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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第十四章:別離(八月)
98/106

098:潜入作戦


その日の午後、僕らはタマ川の川原にいた。ここには広い空き地がある。今日は平日なので、あまり人がいない。

ただし、ここでも夏の太陽がギラギラと僕らを照り付けてきて、滅茶苦茶に暑い。一緒に来てくれた青木麻衣は、「ナコヤよりは、多少マシなんじゃない?」と言うけど、そんなの誤差の範囲内に決まってる。


今、僕の前にあるのは、原付バイク。これは、金森智哉かなもりともやさんが、わざわざ僕の為に用意してくれた物らしい。


「だいたい、これと似た機種が神永のコンビニにあるんだ。ほら、ヒカリ市の検問所の手前にあったコンビニ、覚えてるだろう? 君が行けば、直ぐに貸してくれる手筈になっている」


つまり、リカちゃんの作戦というのは、僕が自分でバイクを運転してヒカリ市に潜入し、緑川瑞希みどりかわみずきを連れて戻って来るというものだ。その時、できれば鯨岡菜摘くじらおかなつみも連れて来たいんだけど、これに三人も乗れるんだろうか?


「大丈夫。金森さんは、これと似た機種って言ったけど、実際はもうちょっと大きいから。それに、あの子達ってどうせ軽いでしょうから、余裕で二人ぐらい載せられるわよ」


そこで声を上げたのは、麻衣だった。


「あの、先生。原付バイクって、そもそも一人乗りだと思うんですけど」


いやいや、もっと、その前に言うべきことがある。


「それに、僕、免許とか無いですよ。それに僕って、そもそも、まだ免許が取れる年齢じゃないし……」


僕の疑問に対して、リカちゃんが平然と言い放った。


「あのね、香山くん。こんなもん、小学生だって乗れるわよ」


すかさず麻衣が口を挟む。


「先生、それって、教師が言って良いセリフじゃないと思うんですけど」

「あら、そうかしら?」

「当然でしょう? それにポイントは、乗れるかどうかじゃないと思いますけど。百歩譲って、ここで練習する分には良いとしてもですよ、ちゃんとした道路を無免許で走るのは、道交法違反ですからね」

「青木さん、今のハッピーアイランドに道交法なんて関係あると思う? 智哉さんの話だと、既に州政府は機能してないって話よ。当然、州警察だって同じ筈でしょう? 香山くんが警戒しなきゃなんないのは、自衛隊と公安警察よ」

「あの、それは、そうかもしれませんけど……」


麻衣は、まだ何か言いたげだったけど、そこで口を噤んでしまった。

すると、リカちゃんが諭すように言った。


「青木さん。こういうのを見て見ぬ振りが出来るようにならなきゃ、大人とは言えないの」


そこで、僕が意を決して声を上げた。


「あの、でも、本当に僕一人だけで大丈夫なんでしょうか?」

「絶対に大丈夫だとは言えないわね」


僕の弱音とも言える発言に、リカちゃんは冷たく言い放った。


ちなみに、今回、僕だけがバイクでヒカリ市に潜入するのは、ハッピーアイランドの隔離された地域に入る際の検問が、前回の時とは比べ物にならないくらい厳重になっているというからだ。

その一方で、出て行く方は比較的緩いらしい。ただし、全員が病院に送られて、検査する事を要求されるとか。たとえ一切の症状が見られなくても、「未知のっ病原菌」という設定を持ち出してしまった以上、やむを得ない措置なのだそうだ。


「本当は、前回と同じようにミニバンで行ければ良いんだけど、車だと走れる道が限られるし、どうしても目立っちゃうのよね。その点、バイクなら選択肢がずーっと多くなるの」


その時のリカちゃんは、こんな風に僕に説明してくれた。何故か彼女は、「私、ヒカリ市内なら、どんなに細い道だって知ってるから」とドヤ顔だったのだ。


それはさておき、僕を突っぱねた後でリカちゃんは、再び諭すように言った。


「あのね、香山くんだって、いつまでも子供じゃいられないのよ。今年中には十五歳になるんでしょう? 盗んだバイクに乗ってたって、おかしくない歳じゃない」

「あ、あの、盗んじゃ駄目なんじゃ……」

「そんなの言葉の綾って奴よ。とにかく、もう、そういう年頃なんだから、ちゃんとしなさい。大人ばかり頼っちゃ駄目。本当に大切な女の子は、自分で守り通しなさい。人任せにしたら、後できっと後悔する。自分で必死になって駄目だったら、納得は出来ないにせよ、仕方がなかったとは思える筈よ」


リカちゃんは、いつになく真剣な表情だった。

ここまで言われたら、もうやるしかない。みんな、僕の願いを叶える為に、一生懸命でいてくれるんだ。本人が躊躇ためらっていてどうする。


「分かりました。やってみます」


僕は、リカちゃんから渡されたヘルメットを被る。フルフェイスじゃないけど、そんでも暑い。でも、今は我慢。


そうして、僕の原付バイクとの悪戦苦闘が始まった。



★★★



今日の教官は、何故かリカちゃんだった。

金森さあんは乗って来たワゴン車に、バイクの他にも大きなカラーコーンを幾つか積んでいて、それらを翔太しょうたが中心になって空き地へと運んだ。そして、リカちゃん教官の指示で、それらを地面に並べて行く。

