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ハッピーアイランドへようこそ  作者: たらみろ
▼第十三章:焦燥(夏休み)
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097:再びトキオへ


僕が田中美佳(みか)に会った日曜日の夕方、久しぶりに椿つばき叔母さんがやって来た。今回も彩人あやとくんと二人だけだ。


「もう、香澄かすみったら、お盆まで居れば良いのに、いきなり帰っちゃうんだから」


椿叔母さんは、ご機嫌斜めのようだ。飛行機は予約が必要なんだから、香澄叔母さんが帰ったのは「いきなり」じゃないと思うんだけど、そんなのは関係ないらしい。こうやって物事を自分に都合良く捻じ曲げてしまう所は、三姉妹そっくりだと思う。

その椿叔母さんは僕の茶髪を「意外とカッコ良いじゃない」と褒めた上で、今度は顔を覗き込んで来て、「何か、元気ないわねえ」と言い出した。『香澄叔母さんから、何か聞いてるのかも』と思ったけど、そうでもないようだ。


「悩みがあるんなら、優しいお姉さんに相談しなさい」

「大丈夫。昨日、田中さんに相談したから。それにアラサーは、お姉さんじゃないし……」

「もう、ひっどいなあ……。あ、その田中さんっての、樹くんの新しい彼女さんなんでしょう?」

「違うから」


椿叔母さんは、僕の塩対応にもめげずに、纏わりついて来る。萌香ちゃんならまだしも、アラサーは可愛くない。

しつこい叔母を適当にあしらっていると電話が鳴って、母さんが僕を呼びに来た。

そして、その電話が僕に新しい希望を与えてくれたんだ。



★★★



その懐かしい声が受話器から聞こえて来た時から、僕には何となく予感めいたものがあった。彼女は、半分、向こうの世界に行き掛けて、途中で引き返して来た女性。その彼女だったら、ヒカリ市に行く為の手がかりをくれるかもしれない……。


『香山くん、元気にしてる? 私、菊池里香。あなたの元担任教師でーす。入院生活って、超退屈でさあ。看護師さんに何度か文句を言ってやったら、昨日、担当の先生が、「そんなに元気だったら、退院させてあげますよ」と言ってくれたんだ』

「あ、あの、それって脅迫なんじゃ……」

『まあ、色々と解釈の仕方はあると思うんだけど、ちゃんと歩けて普通に生活できるんだから、別に退院したって良いじゃない。確かに、イライラする事はあるけど、薬を飲めば治まるんだし……。あ、そんな事より、香山くん、こないだはホントありがとね。あの日、香山くんが教室に来てくれなかったら、私もこの世界には戻れなかったと思う。あっちに居た時も幸せ(ハッピー)な気分ではあったんだけど、「何か違う」って感じが拭い切れなかったんだよね。それに、一日の内に何度か「私、これで良いんだろうか?」って思う瞬間があって、いつもは直ぐに忘れちゃうんだけど、あの日は、香山くんが教室で見せた何か怒ったような顔がずっと頭に残ってて……。あの夜、行動を起こして本当に良かった。私、ギリギリの所で幸せ(ハッピ-)の罠に絡め取られずに済んだんだもの。ホント、香山くんのお陰だわ』


リカちゃんは、いつも通りのリカちゃんだった。


「それとね、智哉ともやさんに引き合わせてくれたって事でも感謝してるのよ。あ、智哉さんって、金森かなもりさんのことね』

「先生、別に照れなくても良いですよ。金森さんと上手く行ってるみたいで良かったです」

『あ、うん、まあね。えーと、とにかく、香山くんの事よ。もう一度、何がなんでもヒカリ市に行きたいんだって?』

「えっ?」

『実は、青木さんに聞いたのよ。普通なら、絶対に「止めなさい」って言う所なんだけど、あいにくと私は、普通の教師じゃないんだよねえ』


どうやら麻衣の奴、僕には断わっておきながら、リカちゃんに相談してくれたらしい。そういう面倒見の良い所は、やっぱり僕らの委員長だ。


『そんでさ、ここは私が一肌も二肌も脱がなきゃって思った訳なんだけど、そんなに脱いじゃったら、ハダカになっちゃうもんねえ。私のハダカを見て良いのは智哉さんだけって訳で、彼に相談してみたの。彼、最初は猛反対してたんだけど、感謝しなさい。私の泣き落とし……あ、いや、説得に最後は折れてくれて、「できるだけ協力します」って言ってくれたの。そこでね、せっかく夏休みなんだし、香山くん、またトキオに出て来れないかなあ? 実は、金森翔太(しょうた)くんの家に泊まれるように、私から頼んであるんだ。それから、こっちに青木さんも来てくれるそうよ』


どうやら、既に金森さんや翔太まで巻き込んだ大掛かりな話になっているようだ。


『作戦は、こっちに香山くんが来てから話すわ。それ迄に、ちゃんと準備しておくからね。日程は早い方が良いから、今日か明日にでも返事を頂戴。場合によっては、香山くんのお母さんに私からお話しても良いけど……、そこは任せるわ』

「あ、いや、東京に遊びに行く話にしようかと……」

『うーん……、まあいっか。最悪、後でバレちゃうかもだけど、一刻も早く進めるには仕方がないのかな。もうすぐお盆になっちゃうし』


そうなのだ。今週末はお盆だから、できれば、その前に片を付けたい。

僕は、「取り敢えず、母に聞いてみます」と答えて、リカちゃんの新しい連絡先を確認してから電話を切った。

すると、直ぐに母さんが寄って来て、「菊池先生、何だったの?」と訊いてくる。


「菊池先生、一応、退院したんだって。それで、前の中学の友達……って、翔太と麻衣なんだけど、またトキオで会いたいって言ってるみたいだから、菊池先生の退院祝いって事で、僕も行って良いかなあ?」


