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隣りの家はマクルシファーさん

復活祭

掲載日:2026/02/14

我が家の隣りには魔法学園がある。


春になると、学園は妙に浮き足立つ。

冬を越えた魔力がゆるみ、花も、人も、少しだけ正直になるからだ。


そして今年も復活祭がやって来た。


春の再生を祝う日。

壊れたものに息を吹き返し、眠っていたものを起こす日。


わたし――マクルシファーは、庭を見渡して満足そうに頷いた。


「今年は、うまくいくかな」


庭の隅では、去年「夏を詰め込まれた」瓶たちが静かに光っている。

そしてその横で、新しい芽が次々と土を押し上げていた。


春は、良い。

何かが始まる匂いがする。

魔法学園の掲示板に、またあの奇妙な貼り紙が出た。


【復活祭の手伝い募集。壊れたものを直せる人。春を信じられる人】


「……なにそれ」


声を出したのは、二年生のリナ。

手先は器用だが、性格は疑い深い。


「またマクルシファーさんじゃない?」と友人が笑う。


リナは少し迷った。

だが報酬欄を見ると、迷わず紙を剥がした。


――生活費、足りないんだよね。


◇◇◇


門をくぐると、いつもの普通っぽい家庭菜園だった。


だが、よく見ると何かがおかしい。


地面に並ぶ卵。

色とりどりの、大きな卵。


そしてその前に立つのは――


「ようこそ、春の再生へ」


マクルシファーさんだった。


「えっと、これ、なんですか?」


「復活祭だからね。これは『眠った春』だよ」


意味がわからない。


◇◇◇


説明はこうだった。


冬の間に傷ついた魔力や、壊れた道具、諦められた願い――

そういうものが、春になると「卵」の形で現れるのだという。


「この卵を割ると、中から春が生まれる」


「……危ないやつですか?」


「いや、だいたいは可愛いよ。たぶん」


たぶんってなんだ。危ないの別の言い方だろ!


◇◇◇


最初の卵をリナがそっと持ち上げる。


ひび。


ぱかん。


中から出てきたのは――


小さな花の妖精だった。


「寒かったぁ!」


妖精は伸びをして、ぷるぷると震える。


「誰? 起こしてくれたの?」


「……わたし?」


「ありがとう! じゃあ仕事してくる!」


妖精は勢いよく飛び去り、近くの枯れかけた木に触れた。


瞬間、枝に花が咲いた。


リナは目を見開く。


「ほんとに……春だ」


◇◇◇


そこからは大騒ぎだった。


卵を割れば、


壊れたジョウロが歩き出す。必死で追いかけて連れ戻した。


古いスコップが歌いだす。へたくそだった。


冬眠していた光が空へ舞い上がる。感動した。


学園生たちが次々に集まり、庭は春の暴走状態になる。


「これ、制御しなくていいんですか!?」


「大丈夫、大丈夫。春は少し暴れるくらいがちょうどいい」


マクルシファーさんはのんびりしている。


◇◇◇


その時だった。


一番大きな卵に亀裂が入った。


ごん。


ごん。


内側から叩く音。


「……ねぇ、これ大丈夫?」


誰も答えられない。


ぱきん、と割れて現れたのは――


巨大な影。


それは、冬そのものだった。


冷たい息を吐き、庭の花が一瞬しおれる。


「うわっ!」


学園生たちは杖を構える。


だがマクルシファーさんは、ただ静かに言った。


「春が来る時、冬は必ず最後に抵抗するんだよ」


仕事はこれかぁ!


◇◇◇


リナは震えながら前に出た。


魔法は得意だ。

でも、目の前のそれは魔法というより季節だった。


どうすればいい?


そのとき、さっきの花の妖精が戻ってきた。


「寒いの嫌い!」


小さな光がリナの杖に触れる。


あたたかい。


――春って、戦うものじゃないのかもしれない。


リナは目を閉じ、ただ思った。


「もう終わりだよ。休んでいいよ」


優しい光が広がった。


冬の影は、ゆっくりと溶けていく。


消える直前、それは少しだけ微笑んだように見えた。


◇◇◇


庭は静かになった。


花が揺れ、柔らかい風が吹く。


「合格だね」とマクルシファーさん。


 合格ってなに?試験じゃあるまいし。


「復活祭はね。壊れたものを直す日じゃない」


彼は微笑む。


「終わったものを、ちゃんと終わらせる日なんだ」


◇◇◇


夕方。


学園へ戻る前に、リナは振り返った。


さっきまで大騒ぎだった庭は、ただの家庭菜園に見える。


普通すぎる。


でも確かに、春の気配が濃くなっていた。


「また来てもいいですか?」


「もちろん。また波長が合えばね」


我が家の隣りには魔法学園がある。


春になると、波長の合う学生がやって来る。


そして今年も、いくつかの冬が終わった。

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