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第二幕「舞台は一枚ではない」

いつも読んで頂きありがとうございます

“ジョン・ディー”は名ではない。


椅子だ。


宮廷付天文方という椅子。

人が替わっても、椅子は替わらない。


ディーは焦げた床を見下ろしながら、いきなり膝をついた。


そして、床に耳をつけた。


「……何を」


レインが呆れる。


「振動です」


「今?」


「今しかありません」


ディーは耳を床につけたまま言う。


「さきほどの炎、二段燃焼でした」


マーガレットが即座に書き取る。


「どうしてわかるんです」


「爆ぜ方が均一すぎる。単発ではない」


レインが腕を組む。


「見ただけで?」


ディーは顔を上げない。


「聞いています」


ケリーが近づく。


「寝たまま喋るのやめてください。威厳がありません」


「威厳は燃えません」


ディーは起き上がる。


円の外周を歩く。


歩数を数えている。


「七。七歩。ちょうど七」


「何が七だ」とレイン。


「恐怖の視認距離です」


「そんな単位があるのか」


「今決めました」


ダドリーが低く言う。


「結論を」


ディーは円の中央を見たまま言う。


「これは前座です」


室内の空気が固まる。


ケリーが目を細める。


「続きがある?」


ディーは突然、円の線を指でなぞり始めた。


「触るな」とレイン。


「触りません。測っています」


「指で?」


「目盛りはあります」


「どこに」


「頭に」


レインが天井を仰ぐ。


ディーは立ち上がる。


「粉の量が過剰」


「何回言うんだ」とレイン。


「重要だからです」


マーガレットが静かに補足する。


「三分の一で足りる、と」


「ええ。司祭一人なら。だがこれは観客用」


ケリーが言う。


「昨日、あなた言ってた。真正面って」


ディーが止まる。


円と女王の席の位置を一直線に指でなぞる。


「視線軸です」


レインが言う。


「偶然だろ」


ディーは即答。


「偶然は三つ以上重なりません」


レインが顔をしかめる。


「三つとは何だ」


ディーは間髪入れず指を折る。


「粉の量。位置。日付」


「日付?」とダドリー。


「式典前日です。前日でなければ意味がない。

当日なら混乱は単発で終わる。前日なら――」


ケリーが先に言う。


「恐怖を持ち越す」


ディーは頷く。


「重ねるための設計です。

偶然は一つなら誤差。二つでも誤差。

三つ揃えば、意志です」


沈黙。


レインが小さく吐き捨てる。


「最初からそう言え」


ディーは即答。


「言いました」


マーガレットが冷静に付け足す。


「言っていません」


ダドリーが半歩寄る。


「それで?」


ディーは式典予定表を奪う。


紙を広げる。


そして突然、テーブルの上に乗った。


「降りろ」


「高低差確認です」


「椅子に乗れ」


「椅子は低い」


テーブルの上から広場図を俯瞰する。


「事件は前日。警備再配置。動線変更。視線分断」


ケリーが小声で言う。


「広場」


ディーは頷く。


「本番は明日です」


「断言か」


「消去法です」


レインが苛立つ。


「根拠が薄い」


ディーはテーブルから飛び降りる。


レインの胸元に図を押しつける。


「密室は規模が小さい。国家転覆には足りない」


「ならなぜやった」


「恐怖の予告」


沈黙。


ケリーがぽつりと言う。


「呼びかけ、まだ終わってない」


ディーは初めて彼を見る。


ほんの一瞬。


蒼が、かすかに混じる。


再計算。


円。視線。王冠。射線。


「……女王です」


ダドリーの目が冷える。


女王が静かに立つ。


「中止すれば?」


レインが即座に言う。


「そうするべきです」


女王はディーを見る。


「あなたは?」


ディーは一拍。


「中止すれば、噂が完成します」


女王の口元がわずかに上がる。


「では完成させない」


「危険です」とダドリー。


女王は静かに言う。


「危険でない王冠など、ただの装飾よ」


ディーは視線を下げる。


“椅子”が問われている。


個人ではない。


制度として。


「なら、読みます」


ケリーが言う。


「呼ばれてますよ」


ディーは言い返す。


「私は呼ばれていません」


「じゃあ誰が」


ディーの目が蒼に揺れる。


「……観測者です」


レインが呟く。


「意味がわからん」


「わからなくていい」


第二幕、終。


ここまで読んで頂きありがとうございます

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