リカちゃんの退院は、たぶん一時的なものなんだろうけど、母さんには、そのように答えておく。


「それって、金森さんにも会うの?」

「うん、そうなると思うけど……」

「じゃあ、せっかくだから、金森さんに何か持ってってもらおうかしら。前は随分とお世話になっちゃったものね……。で、いつなの?」

「麻衣の都合もあるから、早い方が良いって言うんだけど……」


思いがけず、すんなりと母さんの了解が取れてしまった。

僕は、突然、動き始めた新しい明日に、胸が高鳴るのを感じていた。



★★★



リカちゃんからの電話を受けた翌々日の火曜日、僕は独りで新幹線に乗った。トキオ駅のホームで青木麻衣と待ち合わせた僕は、一緒に待ち合わせ場所の翔太が住むマンションへ向かった。今の翔太は両親と三人で、2DKの賃貸マンションに住んでいる。僕は、翔太の部屋に布団を敷いて寝させてもらう事になっていた。

麻衣の方も翔太の家に行くのは、これが初めてらしい。こないだ僕が入院していた病院で会った時は、お姉さんの果歩かほさんの所に泊まったから、翔太の所には行ってないそうだ。


「この前は、本当に驚いたわ。翔太と樹くんの髪の毛が、茶色なんだもの」


普通はそんなに早くイルージョンの影響は出ない。もちろん、イルージョンの濃度が高かった場合、直ぐに見た目が変わってしまう事は充分にありうるが、あまり高濃度だと即死してしまうので、そこら辺は微妙なのだとか。それに、多少は濃度が低くても、体調や精神的ショックなどで、早期に症状が出る事もあるらしい。

僕や翔太のケースは、それらの両方なんじゃないかというのが、あの時、僕らを診てくれた山口医師の見解だった。

 

翔太のマンションで出迎えてくれたのは、翔太一人だった。翔太の母親の敏江としえさんはパートに出ていて、昼間は留守なのだそうだ。

それから五分もしないうちに、金森さんとリカちゃんが一緒に現れた。二人は、もうすっかり馴染みのカップルのように見えた。この短期間でここまで親しくなれたって事は、リカちゃんが相当に積極的なアプローチをしたんだろう。まあ、入院して退屈だったからかもしんないけど……。


そのリカちゃんの外見は、前回、僕がヒカリ市で会った時のままだ。つまり、完璧な金髪碧眼で色白の肌。それでも、前よりは幾分、痩せすぎが解消し、青白かった頬も普通に戻った気がする。

問題は体調の方だけど、外見とは違って、本当に症状の方は軽かったって事なんだろうか? 僕には、父さんよりも軽い症状だとは思えないんだけど……。


「どうしたの、樹くん?」

「あ、いや、菊池先生の外見が、ヒカリ市で見た時のままだったんで、本当に退院しちゃって大丈夫なのかなあって」


僕の疑問に答えてくれたのは、金森さんの方だった。


「あはは。樹くんの言うように、僕も退院には反対したんだ。実際、山口医師は最初、『一ヶ月は入院して、リハビリと経過観察が必要です』って言ってくれてたんだからね」

「だからー、そんなの、データを詳細に取りたいってだけなんじゃないの。私はもう大丈夫。ほら、ほら……」


リカちゃんが、いきなり飛び跳ねてみせる。いくら体重が少ないとはいえ、古いマンションなので、ドンドンと響く。

「ちょっ、ちょっと先生。下の人に迷惑なんじゃないですか?」と僕が言うと、金森さんが、「もう、あなたという人は……。これじゃ樹くんと、どっちが教師か分からないじゃないですか」と窘める。それでリカちゃんがバツの悪そうな顔をしているので、僕らは近くのファミレスへ移動する事にした。もうすぐ昼食の時間だし、どのみち翔太のマンションは、少し狭いと感じていたのだ。

マンションを出る前に、僕は忘れないうちに母さんから預かったお土産を金森さんに渡し、リカちゃんには一緒に食べて下さいと言っておいた。それと、もうもうひとつ同じ物を翔太にも渡しておく。中身は和菓子と、名古屋飯の何かだ。一応、聞いた気がするけど、興味が無かったから忘れてしまった。


移動中、リカちゃんと金森さんの二人は、当たり前のように隣り合って歩いている。その姿を後ろから眺めながら、麻衣がポツンと、「あんなにリカちゃんの幸せそうな顔、私、初めて見たかも」と呟くのを聞いた。

リカちゃんがハッピーアイランドを出て掴んだ幸せ(ハッピー)は、イルージョンによる偽りのものとは違っているようで、本当に良かったと思う。


そして、ファミレスで少し早めの昼食を食べながら、僕はリカちゃんの考えた作戦を初めて聞かされたのだった。




END097


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「潜入作戦」です。次話から第十四章「別離」になります。

できましたら、次話も引き続き読んで頂ければ幸いです。


尚、ストーリーが終盤に近付いた事で、この後、投稿のペースが遅くなってしまう事があるかと思います。大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。


また、大変お手数ですが、ブックマークや評価等をして頂けましたら励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。

「いいね」のリアクションだけでも有難いです。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:ローファンタジー)


銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~

https://ncode.syosetu.com/n9786lf/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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