「何だ。チャンネー!」

「何だ。酔っ払っているのか?」



 ユラリー~。


 体勢を崩すのではない。地面に落ちるのだ。


 バタンと地面にふして、下斜めから蹴りを繰り出し。


「ウワ!何だ。このチャンネーは?」


 蟹挟みで相手を転がし。地面にたたきつけて。


 また、ジュースを飲む。


「ヒック、貴方たち、私の目の車輪がクルクル~って回っているか?確かめて下さる?」


 意味不明な事を言う。これもメアリー師から教わった異世界の戦いの達人の言葉だそうだわ。


「ヒィ、こえーよ」

「た、退散だ!」



「あ、あの、有難うございました」

「ヒック、ご令嬢、可愛いのだから気をつけなきゃダメですわ」

「そ、そんな、可愛いだなんて・・」(ポッ)


 そして、遂にドミー一家のドミーさんと対決しましたの。


「旋風脚ですわ!」


 一発で倒れましたわ。


「殿方のリビドーを抑えろとは申しておりませんわ。

 礼節を持ってお付き合いの申し込みをして下さいませ」


「姉御・・だ」

「「「姉御」」」

「わ、分かりました。文通しない?から始めます!」

「・・・まず定職について下さいませ」


「「「「はい!」」」

「これから堅気になるぜ」




 いつの間にかに・・・


 令嬢たちから人気だわ。女なのに・・・



「「「「キャー!キャー!キャー!」」」

「エミリー様よ」

「格好いいですわ!裏組織を改心させたのですって!」


「皆様、ごきげんようですわ」



 殿方からも興味を持たれている。熱い視線を感じるわ。


「いつもひょうたんを片手で背負っている」

「何か、健康だけど病弱も入って色気があるな」

「ワインを飲んでいるのか・・・」


「オホホホホ、葡萄ジュースですの。熱中症で倒れないためですわ」


 社交会で人気者になりましたわ。ダンディール様を探す。そう言えば社交会に出席したのは久しぶりだわ。



【エミリー!何だ。最近良い噂を聞かないぞ!】


 ダンディール様がデイジー様を背にして文句を言っているわ。

 デイジー様がダンディール様の耳元で何かをささやいているわ。


 この男、いつもデイジー様の話を鵜呑みにして・・・



「ゴロツキを従えていると聞いているぞ!」

「向こうが勝手に慕ってきているのですわ」


「踊り子のくせに、大人しくダンスでもしていろ!」

「あら、私、いつもダンディール様に合わせて大人しくダンスをしておりますの」


「屁理屈を、前へ戻れ。でないと婚約を破棄する。お前の歳で今から婚約者を探すのは大変だぞ!」


 この男・・・嫌だわ。でも、家が決めた婚約だからと必死だった。

 何よりも。


 前へ戻りたくないですわ。


 葡萄ジュースを一口飲んで。意味不明な事を言う・・


「ヒック、ダンディール様、私の目の中の車輪を回しましたわね?」


「何?」


 飛び上がって、体を思いっきり弓形に反って。

 ダンディール様の上から落ちましたの。

 デイジー様も巻き添えよ。




「な、痛い・・・」

「ヒィ、何だ。テメーはよ!」

「デイジー・・・」

「お前がしっかり手綱握らないからじゃじゃ馬が暴れるんだ。私の人気取られただろが!使えない従兄弟だわ」


 デイジー様の素が出ましたわね。


「婚約は破棄で結構ですわ」



 丁寧にカーテシーをして去ろうとしたら、声をかけてくる者がいたわ。

 老齢の執事だわ。

「おみごとであります。当職は王宮執事長のヨハン・ベッカーと申します」

「エミリー・ノワールですわ」


「実は、メアリー師より推薦を受けまして、第二王子ホルスト殿下の武術指南役について欲しいとの事です」


「まあ、第二王子殿下と言えば・・・」

「そうです。病弱です。でも、体を強くしたいと頑張られております」


「分かったわ。行くわ」



「エミリー待て!話し合おう!」

「ちょっと待ちなさい。第二王子は私が狙っていたのよ!病弱同士気持が分かるでしょう!私を推薦しなさい」



 2人の声を背に会場を後にしたわ。


 その後、正式に婚約は解消になったわ。


 ダンディール様からの復縁の手紙が来るけど封も開けないで返しているわ。

 デイジー様、今度は健康優良令嬢を演じているようだけども、偽者だからただのうるさいと敬遠されていると噂で聞いたわ。


 流行を追いすぎるのは浅はかね・・・



 私は第二王子殿下の武術指南役に正式に採用されたわ。王宮に一室を与えられたわ。



 第二王子殿下は目を輝かせて私の話を聞いて下さる。



「す、すごい。踊り子は最強なのですね。ゴホ」

「いえ、これも努力をしないとたちまち落ちてしまいますわ」


「まずは基本の立ち方からですわ」

「はい、先生」

「無理をせずに妥協はしないですわ。出来る所からゆっくりとですわ」


 二歳年下の16歳だわ・・・



「スワイ掌は体に腕を巻き付ける感覚ですわ。こう・・」

「え、はい・・エミリー先生、体が近いです」

「これも武術の鍛錬ですわ」


「お、やっているな。ホルスト」

「兄上」


 稽古を王太子殿下と妃が見に来られたわ。


「エミリー嬢、実はホルストに婚約者はいないのだが・・」

「フフフ、考えて下さらない?」

「あ、兄上・・・」

「まだ、早いか?」


 ポッと体が熱くなったわ。


 王太子殿下とその妃も良い方だわ。


 ホルスト殿下が可愛くて仕方ない。キャ。


 これがスキルのある者が努力した結果かしら。

 


 これから私の目の中の車輪は幸せでグルグル回る予感がする。


 大空を見上げるとメアリー師の顔が大きく広がっていたわ。きっと、素敵な前世持ちの方なのでしょうね。


最後までお読み頂き有難うございました。

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