最初は適当に空き地を走り回るだけだったけど、その内、カラーコーンに当たらないようにして、何度もカーブやジグザグ走行の練習をさせられた。それに、その空き地には小山や窪地もあったので、軽いオフロード走行の練習もする事ができた。更に、本当は駄目なんだけど、土手に上がる坂道や土手の上も少しだけ走ったりして、夕方には何とかバイクを自由に走りこなせるようになっていた。


「どうですか、教官?」

「まあまあって所ね」

「えっ、たった半日で、ここまで走れるようになったんですよ? 僕って天才なんじゃ……」

「だからー、こんなの小学生だって乗れるって言ったじゃない」

「えっ、それって本気だったんですか?」

「当然。まあ、私は中学の時に始めたんだけどね」

「……?」


そうやって自慢げに嘯くリカちゃんを問い詰めた所、どうやら彼女は、十四の歳からレディースのチームに所属しており、無免許でバイクを乗り回していたらしい。そして高校生の頃になると、地元では相当に有名な走り屋だったのだという。


夕陽が沈んで辺りが茜色に染まる頃、バイクとカラーコーンをワゴン車に積み込んでから、土手の上でコーラを飲みながら僕の反省会をした。そのコーラは、翔太が近くのコンビニまで買いに行ってくれた物だ。

と言っても、喋っていたのはリカちゃんばかりで、彼女は高校の頃の武勇伝を延々と聞かせてくれた。明らかに誇張だと思える内容も多くて、いったいどこまでを信じたらいいのか不明だったけど、それでもリカちゃんらしい女子高生時代だなと思った。


「だけど、そんな不良少女が良く中学校の教師なんかやってますね」

「うん、何でなのかな? 実は、自分でも不思議なんだよねえ」


麻衣の問い掛けに、珍しくリカちゃんは、首を傾げて考え込んでしまった。


「たぶん、宿命みたいなものっていうと、大げさかな」


リカちゃんが、躊躇ためらいがちに切り出した。


「私ねえ、先生って奴らが大っ嫌いだったんだ。でも、いつかそんな先生達を見返してやろうって思ったの。それである時、ふと閃いたんだ。一番手っ取り早いのは、自分が先生になっちゃう事なんじゃないのかなって」


隣で金森さんが、大口を開けて笑っている。僕も笑った。翔太と麻衣が顔を見合わせて、とうとう噴き出した。

ようやく暑さが一段落して、土手の上を爽やかな風が通り過ぎて行った。



★★★



今回は高速道路が使えないので、ひたすら国道六号線を北上する事になる。その分、時間が掛かる事を想定し、朝早くに出発する事にした。できるだけ昼には、ヒカリ市の手前のコンビニに到着していたいからだ。

翌日の早朝、前回の時と同じミニバンを運転したリカちゃんが、翔太のマンションの前に現れた。そのミニバンには、青木麻衣も乗っている。二人は、ヒカリ市に入る手前のコンビニまで僕と同行してくれるとの事だ。

金森さんは仕事、翔太は塾があって残念ながら同行できないとの事。どのみち、ヒカリ市に潜入するのは僕だけなのだから、大勢で行った所で意味がないのだ。

それでも、麻衣が一緒に来てくれるのは有難い。彼女がいると安心なのだ。


「あら、私と二人っ切りのドライブだと、何か不満があるわけ?」

「あ、いや、金森さんに悪いかなあって」

「樹くん、ハッキリ言ってあげた方が良いと思うよ。菊池先生って、典型的なドジっ子タイプじゃないですか?」

「あら、青木さんって、オサカに行ってから口が悪くなったんじゃないの?」

「いやいや、元レディース出身の菊池先生ほどじゃないですってば」


出発前から同行する女二人の関係が、どうにも怪しい。僕は、そんな二人の言い合いに巻き込まれまいと、そっと二列目のシートに身体からだを忍ばせた。

そうして、リカちゃんが運転する車が走り出したのだが……。


「あのー、菊池先生って運転の方、大丈夫なんですか?」

「大丈夫に決まってんじゃない。こう見えても私、ヒカリとトキオの間のドライブなら、プロ顔負けよ。元長距離恋愛経験者の実力を甘く見ないで欲しいわ」


そう言って不敵に笑うリカちゃんは、信号が青になった途端、いつも思いっ切りアクセルを踏む。そして、タイヤを鳴らしての急カーブ……。

いったい、この人は何と戦ってるんだろうか?

そんな走りに、とうとう麻衣が音を上げた。


「もう先生、危険な運転は止めて下さい。気持ち悪くなっちゃうじゃないですかっ!」

「あら、ごめんなさーい。つい癖が出ちゃって……。おらおら、そこの車、おっせーぞ!」

「煽り運転も厳禁ですっ!」


麻衣の怒りで穏やかな運転になっても、やはり長年の癖は少々の事では直らない。終いに麻衣も諦めたのか何も言わなくなって、青い顔で必死に窓の外を見て耐えていた。


そんなこんなで僕ら三人は、下道を通ったにも関わらず思いの外に早く、無事(?)に神永さんのコンビニに到着したのだった。




END098


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「変わり果てた故郷」です。次話から第十四章「別離」になります。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


尚、ストーリーが終盤に近付いた事で、この後、投稿のペースが遅くなってしまう事があるかと思います。大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。


また、大変お手数ですが、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。

「いいね」のリアクションだけでも有難いです。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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