第三幕「王冠をかすめる弾」
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祝祭は、騒音で恐怖を潰す装置だ。
広場は人で満ちている。旗。音楽。肉の匂い。笑い声。
昨日“天使”を見た者たちが、今日は女王の姿を求めて押し寄せている。
「人は忘れないが、上書きはできる」
ディーはそう言いながら、突然しゃがみ込んだ。
「今度は何だ」とレイン。
「高さ確認です」
「そこ、地面だ」
「だからです」
ディーは地面から女王のバルコニーを見上げる。
視線角度。
遮蔽物。
群衆の波。
立ち上がり、次は近くの樽の上に乗る。
「降りろ」
「上下差確認」
「今やることか!?」
「今しかありません」
ケリーが笑う。
「やっぱり面倒くさいですね、あなた」
「評価は不要です」
女王の登場を告げる楽器が鳴る。
歓声が爆発する。
人波が前へ押す。
兵が押し返す。
ディーの目が走る。
屋根三枚。
高さ差。
日差し反射。
発射距離。
――未来①
屋根左上。発砲。命中率52%。却下。
――未来②
屋根中央。遮蔽不足。却下。
「左上を厚く」
マーガレットが兵に伝令。
レインが屋根へ視線を飛ばす。
ケリーは違う方向を見ている。
支柱。
金具。
そこだけ光が鈍い。
「違う」
ディーは振り向かない。
「根拠」
「昨日の円と同じ。真正面の角度」
ディーの脳内で再計算。
視線軸。
焦げ跡方向。
女王の立ち位置。
――再演算。
屋根案、破棄。
支柱裏、再採用。
蒼が混じる。
音が遠のく。
王冠。
火花。
戻る。
「前を空けろ!」
ディーは叫んだ次の瞬間、女王の足元に寝転んでいた。
「何をしている!」ダドリー。
「射線遮断!」
銃声。
弾は王冠の縁をかすめ、金属が鳴る。
レインが支柱へ突撃。銃手を引きずり出す。
男は笑っている。
勝利ではない。
完了の笑い。
「役者だな」
ディーが呟く。
「何だと」
「台詞を終えた顔です」
男が短剣を抜く。
――未来①
レイン被弾。却下。
――未来②
短剣左回転。手首弱い。採用。
時間が戻る。
ディーは立ったまま短剣の軌道に手を差し込み、手首を折り、刃を落とす。
「痛い」
男が言う。
「当然です」
「今の、どうやった」とレイン。
「数えました」
「何を」
「すべてです」
兵が銃手を拘束。
群衆は騒ぐが、女王が立っている。
それだけで劇は続く。
ケリーが小声で言う。
「蒼くなりましたね」
ディーは無視。
封書が渡される。
封蝋は割られている。
“読める者へ”。
ディーが開く。
――光は読まれた。
ケリーが覗き込む。
「誰が?」
ディーは紙を折る。
折り目が正確すぎる。
「比喩です」
「嘘」
レインが言う。
「何だそれ」
女王が振り向く。
「あなたの計算が勝ったわね」
ディーは一拍置く。
「勝っていません」
「では?」
「可能性が削れただけです」
女王の目が光る。
「削る者は、選ぶ者と同じよ」
ディーは初めて視線を逸らす。
“椅子”に責任を被せる言葉。
ケリーが言う。
「呼びかけ、あなたですよ」
ディーは歩き出す。
祝祭の音楽が再び鳴る。
「私は呼ばれていません」
「じゃあ誰が」
ディーは立ち止まる。
わずかに蒼が残っている。
「……観測者です」
「意味がわからない」とレイン。
「わからなくて結構です」
広場は再び笑い始める。
恐怖は塗り替えられる。
だが舞台は閉じていない。
光は読まれた。
そしてディーは、まだ読んでいる。
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